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第六十話「こんなの少女の戦いじゃないよ」

「ミサイル兵器だと!?」


 夜の町中でミサイルを発射している奴がいる。都内にある邸宅の一室――木目の床の上にベルベットのカーペットが敷かれた広々とした居間の中で、紙片としてその情報を受け取った深海は、もはや怒りを通り越して唖然といった表情を浮かべていた。

 岩屋町で大規模な戦闘が行われている事は、深海はおろかほぼ全ての自衛隊員が知っていた。だが、そのようないつもならば厳戒態勢が敷かれる程の非常時にも関わらず、彼らは揃って自宅での待機を命じられていた。

 異世界よりの敵との全ての戦闘の権利を剥奪されていたからだ。

 故に彼らは直接戦闘に介入することを固く禁じられ、断片的に送られてくる情報から戦況を推測する事しかする事が無かった。そして戦闘行動を封殺された彼らの唯一の見せ場と言えば、戦闘が終わった後の事後処理――負傷者の手当てや搬送、壊れた建築物の補修などであった。

 当然、それでもいい、寧ろそれがいいとする隊員もいた。戦えない事に不満を持ちつつも、救援活動を行う事を誇りに思う隊員もいた。

 だが深海は違った。

 独善的な愛国心の塊である彼は、どこの馬の骨とも知れない連中に国の明日を任せるような今の状況が許せなかった。国の敵を自らの手で倒せない事が、そして町の中で重火器を使うような危険人物が野放しにされている事が、たまらなく許せなかったのだ。


「ミサイル、ミサイルだと?私が守るべき国の中で、そんな危険な兵器を平然と使う輩がいると言うのか?」


 苛立たしげにそう呟いた後、ミサイル、ミサイルと口の中で連呼する。


「そのような兵器は、しかるべき人間の管理の下、ちゃんとした作戦の中で的確に使われなければならない。無闇に発射して、流れ弾が建物に当たったらどうすると言うのだ?」


 自分の庇護下で使えとばかりに深海が罵る。実際彼はその通りに考えていた。そしてそのような自分の考えを通す事はおろか、物騒な情勢を正す事も出来ない今の自分の立ち位置に、言いようのない怒りを覚えた。


「こんな状況では駄目なのだ。赤の他人に任せるのではなく、我々が戦力を管理し、我々自身の手で国を守る。そうとも。それこそが我々の真の在り方なのだ――!」


 天井を見つめながら深海が叫ぶ。

 それは使命に満ちた崇高な物であったが、同時にとても不毛な物でもあった。





 そんな深海の怒りなど露知らず、当の危険人物――弾丸魔法少女ルイは、屋上に片膝立ちの姿勢を取って、空を飛びまわる魔族相手に容赦なくスティンガーミサイルをぶち当てていた。

 照準の中央に敵の姿を捉える。そしてそのまま照準内に敵を収め続け、軽い電子音が流れると同時に引き金を引く。

 軽い音と共に発射口から飛び出した細長いミサイルは暫く空中を直進し、そして暫くの後にロケットモーターを起動し超高速で敵の元へと向かっていく。

 大抵の魔族は、高速で突進してくるミサイルに対応できずに直撃を貰うのであったが、中にはその存在を察知し、回避軌道を取る個体も存在した。

 だがスティンガーは赤外線ロックが可能であった。追尾性能も低くは無い。なのでどれだけ逃げても無駄であったのだった。

 それでもカーブを描くように後方へ退くのではなく、その場で直角に避けてしまえば回避することも可能ではあった。だがたとえ一発目を避けたとしても、その後も二発目、三発目が容赦なく襲い掛かってくる。

 結局逃げるだけ無駄であった。





「五つ目!」

『ルカ、上手い!』

《よし、いいぞ。その調子だ》


 空の彼方で泡立つように歪な球状に広がる灰色の爆風を眺めながら、会心の笑みを浮かべてルイが叫ぶ。そしてすぐ別の方向に目を向けてそこにいた魔族に向けてスティンガーを構え直す。


『ルカ!』


 不意に大悟が叫ぶ。反射的にルカが横に飛び退く。ルカのいた位置に魔族が真上から飛びかかり、その地面に罅を走らせる。


「ちぃ!」

「ダイゴ、ありがと!」

『これくらいしかできないからね』


 スーツと化した大悟の持つ危機察知能力――スーツに当たる風や気配から相手の存在を知るレーダーのような物――に素直に感謝しながら、ルカが手元のスティンガーを瞬時にダネルへと変異させていく。そして不意打ちを躱され不愉快な表情でこちらを睨みつける魔族に向けて、その銃口を突き付ける。


「バイバイ!」


 六連射。

 魔族を直接狙うのではなく、その足元や周辺に向けて榴弾を発射する。

 魔族は最初、自分の元へ向かってくる大きな塊が一体何なのか、理解することが出来なかった。その場から動くことなく、身の危険を感じることも無く、ただその塊を注視するのみであった。

 それが何かを理解した時は、魔族は既に爆発の只中にあった。煙が晴れた時には目の前の魔族は倒れ、ルイの撃墜スコアがまた一つ増えることになった。


《終わりか?》

「あ、はい」

《呆気ない物だな》

『拍子抜けだね』

「みんな言いすぎだよ」


 ボロクソに相手を叩く二人に苦笑を浮かべながらルカが答える。そして次の敵に向けて、改めてスティンガーを構え直したのだった。



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