来訪者
短いので、今日は何話か上げたいです。
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ゼニスは心臓の高鳴りを感じながら、夜の新宿・歌舞伎町を早足で抜けて行った。彼が雇っていた探偵から、緊急アクセスがあったのである。
暗い路地に入ると突然、雑踏が消える。彼はネオンの光も届かない雑居ビルの前に立っていた。錆びた鉄製のドアを開き、足元の見えない階段を上った。
ビルの3階に構えられた探偵事務所の扉はわずかに開いており、そこから白い光が漏れている。しかし室内に何者かが潜んでいる気配は皆無だった。ゼニスはジャケットの内側で拳銃のグリップを握りながら、空いた左手でその扉を静かに引く。
光源は、事務所の一番奥のデスク上に備えられたスタンドライトだった。だが視覚情報よりも先に、煙草の臭いに混じった異臭が彼の鼻をつく。
やはり室内には誰も居なかった。
その代り、床に倒れた血まみれの死体だけが転がっていた。胸部に拳大の穴が空き、そこから広がった血は茶色くなって凝固している。凄惨な死にざまであったが頭部は無事であった。ゼニスはその死体が何者だったか認識できた。
死んでいたのは、星降舞依の尾行のためにゼニスが雇った探偵であった。
彼は、それ以上死体に目をくれずデスクに近づいた。尾行レポートが書きかけで残されている。昼前から星降舞依が一人で外出したことが記されているが、途中で終わっていた。
ゼニスはレポートをそのままに、腕時計を確認した。
「さぁて……尻尾を掴ませてくれるか――」
その腕時計型の機器には『クリスティ』という名前が与えられていた。デジタルの文字盤はすぐにコンパスのような表示に切り替わり、アラート音を鳴らす。表示された矢印の方向に、ゼニスは一歩、また一歩と移動する。素通りしてきた出入り口付近で画面が緑色となる。彼の足元には血の跡があった。位置関係から、それが探偵のものではないことは明白だった。
しかしゼニスはクリスティの性能によって、それが何であるかを分かっていた。クリスティは、ゼニスの所属するBLUEの中でも特に選ばれた少数のエージェントが所持している。
クリスティは、地球上に存在しない未知の物質を検出する装置なのだ。例えば、宇宙人の血が地球上に無い物質を含んでいれば、即座に感知するのである。
「ここに来たな……汚らしい外来種め」
彼は鞄から清潔な白い布を取り出し、血の跡を拭う。かすかに赤黒い汚れがついた布を、彼は丁寧に畳んでビニール袋に詰めた。
「フヒッ!私の思った通りじゃないか」
ゼニスは今にも小躍りしかねないくらいに喜びを感じていた。日本警察――いや日本という国家が隠蔽しようとしていた宇宙人に、彼は一気に近づいていたのだ。
ゼニスはその後、事務所内を軽く探索した。デスクに置いてあった写真数枚、書きかけのレポートを鞄に滑り込ませる。それから、椅子の上に放置されたスマートフォンも確認する。画面にはボイスレコーダーのアプリが表示されている。まだ録音中であった。
彼は迷わず、記録された音声を再生した。
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『な……お前ら、だ、誰だ?』
複数名、二人以上の足音。
『に、人間じゃないのか?』
足音が止む。
『目的を言え!』
拳銃の引き金を立てた金属音。
『こっちは丸腰じゃ、ないんだぞ。何か言えっ!!』
無音。
『うあぁぁぁ!!!』
銃声。
銃声。
『何で……この化け物ぉっ!!!』
銃声。
銃声。
銃声。
『た、頼む。助けて……』
『“あれ”はどこだ?』
探偵ではない、別の人物の声だった。声にはノイズが混じり、まるでその声自体が空気を異様に揺るがせているかのようだった。
『あれ……いったい何のことだ!?』
探偵の声を無視するように、微かなささやき声がする。声色や内容は不明瞭。
『そうか。ならば段取りは、お前に任せる』
迫る足音。
『や、やめろ……この化け物――』
パン、と何かやわらかいものが弾けるような音。
水音が混じった落下音。
再びのささやき声。
遠ざかる足音。
『“あれ”が私の下に戻ってくれば……地球を侵略する準備を始められよう』
ドアの閉まる音。
それきり、無音。
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「……よくぞ、貴重な情報を残しておいてくれた」
ゼニスは右手を自分の胸に当てる。そして彼は、探偵の死体の傍ら、その血溜りに膝をつく。目の見開かれた苦悶の死に顔に触れ、その瞼をそっと閉じた。
「勇敢なる同志に」
ゼニスは数秒黙とうする。その後鞄から取り出した文庫本サイズの小箱を死体の上に乗せ、事務所を後にした。
「私だ」
携帯電話を耳に当てながら、彼は新宿駅東口の横断歩道の前で立ち止まる。ゼニスはその後2,3の指示をして、通話を切った。
信号待ちをしている時、ふと彼は手帳に挟んでいた写真を取り出した。
「……星降舞依」
探偵が最後に取った写真――日付は今日だった。
自宅の前で何かを見つめ、寂しげに微笑んでいる姿だった。
ゼニスは写真を握り潰し、コンクリートの地面に投げ捨てる。
信号を渡る無数の人々の靴に踏まれ、その写真はどこかへと消えていった。
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3つ目の勢力は、なかなか強敵になりそうです。




