第三十七話「専属オペレーター到着」
「ご苦労だったな」
それから数十分後、慣れない正座を長時間していたおかげで痺れまくりの足を引きずるようにして部屋から出てきたルイに、鷹丸がねぎらうように言った。
そこは床と天井が木目板で、壁が白い漆喰で構成された通路であり、大人四人が横に並べる広さを持ち窓の類は見えなかった。
「話を聞いて、頭領はなんと?」
「鷹丸さんと一緒の反応でした。えっと確か、鳩が豆鉄砲を食らう、みたいな感じで」
「そうか。まあ、誰しも一度はそうなるだろうな」
そう言って一人頷きながら鷹丸が通路を歩き出す。その横に並び付きながらルイが彼に尋ねた。
「あの、ここに居る人たちって、私の話を信じているんですか?」
「無論だ」
「それはどうして?」
「直感だよ」
迷いなく言い切り、そして驚いているルイを横目で見ながら鷹丸が続けた。
「まあ、直感と言うのは半分が本当で半分が嘘だ。動作や顔つきや口ぶりから君が嘘を吐いているかどうかを見抜く事くらい、我々にとっては造作もない」
「それで、私は嘘を吐いてないと思ったんですか?」
「君の話しぶりには迷いがない。騙すことに対する愉悦や無意識の罪悪感も見られない。君の話はかなり荒唐無稽ではあるが、君は嘘をついていないと我々は判断した」
「いいのかなあそれで……」
大雑把。ザル過ぎる。ルイは流石に面と向かってそれを言葉にする事は無かったが、それでもそう呟いて首を捻る事で、間接的に鷹丸にそう言った。
それを受けて小さく笑いながら、鷹丸がそれに答えた。
「人間の持つ素の能力は確かに低い。だがそれは、究めれば機械の性能をも凌駕するほどの可能性を持っているのだ。故に常日頃から厳しい修練を積んできた我々の力を以てすれば、下手な嘘発見器よりもずっと正確に相手の欺瞞を暴く事が出来るのだ」
「そ、そういうものなんですか?」
「そうだ。人間は無限の可能性を持っている。自分には出来ないと悲観するのは愚か者のする事だ。人間は、やろうと思えば何でも出来るのだ」
そう言い切る鷹丸の姿が、ルイにはとても頼もしく映った。そうしてルイがその姿に見とれていると、不意に鷹丸が足を止めて彼女の方に向き直った。慌ててルイも立ち止まって表情を引き締め、彼を見つめ返す。
そのルイの視線を受け止めながら鷹丸が彼女に言った。
「そう。やろうと思えば何でも出来る。あの魔族に勝つことも不可能ではないのだ」
「あの魔族……私が負けた……?」
「そう、奴だ」
ルイの言葉に鷹丸が強く頷く。そしてあの時の情景を想いだし表情を暗くするルイに鷹丸が言った。
「負けた時の事を思い出して怖くなったか?」
「いえ、怖いとかじゃなくて、負けたのが悔しくって」
「ならば次で勝てばいい。負けた悔しさを次の戦いで晴らすんだ」
鷹丸がそう言ってルイの肩を掴む。
「やれるな?」
「――もちろん」
吹っ切れた顔でルイが返す。
「このまま負けたままだなんて、私は嫌ですから」
「……俺が思っていたよりも血気盛んなんだな」
「いけませんか?」
「いや、変にいじけるよりもずっとマシだ。立ち直りが早くて助かる」
「辛い時こそ前を向こうって決めてますから」
そう鷹丸に言ったルイだったが、それは『ルカ』の言葉だった。
敵だらけの中を数少ない友と共に歩いてきた者だからこそ重みを持つ言葉。大悟はそんな台詞を言い切れるルカを頼もしく思い、羨ましくも思っていた。
「だから私、次も戦います」
「わかった。ならばこちらもサポート要員を送るとしよう」
ルイの力強い言葉を頼もしく感じながら、鷹丸がそう言って指を鳴らす。すると彼の斜め後ろに、小豆色の装束に身を纏った一人の女性が何の前触れも無しに現れていた。
「以前、君にヘッドセットを渡しただろう?それを通じて、今後は彼女が君をサポートすることになる」
「隼だ。第四通信班の班長を務めている。特命を受け、これからお前のサポートをさせてもらう」
紫の長髪。吊り上がった眉。切れ長の瞳。薄い唇。気の強さを顔全体に表した感じのキツめの女性が、ルイに向けて手を差し伸べた。
「隼は無愛想だが、これでも人当たりはいい方なんだ。最初は戸惑うと思うが、仲良くしてくれ」
「は、はい」
隼の放つ剣呑な雰囲気に戸惑いながらも、鷹丸の言葉を受けてルイが緊張気味に頷いてその手を握り返す。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お前の武勇は聞いている。よろしく頼むぞ」
ルイの言葉にそう返しながら隼が笑みを浮かべる。
それが決して嫌味な物ではなかったのが、ルイにとっては救いだった。




