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高校生からはじめる地球侵略  作者: 佐馴 論
第2章 UFO女を追う者たち
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来訪者

短いので、今日は何話か上げたいです。

   *******************************


 ゼニスは心臓の高鳴りを感じながら、夜の新宿・歌舞伎町を早足で抜けて行った。彼が雇っていた探偵から、緊急アクセスがあったのである。

 暗い路地に入ると突然、雑踏が消える。彼はネオンの光も届かない雑居ビルの前に立っていた。錆びた鉄製のドアを開き、足元の見えない階段を上った。

 ビルの3階に構えられた探偵事務所の扉はわずかに開いており、そこから白い光が漏れている。しかし室内に何者かが潜んでいる気配は皆無だった。ゼニスはジャケットの内側で拳銃のグリップを握りながら、空いた左手でその扉を静かに引く。

 光源は、事務所の一番奥のデスク上に備えられたスタンドライトだった。だが視覚情報よりも先に、煙草の臭いに混じった異臭が彼の鼻をつく。

 やはり室内には誰も居なかった。

 その代り、床に倒れた血まみれの死体だけが転がっていた。胸部に拳大の穴が空き、そこから広がった血は茶色くなって凝固している。凄惨な死にざまであったが頭部は無事であった。ゼニスはその死体が何者だったか認識できた。

 死んでいたのは、星降舞依の尾行のためにゼニスが雇った探偵であった。

 彼は、それ以上死体に目をくれずデスクに近づいた。尾行レポートが書きかけで残されている。昼前から星降舞依が一人で外出したことが記されているが、途中で終わっていた。

 ゼニスはレポートをそのままに、腕時計を確認した。


「さぁて……尻尾を掴ませてくれるか――」


 その腕時計型の機器には『クリスティ』という名前が与えられていた。デジタルの文字盤はすぐにコンパスのような表示に切り替わり、アラート音を鳴らす。表示された矢印の方向に、ゼニスは一歩、また一歩と移動する。素通りしてきた出入り口付近で画面が緑色となる。彼の足元には血の跡があった。位置関係から、それが探偵のものではないことは明白だった。

 しかしゼニスはクリスティの性能によって、それが何であるかを分かっていた。クリスティは、ゼニスの所属するBLUEの中でも特に選ばれた少数のエージェントが所持している。

 クリスティは、地球上に存在しない未知の物質を検出する装置なのだ。例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。


「ここに来たな……汚らしい外来種め」


 彼は鞄から清潔な白い布を取り出し、血の跡を拭う。かすかに赤黒い汚れがついた布を、彼は丁寧に畳んでビニール袋に詰めた。


「フヒッ!私の思った通りじゃないか」


 ゼニスは今にも小躍りしかねないくらいに喜びを感じていた。日本警察――いや日本という国家が隠蔽しようとしていた宇宙人に、彼は一気に近づいていたのだ。

 ゼニスはその後、事務所内を軽く探索した。デスクに置いてあった写真数枚、書きかけのレポートを鞄に滑り込ませる。それから、椅子の上に放置されたスマートフォンも確認する。画面にはボイスレコーダーのアプリが表示されている。まだ録音中であった。

 彼は迷わず、記録された音声を再生した。



 ――――――――

『な……お前ら、だ、誰だ?』


 複数名、二人以上の足音。


『に、人間じゃないのか?』


 足音が止む。


『目的を言え!』


 拳銃の引き金を立てた金属音。


『こっちは丸腰じゃ、ないんだぞ。何か言えっ!!』


 無音。


『うあぁぁぁ!!!』


 銃声。

 銃声。


『何で……この化け物ぉっ!!!』


 銃声。

 銃声。

 銃声。


『た、頼む。助けて……』

『“あれ”はどこだ?』


 探偵ではない、別の人物の声だった。声にはノイズが混じり、まるでその声自体が空気を異様に揺るがせているかのようだった。


『あれ……いったい何のことだ!?』


 探偵の声を無視するように、微かなささやき声がする。声色や内容は不明瞭。


『そうか。ならば段取りは、お前に任せる』


 迫る足音。


『や、やめろ……この化け物――』


 パン、と何かやわらかいものが弾けるような音。

 水音が混じった落下音。

 再びのささやき声。

 遠ざかる足音。


『“あれ”が私の下に戻ってくれば……地球を侵略する準備を始められよう』


 ドアの閉まる音。

 それきり、無音。

 ――――――――



「……よくぞ、貴重な情報を残しておいてくれた」


 ゼニスは右手を自分の胸に当てる。そして彼は、探偵の死体の傍ら、その血溜りに膝をつく。目の見開かれた苦悶の死に顔に触れ、その瞼をそっと閉じた。


「勇敢なる同志に」


 ゼニスは数秒黙とうする。その後鞄から取り出した文庫本サイズの小箱を死体の上に乗せ、事務所を後にした。


「私だ」


 携帯電話を耳に当てながら、彼は新宿駅東口の横断歩道の前で立ち止まる。ゼニスはその後2,3の指示をして、通話を切った。

 信号待ちをしている時、ふと彼は手帳に挟んでいた写真を取り出した。


「……星降舞依」


 探偵が最後に取った写真――日付は今日だった。

 自宅の前で何かを見つめ、寂しげに微笑んでいる姿だった。

 ゼニスは写真を握り潰し、コンクリートの地面に投げ捨てる。

 信号を渡る無数の人々の靴に踏まれ、その写真はどこかへと消えていった。


   ********************************


3つ目の勢力は、なかなか強敵になりそうです。


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