エピローグ 国家侵略
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ニュース速報
米国大統領、SNS上での「日本攻撃」発言を訂正。日米の恒久和平を改めて強調。
米国大統領と日本国首相の電話会談
『今回の件、一時は大ごとになってしまったが、無事解決したな!まったく、少しSNSで発言するだけでこれだからな。マスコミはどれだけ暇なんだか!君の国もそうだろう?』
『大統領のお気遣いに感謝申し上げます。ところで、回収した宇宙人の死体の管理権限は……』
『全部BLUEの権限だそうだ。ホワイトハウスとしても、それに異を唱える気は無い。特に君たちは、一度彼らに隠し事をしただろう?ここは一つ、快く提供したまえよ』
『はぁ、まぁ……全て話が表に出ないならどうとでも』
『そっちもそろそろ選挙だろう?お互い、頭を切り替えて臨むことだな』
『大統領の再選、願っております』
『こっちは余裕だよ!がははは!!』
陸上自衛隊幹部●●氏のある日の言動
「全て隠蔽せよ。本件は全てBLUEの管轄となる。もちろん、BLUEの名前も表に出すな。いいな?東京湾ヘリ墜落は訓練中の事故だったと押し通すんだ。情報漏洩?ふん、そんなものは公安にでも処理させておけ。こっちは隊内のかん口令でてんてこ舞いなんだ。くそっ、上官どころか“お上”の言いなりは、軍隊の常だな……」
BLUE最高評議会宛て『ホシフリ・レポート』より一部抜粋
――(中略)――端的に記載するところ、星降舞依には宇宙人との関連が認められなかった。日本警察の不審な動きから、私は宇宙人案件の隠蔽行為と推察して動いたが、証拠を掴むには至らなかった。よって星降一家の誘拐は人間の犯罪行為と判断せざるを得ない。――(中略)――自衛隊が回収した宇宙人の死体、及び墜落した宇宙船の部品は、ドイツ領内の第4研究所に移送。激しい損壊は発見時からであり、恐らく自衛隊の攻撃に巻き込まれたためと判断する。なお、この宇宙人が一体どのような理由で地球に来訪したか、理由は定かではない。――(中略)――その他宇宙人の来訪を示唆する証拠は見つかっていない。よって、今回宙海学園を急襲した件、米国大統領を動かした件、これ等に関しては、私の暴走行為というそしりは免れないだろう。しかし日本政府の隠蔽行為を明らかにし、宇宙人の死体『ツノツキ』を手に入れることが出来た点に関しては、大きな成果である。評議会の寛容な処遇を期待する。
文責:エージェントコード『ゼニス』
月刊『アトランティス』特集記事
自衛隊機墜落事故の真実――それは宇宙人との戦闘だったのか?(一部抜粋)
現在では専ら「訓練中の事故である」と公式発表されている自衛隊ヘリ墜落事故だが、編集部はその陰にうごめく知的宇宙人の存在を突き止めた。――(中略)――●●埠頭周辺では「青い光」「空に浮かぶ円盤」「赤い光線」など、超常現象を示唆する目撃証言が相次いでいる。――(中略)――そしてついに編集部は一枚の写真を手に入れた。これはヘリ墜落事故当日、近隣埠頭内の作業員が偶然撮影したものである。(青い光で倉庫を焼くUFOの写真が掲載)
※この記事が公開されてから数日後、月刊『アトランティス』は無期限の休刊が決定する。その理由について出版社は、コメント出来ないと繰り返すばかりである。
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国内世論の喧騒は、ようやくなりを潜めつつあった。日本と米国の外交問題は解決し、自衛隊ヘリ墜落事故についても、一部の政治家や活動家の空しい言論だけを残し、一般大衆の関心の的ではなくなっていた。
だからだろうか。東京都赤坂にある某料亭の玄関をくぐる人物たちの表情は、カナコ曰く「あまりに気が抜けている」とのことだった。私は料亭内で襖の向こう側から、彼らの声だけを認識しているわけだが、その声色からもカナコの言が正しいことが窺い知れる。
「喉が渇いたね。先方はまだだが、先に一杯頂こうか」
呑気に盃を交わしているであろう2人の雑談を聞きながら、私は目の前の男に目配せをした。
「承知しました。マクニール様」
私たちは立ち上がって、襖を開けた。
「ご足労に感謝しますよ、総理」
「ゼニス。今なら対等な立場で話が出来そうだな」
日本国首相の目が一瞬、ただの初老の男性から政治家、あるいは謀略家のそれに変わる。
「よくも、まぁ……色々と面倒をかけてくれたね。かの国まで動かして」
「フヒっ。その謝罪も兼ねて、この席を長官に用意してもらったんだ」
首相と共にやって来た男――警察庁長官はしかめ面で頷いた。
「で、そちらの少年は?」
「おや、長官からお聞きでない?」
ゼニスのからかうような視線を受けて、長官の渋面は更に強張っていた。
「君が直接、総理に説明したまえ」
「追ってお話しするが、私のパートナーだと考えて頂ければ今は結構」
ゼニスと私は首相たちの正面に腰を下ろす。
突然、個室内が緊張感に満たされる。首相が空になったビールグラスをテーブルの端に押しやった途端であった。
「BLUEに対して情報を一部開示しなかったことは、我が国の警察組織の一部の独断だった。しかし政府の最高責任者として、改めてお詫び申し上げる。しかし今回の騒動、つまり君たちBLUEの横暴によって国民の安全が脅かされたことは事実だ」
「それはこちらの落ち度だ。各国政府がBLUEの活動に協力することは大原則だが……今回は少々越権行為に当たると認識している。よって10年前の隠蔽行為と併せて、手打ちということでどうだろうか?」
首相は値踏みするようにゼニスを見つめた後、長官に命じて一枚の紙をテーブルに滑らせた。
「これは我が国からBULEへの贈り物だ」
私もその書面に目を通す。それは10年前、山中で発見された星降舞依の身体検査の結果の一部だった。
「君たちBLUEがどう判断しているかは知らんが、我が国は彼女の正体を掴んでいる」
「彼女が、普通の地球人ではないと?」
ゼニスの問いに、長官は無言で同意した。
「然るべきタイミングまで彼女は放置するつもりだったが、今がその時だろう。君たちBLUEが彼女を確保したいのなら、私は構わないと思っている」
「それは総理……善良な国民一人がある日突然姿を消し、どんな扱いを受けていたとしても、一切関知しないと?」
「もっと言えば、後処理等含めて協力するつもりだよ」
「その見返りとして、日本国は何を望む?」
「引き渡した宇宙人の死体――コードネームは“ツノツキ”だったかね?その返還を要求する」
「早い話が、今回見つかった宇宙人について情報共有しよう、ということだねェ?」
ゼニスは大きなため息をついて、天井を仰いだ。
「そうまでして、アメリカを出し抜きたいかねェ」
「日本の“戦後”を、早く終わらせたいのだよ」
「……もっとスケールの大きい話をしましょう」
ゼニスはもったいぶった動作で、私の方に正面を向けた。
「長官には事前にお伝えしていますが……彼は我々BLUEのパートナー。いや、救世主と言うべき存在です」
「……いや、まさか……!」
しばしの沈黙を経て、首相は悟ったようであった。
「彼は正真正銘の宇宙人。宇宙の遥か彼方から人類を、いや地球を救いに来た存在なのです」
首相は震える指先で、テーブルの板を数回叩く。
「にわかには、信じられないな」
「地球人に似ているでしょう?血液を採取すれば、地球人とは別種だと分かりますよ」
ゼニスから会話を引き取った私は、首相と長官に向けて自らの計画を説明することになった。
「――つまりゲルマ星人の移住と引き換えに、地球を環境破壊から救う技術を提供してくれる、ということですか?」
いつの間にか私に対して敬語を使う首相に、私は続ける。
「地球の環境は、崩壊に向けて進んでいます。あなた方地球人が、我らゲルマと同じ運命を辿らぬよう尽力するつもりです」
「そこで、人類とあなた達ゲルマの架け橋を、日本に委ねたいと?」
「そうです。あなたには、あなたの国にはそれができる。共に地球を救いましょう」
私は右手を差し出した。
「地球のために」
首相は目を閉じて、数度首を縦に振った。
「ええ……本当に、本当に、今日は素晴らしい機会に恵まれました」
襖の向こうから、足音が迫る。
「しかし残念だが」
襖が一気に開かれる――
「素晴らしすぎる話は、最も信頼出来ないのが常でね」
首相の背後に、銃を構えた人物が立っていた。首相も長官も、振り返らぬまま自信満々にこちらを見据えていた。
「ゼニス、君の言動は怪しい。宇宙人抹殺を是とするBLUEが、宇宙人を連れて来て救世主呼ばわりなど……あまりにもおかしい」
「私がBLUEを裏切ったとでも?」
「君はそこの宇宙人に操られているのでは?BLUEの人間なら私をここに来させられると踏んだのだな」
首相は、勝ち誇った笑みを私に向けていた。
一方で、急に背後に注意を向けた長官の顔からは、表情が消えていた。
「宇宙人の身柄はBLUEに引き渡す」
「BLUEへの手土産、いや貸しにでもする気かい?」
「人間としての義務を果たすだけだよ」
勿体ないことだ。その頭脳を地球人同士の小競り合いではなく、もっと建設的な目的のために活用すべきであるのに。
「いや……あなた方政治家は、些末な権力闘争に特化しているだけですね」
「何か言ったかね?宇宙人」
「ええ。愚かな指導者は、やはりこの星から駆除すべきです」
「この私に向かって、生意気なことを――」
「そ、総理……」
「何だね、長官!」
「う、後ろ……」
「SPがどうか――」
首相の顔面が、一瞬にして脂汗まみれとなった。
「き、きみ……誰?」
「レオルさま。彼らが連れてきていたSPは、全て無力化しました」
カナコは銃で、首相の後頭部に触れた。ゼニスも呼応し、悠々と長官に銃を突きつける。
そして私は首相の目の前に立つ。震える彼の脂ぎった頭に触れた。許しを請うような視線が、私に注がれていた。
「こ、この狂人が……何故、宇宙人のために?」
「ゼニス自らの意思ですよ。彼は元々、同胞には心底尽くすタイプのようです」
リ=メモリアによって、ゼニスには自らをゲルマ星人と記憶した新しい人生を与えた。
「そして首相。あなたにも、沢山働いてもらいますよ。ゲルマの手駒として」
私が持つのは、人の記憶を捻じ曲げ、人生も人格も何もかもを一変させる非道な力。
それを、私は使い続けるだろう――ゲルマのためならば。
「や、やめろ……私はこの国の――」
「リ=メモリア」
こうして日本国の最高指導者は、わが手に落ちた。
次回、最終回です。




