第六十六話「強引な策士・隼」
《さて、話は済んだか?》
ルカとシェリル――ついでに大悟――の間で改めて絆が結ばれた直後、そのタイミングを見計らってヘッドセット越しに隼が言葉を放ってきた。今ヘッドセットはルカの耳にかけられており、その鼓膜を震わせる声は、先ほどの一部始終に影響されてか、どこか穏やかな物であった。
「はい!隼さん、こっちは万事解決しました!」
《……解決、か》
飛び跳ねそうなくらいに上機嫌にルカが返したが、隼はそれを受けて小さく笑った後、どこか困ったように声の調子を落としてルカに返した。
《そうか、解決したか。お前たちの友情の方は、確かに解決した様だな。だが――》
「……あの、何かあるんですか?」
不審そうに言ったルカの傍に大悟が近づく。つられてシェリルも近づき、揃ってルカの耳に自分の耳を近づける。
そうして集まった三人の耳元に、諭すように声を低くした隼の言葉が無慈悲に轟いた。
《忘れてないか?お前たちはまだ敵同士なんだぞ》
「あ」
忘れてた。
片や町を占領せんとやってきた侵略者の前線監督者の一人。片やそれを迎撃するために現れた魔法少女。
本来、混じる筈の無い二人なのだ。
《今はまだバレていない様だから良いが、いつまでもその状況を続けられる訳でもあるまい。敵対し合っている以上、お互いに再び激突する事は避けられないだろう》
「そんな――」
隼の言葉を聞いていたルカの顔から、血の気が目に見えて引いて行く。表だってショックを受けた様子は見せなかったが、大悟もルカと同じくらいの衝撃を味わっていた。シェリルはある程度はそれを理解していたのか、ショックと言うよりも、唇を噛んでどこか遣り切れないような表情を浮かべていた。
「そんな、どうにかならないんですか!?シェリルさんとまた離れ離れになって戦わなくちゃいけないなんて、そんなの無いですよ!」
《おいおい、落ち着け。私だって徒に混乱させるためにそんな事を言いに来た訳じゃないんだ》
「でも!」
《落ち着け!》
語気を荒げて詰め寄るルカを抑え付けるように隼が返す。そして最後の喝でようやくルカが大人しくなったのを無線越しに確認してから、シェリルがゆっくりと言い聞かせるように話し始めた。
《私だって、せっかく接触できた異世界の人間をこのまま返すつもりは無い。それに、この状況を打破するような策を私が用意しなかったとでも思うのか?》
「本当ですか!?」
《私は嘘はつかん》
「教えてください!ぜひ!」
必死の形相でルカが叫ぶ。そしてその直後に短い悲鳴と嫌そうな声、そして強いノイズを残して受信機が沈黙した後、暫くして、ため息交じりの隼の声が再びそこから響いてきた。
《まったく、お前は自分の声量に気をつけろ》
「ご、ごめんなさい。つい――」
《まあ、お前の気持ちもわからんではないが……まあ、いい。とりあえず、私の要請を受けてお前たちの所に黒子がやってくる。そいつらが担いでいる物を受け取るんだ》
その言葉を受けて、ルカからヘッドセットを受け取りながら感心したように大悟が言った。
「準備良いですね。いつ呼んだんですか?」
《お前たちが彼女と話をしている時にだよ》
「……最初からそのつもりだったんですね?」
《戦いは常に二手、三手先を見て行う物だ》
得意げになった隼がそういい終わらない内に、黒装束の人間が二人、シェリルの前に音もなく現れた。気配消去の魔法はまだ効いている為にシェリルの姿しか認識する事が出来ずにいたのだ。
その肩には一つの袋がそれぞれ担がれていた。一つはハンドバッグ並に大きく、もう一つは手に平に収まるくらいの大きさだった。
躊躇いがちにシェリルが黒子の持っていた袋を受け取り、それをルカ達に渡す。
《受け取ったな?よし、中を開け》
言われるままに中を開く。そこにある物を見て、ルカと大悟が揃って眉を顰めた。
「え?」
「隼さん、これって……」
《即興で思いついた策なんだが、まあ何とかなるだろう》
その袋の中には、それぞれ荒縄と手錠、そしてアイマスクが入っていた。
《私にいい考えがある》
そう言ってのけた隼は――邪悪な笑みを浮かべていた。




