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第三十三話「発動」

 鷹丸と別れてから三日が過ぎた。

 宵闇の下、都市中央にあるとある雑居ビルの屋上。

 黒い球が無言で町を睥睨する中で、ルイはその日も魔族を迎え撃っていた。それも鷹丸と別れてから今日にいたるまでの三日間、彼女は連続して魔族と戦っていた。

 今日の魔族は両手に鉤爪を付けた、青い肌の者だった。体つきや顔つきは、それまで相対した者と大差なかった。


「今日は俺が相手だ!」

「ああもう、しつこいわね!」


 決まって夜、彼女が散歩に繰り出すたびに襲われる。最初の頃はただの偶然とも思っていたが、ここまで来たら最早、自分が魔族達の標的になっていると確信せざるを得なかった。

 ならばなぜ自分が狙われるのか、ルイはそれが知りたかった。だから今回の戦いで、彼女はどうしても敵を生かしたまま捕らえたいと思っており、そのための新たな武器も用意して来ていた。


『AK!出すぞ!』

「足を狙うんだよね!」

『ああ!まずは足だ!』


 手首のスーツの一部がスライム状に変質し、形を変えて生まれ変わったアサルトライフルを両手で構える。そして翼をはためかせながらもう突進してくる青肌の魔族の脛に照準をあわせ、一気に引き金を引く。

 直撃。

 弾丸の雨が容赦なく脛から膝の皿にかけてぶち当たり、突然の衝撃にバランスを崩した魔族がルイのいるビルの屋上に激突する。


「ネットランチャー!」


 すかさずルイが叫び、アサルトライフルから戻ったスライムが蠢動を始める。そしてその過程でそのスライムの半分が手を伝って左手首からスーツへと戻って行き、一回り小さくなったスライムがそのまま蠢いて形を形成していく。

 やがてスライムが動きを止め完全に形を作り終えた時、ルイの手には懐中電灯のような形をした物が握られていた。そしてその先端を転倒している魔族に向け、グリップの底についた紐を勢いよく引っ張る。

 その直後、先端についた蓋が吹き飛び、そこから端に重りを付けた網が放射状に広がり、倒れている魔族に覆い被さっていった。


「うわ、くそ!なんだこれは!」


 網を振りほどこうと必死に魔族がもがくが、それは実物ではなくルカが己の魔力を錬成して作り上げた特別性の網。魔族の腕力はもとより、鉤爪で引き裂こうとしても無駄であった。


「捕まえた」

「くそ、放せ!俺をどうする気だ!」

「ちょっと、落ち着いてよ。あなたと少し話がしたいだけなんだから」


 暴れ回る魔族をなだめようとルイが言ったが、魔族はお構いなしに動き回るのを止めなかった。


「いいからこいつを解け!解けってんだよ!」

「ほどいたらどうせ逃げるんでしょ?そのままでいいから質問に答えて」

「質問だあ?お前なんかと話すことなんか何もねえよ!いいから俺をとっととここから」


 魔族の怒号を遮るように、鼓膜を破かん程の銃声が周囲に轟く。

 パイファー・ツェリスカ――空に掲げた大型の回転式拳銃を魔族に向け直しルイが言った。


「黙って」

「――ッ」


 その銃の発する殺意に、魔族が言葉を失う。やっと落ち着いたかと安堵のため息を漏らした後、改めてルイが魔族に尋ねた。


「質問するけど、いいわよね?」

「……勝手にしろ」

「じゃあさっそく。どうしてあなた達は私ばかり狙うの?」


 町を襲ったのは最初の数日だけ。それから先は、全てルイをピンポイントに狙った物。その理由が知りたかった。


「何か私に恨みでもあるの?どうしてここまで私にこだわるの?」

「……何だそんなことか」

「答えて!」


 威嚇する様に指で撃鉄を倒す。だがそれに対して、魔族はひどく落ち着き払っていた。じっとルイを見つめながら、ゆっくりと口を開く。


「お前が強いからだよ」

「なんですって?」

「お前と戦ってると面白いからだ。お前みたいな奴と戦ってる内は、嫌な事を全部忘れられる。町にいる連中を手当たり次第に襲うのも楽しいし、実際に上からはそうするよう言われてるんだが、知ったことか。やっぱり強い奴と戦った方が興奮するだろ」

「そんな理由で……」


 ルイがガックリと肩を落とす。それは驚愕と言うより、呆れに近かった。


「そんな理由で、私の自由時間を妨害して来たって言うの?」

「ふん。強すぎるお前がいけないんだよ。俺たちは総出でお前の事を狙っているぜ」


 ブラフでないことは、魔族の勝ち誇ったような口調からわかった。ここまで来たら諦めるしかない。


「……なら、金輪際私に関わらないで、って言っても、無駄なんでしょうね」

「物わかりが速いな。つまりはそう言うことだ。最後まで付き合ってもらうぜ」

「ああ、やだやだ……じゃあ控えもいっぱいいるんだし、あなたとはここでお別れしてもいいよね」


 そう言ってルイが銃口をその頭に突きつける。だが魔族はその余裕の態度を崩さなかった。


「悪いな。俺とも最後まで付き合ってもらうぜ」

「何言ってるの。この状況で何が出来るって言うの?」

「出来るんだよ」


 そう言って魔族が不敵に笑う。


「やってやるさ」


 そして奥歯に仕込んだ何かを噛み潰した。


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