表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生からはじめる地球侵略  作者: 佐馴 論
第4章 青い光の誘い
26/36

決着

 深夜0時前。埠頭を抜けて行く海風は、心地良さを通り越した冷たさだった。

 目の前の古びた倉庫が、ゼニスとの対決の場である。こういった秘密会合に備えて同胞が買い取っている場所だが、倒壊しないように最低限のメンテナンスしかされていなかった。


『航空戦力は確認出来ていない。地上部隊からも、特に異常は無いとのことだ』


 離れた場所から指揮を執っているグラハムの声が、淡々と私のイヤホンから響いた。


『本当に良いのか?倉庫内はお前のコンタクトを通して映像を見られるが……何か問題が起きても、こちらから即応出来ないぞ』

「大丈夫です。邪魔が入らないように、警備をお願いします」

『了解した』


 私が電話を切ろうとすると、グラハムが制止した。


『落ち着いたら、旨い物を食わせてやる』

「それは楽しみです」

『地球のごちそうは、10年で色々勉強したからな』


 息を吐き出す音。グラハムは、また煙草を吸っているらしい。


「禁煙した方が、食事が美味しくなると聞きますが」

『はは。これはなかなか止められそうにない』

「カナコが嫌がりますよ」

『そう言われちゃ、悩むところだね』


 彼の軽口を最後に、通話は終わった。


「さて星降さん、用意は良いですね?」


 色あせて錆びた扉を前に、後ろの星降に振り返った。

 深呼吸一つ、そして星降は頷いた。

 そして私は前に向き直り、扉をゆっくりと、開いた。




   **************************




 朽ちかけの倉庫の扉を前に、ゼニスは口の端を歪ませた。

 数分前に自衛隊の偵察ドローンが捉えたのは、二人の人物が倉庫の中に入っていく瞬間だった。そのうちの一人は、星降舞依だった。彼女はまるで自分の存在を知らしめるように、夜闇を一度だけ見上げていた。

 ゼニスは扉に手をかける。彼に続き、5人の特殊戦闘員がなだれ込む。自衛隊特殊作戦群から選び抜かれたエリートたちは、均整のとれた動きでターゲットを包囲し、自動小銃を一斉に構える。


「おや。キミたちは約束通りの丸腰かね」


 星降舞依ともう一人、ヘルメットを被った人物が彼女の隣に立っている。


「こちらは少々、約束を破らせてもらったよ」


 所属不明の戦闘部隊が倉庫周辺に展開していることは、自衛隊からの報告でゼニスの知るところだった。もちろん自衛隊のチームはそれに応じて出動し、敵とにらみ合いの形となった。

 しかし肝心のゼニスと少数の精鋭部隊は、別のルートから潜入を試みていたのだ。

 愚かな宇宙人は、人間を舐めすぎだ――ゼニスは満足げに、ほくそ笑んだ。


「互いに武器を持たない。それが条件だったはずでは?」


 空しく響く声は、ゼニスが宙海学園で耳にした少年の声に他ならなかった。冷静な声に混じる焦りの色は学園では感じられなかったが、それも当然だとゼニスは考える。

 戦闘の気など無かったのか、目の前のターゲットはいかにも学生といった私服姿だった。頭部を覆うヘルメットだけは、この場にふさわしい物ではあったが。


「こちらは話し合いに来たのです」


 彼の隣で、不安げに佇む星降舞依。動揺して悲鳴を上げてもおかしくないのに、とゼニスは訝ったが、学園での騒ぎを経て感覚が麻痺しているのだろうと納得する。


「我々人間が、下等な君たちとの約束を守る必要は無いんだよ」

「私たちとて、知的生命体です。おそらく地球人よりもずっと高度な」

「一丁前に言うものだ!」


 ゼニスはアタッシュケースを地面に落とし、『クイーン』を構えた。そこから解き放たれる自動飛行型攻撃機『ナイトレイド』3機が、ヘルメットの少年と星降舞依を囲む。


「そんなっ!」


 星降が、少年を庇うように前に出る。


「不死身の化け物とはいえ女性を盾にするとは、男前もいいところだねェ」

「ゼニス、あなたを地球人の代表と見込んで話します。私たちが地球に来た理由は、侵略戦争ではありません。地球と地球人に役立つ技術や知識を提供する代わりに、生活環境を分けて欲しいだけなのです」

「人間がそれを認めるとでも?」

「そうです。高度な知識と技術は、地球の平和にも必ず繋がります」


 ゼニスは、ヘルメットの向こう側にどんな顔があるのか想像した。

 そしてゆっくりと、ナイトレイド3機に攻撃態勢を取らせた。彼の左右と前面に浮かぶそれらは、ゼニスの指一つでターゲットを蜂の巣に出来る。


「人類の争いを止める方法は、もうとっくに知っている」

「……共通の敵、ですか」

「そうだよ。暴力も、醜い感情も、決して無くせない。だからキミたちのような存在が必要だ。人類の持つマイナスエネルギーの受け皿として!」


 彼の思いは、長年一つ――この世界から、戦争を無くしたかった。彼は歴史から、人間の愚行を強く学び取った。つまらない諍い、小さな利己心、ちっぽけなプライド――そんな取るに足らない物事が、多くの人を殺し、文化を破壊してきた。

 それを少しでも止めるため、彼は諜報の世界に足を踏み入れた。争いは無くせなくとも、血が流れることだけは阻止したい。そんな願いが彼を英国MI6の優秀なエージェントに仕立て上げた。

 だが彼がいくら尽力しても戦争は起こり、血は流れた。

 彼自身も、人を殺した。

 人類の平和は、彼にはあまりに遠すぎた。


「だが私たちは、ようやくまとまることができる」


 MI6を経て、BLUEという組織に加わった彼が見たのは、どうやっても自分がたどり着けなかった“解決策”だった。


「外来種討伐という旗印の下に、争い合う人々は手を取り合える。アレクサンドロス遠征軍、中世十字軍は、突如現れた異形を討伐することが本当の目的だった。宇宙人に操られたヒトラーに対抗するため、超大国同士が共闘することもできた!そして今!迫る脅威に対する一致団結の意思は……BLUEという組織に結実した!!」

「そんなものが、あなたの理想ですか」

「理想は追わないよ。最も現実的な着地点を目指すだけさ」

「交渉の余地は、無いということですね」

「まさかとは思うが、星降舞依を差し出せば自分だけでも逃れられると思ったかい?」

ゼニスが、特殊部隊に合図を送る――ターゲット2名を確保せよ。

「……我々を受け入れれば、地球の更なる発展がもたらされたはず」

「人間ではない気持ちの悪い化け物など、受け入れられないだろう?」

「……結局、理由はそんなところですか」


 少年が、声を漏らす。

 しかしそれは、絶望に染まった声ではなかった。


「地球人は、もっと合理的であるべきです」


 突如、ゼニスは激しい眩暈に襲われていた。彼だけではない。4名の隊員たちも突然ふらつき、やがて倒れる。ぼやけたゼニスの目は、彼らの腕に刺さった注射器を捉えていた。

 いつの間に?どこだ?どこかに敵がいる。

 何故、クイーンは感知しない?

 かろうじてゼニスの視界に入ったナイトレイドの1機が、銃弾を受けたように火花を放って撃ち落とされる。この倉庫内は、外部から狙撃出来ないはずなのに。


「くっ!!」


 ゼニスは残ったナイトレイド2機をクイーン本体に帰還させ、地面を蹴った。立ち止まれば撃たれる――その一心で彼は走った。そして彼の肉体が、背後の気配を察知する。反射的に振り回されたクイーンが、固い何かに衝突した。

 彼の目の前には見知らぬ少女の姿があった。彼女はアーミーナイフの刃で、クイーンの一撃を受け止めていた。


「どこ、から――」


 ついにゼニスは身体の痺れに耐えかね、受け身も取れずに倒れた。

 地面に横たわる彼に見えるのは、もはや一歩一歩近づく少年の靴だけだった。


「その道具が視覚情報でしか追尾出来ないことは、学校での一件で予想がついていました」


 ゼニスの手から、クイーンが取り上げられる。無様に放り投げられたそれは、がしゃりと音を立ててコンクリートの地面に転がった。

 ――あの小娘は、透明人間だったのか?私が話している間に、不可視の何者かが注射器で我々を刺し回ったのか?


「星降舞依を渡す気など――いえもっと言えば、あなたのような理性に乏しい相手と話し合う気など、こちらには全くありません」

「く、くそ――」

「あなたのことは利用させてもらいます。BLUEを無力化するために」

「ふ、ざけるなぁ!!!」


 渾身の力で動くのは、ゼニスの口だけだった。


「地球は……壮大なアクアリウムだ。この美しさを……貴様ら、外来種に食い荒らされて、たまるか!!」

「凝った喩えですね」

「出て行け……地球から……出て行け……」

「このアクアリウムは、今後私たちゲルマ星人が適切に管理します」


 その後もゼニスは口を動かすが、その意識は徐々に遠のいていく。

 やがて、ほんのわずかに残った意識の向こうで、ほんのりと青い光が見えてくる。

 ――小さい頃に図鑑で見た、青い星。

 ――私たちの住まう、美しい星。


   ***************************



次話短いですが……重要な回ですのでご容赦を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ