表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/101

第五十二話「隼の傷」


「さて、どこへ消えたのか……」


 ビルの屋上を飛び跳ねるようにして移動しながら、終始視界を左右に動かして鷹丸が言った。そしてこの時、鷹丸以外のガットのエージェント達も総出でルイの捜索に乗り出していた。

 ルイがヘッドセットをつけていればまだ捜索も楽だったのだが、今回彼女はそれを装着しては居なかった。一応、人工衛星の方はツェッペリンと呼ばれる存在の出現してからの動きを完全に追尾していたため、追跡自体は可能であった。

 しかし、途中でルイを放り捨てて一人で逃げた可能性もある。遠距離に思い切りぶん投げたという可能性もゼロではないのだ。故にこうして、ツェッペリンの進行ルートを中心にして町の全域を虱潰しに探す必要がどうしてもでてくるのだった。


《彼らは、あいつらは見つかりましたか?》


 耳につけたヘッドセットから隼の声が響く。その声はいつも通り冷静な物だったが、同時に自分を殺し冷静になろうとしていた――なり切れずに言葉の端々が震えている事に気付かない程、鷹丸は鈍くは無かった。


「まだだ。だが必ず見つけ出す。お前はいつも通りオペレートを頼む」

《――はい。わかりました》

「まあ、彼女ではなく俺が相手では、お前としては物足りんかもしれんが」

《そう、かもしれませんね……」


 気を利かせた鷹丸の言葉に対しても、いつもよりもキレの無い、覇気の無い言葉が返ってくる。


「隼……」


 鷹丸はすべて把握していた。

 隼はルイの身を本気で心配していた。それこそいつもの凛とした性格をかなぐり捨ててしまう程に。

 しかし、それはもはや単なる『仲間』に向ける心配ではなかった。

 それはもっと純粋で、もっと根源的な物。

 隼はそれを隠してるつもりなのだろうが、鷹丸にはわかっていた。

 一つため息を漏らしながら鷹丸が言った。


「元に戻ってしまうのが怖いか?」

《……!》


 隼が息をのむのがはっきりわかった。鷹丸が続ける。


「ここで彼らとの関係が断たれて、あの時失ってしまった絆を再び失うことが怖いか?」

《……》


 鷹丸の言葉に無言を貫いていたが、やがて別人と思えるほどの弱弱しい口調で隼が言った。


《……あの二人との生活は、想像していた通りの物でした。たった数日でしたが、とても充実していて、幸せでした》

「例えそれが偽の関係であっても――」

《それが偽の関係であっても、あの時、私は確かに『母親』でいられた。あの時なっていた筈の母親に……》

「……」


 沈黙が続く。無音の夜闇を鷹丸が黙って駆け抜ける。その内ヘッドセットから咳払いが聞こえ、次の瞬間からは、文字通り『いつもの』隼の言葉がそこから響いてきた。


《そのまま例の――ツェッペリンの通ったルート通りに進んでいくと、町はずれの方へ出ます》


 鷹丸も『いつもの』調子で答える。感傷に浸る時間は終わりだ。


「そこには何か、特徴的な物があるか?」

《これと言ってありません。田畑と公園と空き地と、一軒家が一つ二つです。それと家の方はルート上に重なっておりません》

「そうか」

《それと、件のルート上に、大型サイズの倉庫があります。潜伏先のリストに追加してもよろしいかと》

「わかった。念のため、その倉庫が今どういう状況なのか、調べておいてくれ」

《わかりました》


 そう言って一時的に通信が切れる。そして隼のもう一つの顔――あの時彼女の方から捨てた筈の顔を再び垣間見て、鷹丸は少々バツの悪い顔を浮かべていた。

 元より、彼女は自ら志願してルイのオペレーター役になったのだ。あの時断ち切ったつもりでいて、実はまだ未練を引きずっていたと思える。

 そう鷹丸が思案している時に、再びヘッドセットから隼の言葉が聞こえてきた。いつもの鋭い隼の声だった。


《倉庫の詳細が掴めました。あそこは数年前から、個人の所有物になっていたようです》

「そうか。誰の物だ?」

《お待ちを――ええ、名前は……》


 その倉庫の所有者の名前を聞きながら、鷹丸はその郊外へ向けてまっすぐに飛び跳ねていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ