来る
4人の特殊部隊戦闘員は倒れて身動き一つ無い。
足元でうつ伏せになったゼニスはわずかにもがいているが、彼の腕から注入された麻酔が意識を奪うまで間も無い。
「星降さん、ご協力感謝します。それにしても、演技がお上手ですね」
「ち、違うよ!レオルくんの演技が凄かったから、本当に自分が差し出されるかもって……」
「事前に打ち合わせていたでしょうに」
私は右目のコンタクト端末の録画機能を一度切る。
その瞬間、カナコが能力を解いて姿を現した。自分の身体、及び触れている物体を一時的に“透明化”する能力――サーモグラフィーや電磁レーダーでも存在を追えなくなるほどのステルス性能は、非常に便利な能力だ。
「カナコちゃん、本当に透明人間みたいだね」
「星降舞依。さっきも言いましたが、私のこの力は『インビジブル=マン』といいます。レオルさまに名づけて頂いた、格好良い名前があります」
「カナコ……余計な情報です」
「小さい頃のレオルさまが自信満々につけてくれたのです。きちんと言わせて下さい」
顔面が火照るような妙な感覚を覚えるが、それはさておき。
「あぐ……があ」
麻酔は全身に回っているはずだ。だがゼニスは腕を震わせて、今にも上体を起こそうとしていた。その強靭さ、いや諦めの悪さは一体どこから湧き上がってくるのだろうか。
「出て……い、け」
「我々は何も、地球人を皆殺しにするつもりはありません」
「だ、まれ……ケダモノ、害虫……!!」
眼を剥いたゼニスの顔面は、途方もない恐怖に震えていた。彼はまるで、未知の怪物を前にしたように、私の存在を全身で拒絶していた。だが幾ばくもしない内に、私に手を伸ばしたまま意識を失った。
「レオルさま、彼はどのように利用するのですか?」
「……全ての記憶を書き換えます」
私は膝をつき、ゼニスの頭に触れる。
「生まれてこのかたの記憶を全て消し、『自分はゲルマ星人だ』と思い込むような記憶に書き換えます。彼は同胞のため、全力で地球侵略に加担することに――」
『レオル!急いで離脱しろ!!』
インカムから、グラハムの大声が耳を突いた。
私は動きを止め、立ち上がる。
「自衛隊の援軍ですか?」
『こちらも、それに自衛隊も、壊滅してる!……あれは、何だ?!』
グラハムが普段の冷静さを失っている。
何が起きている?
『ぐあぁぁ!!!』
耳を刺すような高音、グラハムの叫び、爆発音。
爆発音はインカムどころか、倉庫の外からも聞こえてくる。
「グラハム」
応答は無い。
「レオルさま、脱出を――」
カナコの言葉が途切れる。彼女と、そして星降の視線が、倉庫の小さな窓に奪われていた。
「青い……光……」
銃を向けられても取り乱さなかった星降が、歯をがちがちと鳴らしながら座り込む。
「いやぁっ!!」
星降の豹変に構っている時間はなかった。空気を揺るがせるような低い機械音が唸り、徐々に近づいて来ているのだ。
「来ないでっ!!!」
星降の悲鳴と共に異変が起きる。倉庫の天井の一部分がオレンジ色に発光し始めたのだ。その円型の光は間もなく、とてつもない熱気を放った。
「二人とも、こっちです!」
だらしなく動かないゼニスを引っ張りながら、カナコたちを呼ぶ。
カナコが星降を立たせようと腕を引いたが、遅かった。
天井がどろりと溶かされ、高温の泥のような残骸が地面に向かって落ちてくる。冷たい地面が熱で焼かれて煙が上がる。カナコたちの姿はあっという間に煙の向こうに消えた。
「いやぁぁぁっ!!!!」
星降の悲鳴。しかし熱気で近づくことが出来ない。
「レオルさま!」
かろうじて一人飛び出してきたカナコが、私を押し倒した。
その瞬間に煙の向こうから火の手が上がる。
そして、青い光が炎に降り注いでいた。
「“あれ”は……どこにいる?」
光の柱をゆっくりと降下してくる異形の影。
その声には聞き覚えがあった――ゼニスの密偵が、死に際に録音した何者かの声だ。
そして天井が融解した穴の向こうには、青い光を放つ円形の飛行体が浮かんでいる。
地球人はあれを“UFO”と呼ぶ。




