第四十七話「前途多難な魔法少女」
「バイバイ!」
ルイが叫びながらパイファー・ツェリスカを構え、魔族の眉間に弾丸を撃ちこむ。弾丸を食らった魔族が派手に後ろに吹っ飛び、足場である屋上に後頭部を強打する。
「はあ、はあ……終わり……ッ!」
『ルカ、大丈夫?』
《まだ動けるか?》
「はあ、動けることは、はあ、出来るけど、ちょっときついかも……」
心配する様に尋ねる大悟と隼に、肩で息をしながらルイが答える。その彼女は今全身を襲う疲労に対してしかめ面を浮かべ、その額から玉の汗を流していた。
「もう来ないよね?」
『わからないけど……これだけ倒せば、流石に打ち切りなんじゃないかな?』
《まだだ。まだ完全に終わったという確証が取れたわけじゃない。気を抜くな》
この日、彼女は四体の魔族と連続で戦っていた。変身によって身体能力が上がっているとは言え、人間以上の体力を持つ魔族と休む暇もなく戦い続けていては息が上がるのも仕方ない所であった。
ガナリを使った個体に一度も出会わなかったのが、幸いと言えば幸いであった。
「もう無理。ちょっと座る」
だが疲れたことに変わりはない。
息を吐き出すようにそう言いながら、限界とばかりにルイがその場に腰を下ろして胡坐をかく。そして腕で額の汗を拭い、一つ息を吐いて呼吸を整えてからルイが言った。
「最近、魔族の行動が激しくなってないですか?これまでは一日に一人のペースだったのに」
『うん。今はなんか、一回の戦闘で何人も戦ってるよね』
《敵方が戦術を変更して来たのかもしれんな。個人戦ではなく集団戦法――と言うより、数でゴリ押しする戦い方にシフトしたんだ》
「でも、どうしてそんなことを?」
《お前たちが原因かもしれんな》
「え?」
意味が解らず素っ頓狂な声を上げるルイに隼が言った。
《初めの頃は、奴らは魔族一体でもなんとかなると考えていたんだろう。最初に襲ってきた時は、魔族数人の攻撃で軍隊が潰れた上にこの町が滅茶苦茶にされてしまったからな。だから今回もその通りに行くと思っていた》
「でも、そこに私が出てきた」
《そして魔族相手に大暴れ。とても一対一では敵わないと敵も悟ったんだろう》
「うへえ」
隼の言葉を受けてルイが露骨に嫌な顔をする。
「じゃあつまり、この先ずっと集団でやってくるって事ですか?」
《そう言うことになるな。気を引き締めてかかれよ》
「マジですか。やだなあ」
《諦めろ。腹を括って前を向け。それにお前には、まだ解決しなければならない問題がもう一つあるんだからな。そっちの方も何とかしなければならないんだぞ》
「……ああ」
ツェッペリン。
数日前にルイの目の前に突如現れ、彼女の倒した魔族を担いで何処かへと消えた、魔族の翼を生やした赤い女。
あれはどのような存在なのか。目的はなんなのか。そもそも敵なのか味方なのか。わからないことだらけだった。
《少なくとも、敵味方の区別ははっきりさせておきたい所だな。そうすれば対応のしようもあるし、何より心理的負担も軽くなる》
「そうです、ね……あーあ、問題山積みだなあ」
胡坐の姿勢からそのまま背中からコンクリートの地面に倒れ、仰向けの体勢になって手足を大の字に広げる。ルイの視界いっぱいに夜空が広がっていたが、残念ながらそこに星は一つも見えず、ただ漆黒の暗闇が広がるだけだった。
「一個ずつ解決してくしかないのかなあ」
《それしかないな》
『頭痛くなってくるなあ』
「はあ……」
その夜空は、まるでルイの道筋を示しているかのように真っ黒だった。




