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高校生からはじめる地球侵略  作者: 佐馴 論
第4章 青い光の誘い
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決戦を前に

 23時、東京湾に浮かぶ埠頭に連なる倉庫街。星降舞依と私は、黒いバンの後部座席にいた。車窓の向こうでは、人気の無い倉庫がいくつも並び立ち、重機とコンテナの群れが暗闇に浮かび上がっていた。

 星降は私の方は見ず、窓ガラスを通して東京湾の暗闇を眺めていた。


「あなたの言う通りにすれば……全部、解決できるんだよね?」

「そうです。星降さんの決断のおかげで、全てが丸く収まります」


 黒い窓に映る星降の表情は、ぼやけて見えなかった。

 星降の存在は、必ずゼニスを誘き出すだろう。

 ただし懸念事項が、一つだけある。

 相対する敵は、ゼニスだけか。それとも――


 

―――――――

―――――

―――約14時間前。

『アメリカ大統領の宣戦布告発言に際し、非常事態宣言が布告されました。日本国内主要都市では避難勧告をが発令されています。住民の皆様は避難場所の確認、緊急避難に備えた準備をお願いいたします』


 カナコに対ゼニス作戦を打ち明けた直後、東京都が発する緊急放送が街中に響いていた。外部情報がシャットアウトされていたセーフハウスの星降にも、当然この放送は聞こえていた。


「行かせてっ!!」


 私はもちろん彼女の行く手を塞いでいるが、星降は今にも私を押し倒して行ってしまいそうな剣幕であった。


「私にだって分かるよ!あのゼニスって人だよね?あの人が仕組んだことなんでしょ?このまま私が隠れているせいで……もしこの国に爆弾なんて落ちたら……」

「星降さん、落ち着いて下さい。敵はそんなこと望んでいません。冷静に考えれば分かります」


 今の言い方がまずかったのか、星降が私に掴みかかる。予想を超えた力だった。


「私、行くよ」

「駄目です。これからゼニスとの交渉の準備をします。あなたの協力次第では、事態を収束出来るはずです。だから待っていて下さい」

「あなたの言葉は……信用できない」

「そんなに気に入りませんでしたか?私の地球侵略計画が」

「絶対に許せない!」

「……言っておきますが」


 私は右手に意識を集中させた。


「私は、あなたの信用など考慮する必要はない。無理やり従わせる方法があります」

「私、傷はすぐ治っちゃうよ。手足切られたって、きっとすぐに動けるもん。マクニールくんには、従わない」


 いつの間にそんな肝が据わったのだろう。自分の身体の異常を利用して私を脅すとは。いや思えば彼女は、学園からの逃亡を提案した際にも全く聞き入れなかった。自分の目的や考えへの執着が強い――言い換えれば相当な頑固者と言える。

 やはり、リ=メモリアを使って従わせるしか――


「何も言ってくれないなら、私ここを出て――」


 私は黙ったまま、彼女を思い切り突き飛ばす。後方の壁に彼女を押し付け、私から離れられないようにした。


「あなたの身柄は、私のコントロール下にあることを忘れないで頂きたい」

「っ!!」


 星降は一瞬、恐れを示した。しかしすぐに、息がかかる程の距離で私を睨みつける。


「怖くなんて無い。あなたには心が無いから」


 彼女の瞳が、真っ直ぐに私を捉えている。


「だから、あなたは強くない。何もできない!」

「恐さも強さも、私には必要ありせん」


 星降の頭に、手を――


「や、やめて!」


 伸ばした右腕が、星降の凄まじい力で弾かれた。


「え――」


 次の瞬間、私の身体は後方に吹っ飛んでいた。廊下に通じるドアが開いていたため、私の身体は7畳のリビングから廊下を抜け、玄関に転がる羽目になった。

 痛い……弾かれた右腕が異常に腫れている。床にぶつけた鼻からは血が出ているようだ。


「ま、マクニールくん!?」


 そして私に怪我をさせた本人は、両腕を前に突き出したまま固まっている。恐らく私は、情けない顔で彼女を凝視していることだろう。


「レオルさま!」


 異変に気付いたカナコが玄関の扉を開けて駆け込んできた。


「一体、何が」


 カナコは銃を構え、星降に狙いを定める。私は動く左手で銃口を遮った。


「だ、大丈夫です」

「どこがですか!指が折れて……それに綺麗なお鼻まで!」

「肩も、脱臼したかもしれません。とにかく、痛い」


 カナコが急いで持って来た緊急医療パックは、非常に優秀であった。脱臼自体はカナコの力技で関節を元に戻したが、それによる損傷は湿布剤に似た形状の『再生テープ』によって瞬時のうちに治療できる。痛みもあっという間に引いた。ゲルマ星の科学力にこれほど感謝したのは初めてかもしれない。

 その間、星降は放心状態で両手を見つめたまま、部屋の端で佇んでいた。

どうやら、再生能力だけではない。星降はあらゆる傷に強いだけでなく、身体能力自体も著しく向上しているようだ。並の女性の力で、ここまで怪我を負わせることなど出来ない。


「本気を出してどこまでの力になるか、見てみたいものです」

「星降は危険です。すぐに――」


 カナコを、私は星降に徐々に近づいた。


「本当に、ごめんなさい!!あの、私……」


 敵意は感じない。先ほどは反射的に身を守ったに過ぎないのだ。


「これ以上怪我をしたくありませんから、作戦の詳細を教えます。その説明をもって同意を頂きましょう」

「レオルさま!彼女の意思を尊重する必要はありません」


 怒り心頭のカナコを引っ張り、そっと耳打ちする。


「カナコ、あまり彼女を刺激しない方が良い。まだ力の使い方は分かっていないようですが、反射運動だけで我々は殺されかねません。さっきの私のやられ様、見たでしょう」

「私なら負けません」

「私だってそれなりに鍛えています。母星では戦闘訓練を欠かさずに――」

「どの口が」


 カナコが私の右腕を叩く。まだ残っていた痛みに苦しんでいる内に、カナコが星降の前に立っていた。


「星降舞依。レオルさまの言う通りにしなければ、あなたにも、この国にも先は無い。それでも従えないなら――」


 突如カナコの手の中に現れるアーミーナイフ。その切っ先が、星降の眼前に突き付けられる。


「私は容赦しません。私の命を懸けて、お前を殺す」

「……カナコちゃんは、どうしてマクニールくんに従えるの?あの人のやり方は――」

「合理的な説明で納得できないなら、教えて差し上げます」


 カナコが何やら星降の耳元でささやいている。私には内容は聞こえなかった。しかし星降は何も言い返さず、カナコが部屋を出て行くのを呆けた様子で見送っていた。

 そして、少し頬を紅潮させながら、星降の視線が私に戻ってきた。


「……さっきは、本当にごめんなさい」

「いえ。先に手を出したのは私ですから」

「あの……あれだけ言っておいて、なんだけど……マクニールくんのやろうとしていること、教えてもらえる、かな?……きちんと、考えて答えるから」


 星降の頑なな態度が多少、いや相当に和らいでいる。一体カナコに何を言われたのか、思わず星降に尋ねてしまった。


「それは。その、秘密だよ」

「……そうですか」


 私はそれ以上聞き及ばず、作戦内容を逐一説明した。ゼニスを誘き出す場所、こちらが配備できる戦力、ゼニスを無力化する方法など含めて事細かに、だ。手荒な真似をせずに星降の協力を得るためなら、やむなしである。


「……分かった」


 星降は数度頷いた。


「信じるよ。マクニールくんの言う通りに、してみる」


 本当は、懸念事項が一つだけあるのだが……これは星降はおろか、カナコやグラハムにも話し

ていない。あまりに突飛な考えのため、今は誰にも言えない。証拠を集めてからだ。


「一度休憩にしましょう」


 私はグラハムが差し入れてくれたドリップコーヒーを2杯分、用意した。私たちは床に座り、簡易テーブルを挟んで向き合う。


「えっと……ありがとう」

「珈琲はお好きですか?」

「あ、うん」


 しかし依然として、星降は受け取ったカップに口を付けなかった。

 代わりに、彼女は意を決したように一息つき、言った。

「マクニールくんが、カナコちゃんのお父さんを殺したって……本当なの?」

「……カナコに聞いたのですか?」

「ううん。昨日シャワーから出た後、3人の話を……その、盗み聞きしちゃったの」

「抜け目の無いことで」

「最初は聞き間違いだと思ってた。でも……本当、なの?」

「……ゼニスとの対決は、あなたが私やカナコを信用出来るかにかかっています。そのためなら、お話しますよ」


 私は、カップをテーブルに置いた。


「結果的に……私は、カナコとグラハムの父親を殺したことになります」


 息を呑む星降に対し、私は続けた。




次回はレオルの過去とその秘密が明かされます。

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