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第三十二話「道具改造」

「報告は読ませていただきました。連中は随分とてこずっているようですね」

「はい。お恥ずかしい限りです」

「あなたの責任ではありませんよ。こちらの指示を無視し、勝手に動いたあいつらに非があるんですから。それと戦力を小出しにするよう言ってきた本部の方にもね」


 異世界攻撃の前線基地である黒い球体の中で、シェリルと一人の青年が向かい合って話していた。

 彼は本部より送られてきた増援で、シェリルよりも背が高く、歳は彼女の一つ下だった。そして癖の強い茶色の髪と茶色い瞳を持った、利発そうなさっぱりした顔つきをした青年だった。


「しかし、あなたももう少し強く出てもいいのではありませんか?何せ、あなたは最大戦力。ただの尖兵である奴らよりもずっと高い位にいる。どんな無茶を通しても罰は当たりませんよ――爆弾を抱えて自殺しろとかね」


 そう言って青年が面白そうに笑い声を上げる。シェリルが一瞬だけ眉を顰める。

 彼もまたレビーノでの魔族に対する考え方の主流派であり、シェリルの嫌いなタイプだった。

 しかし彼女は我慢の意味を知っていた。湧き上がる嫌悪の情を心の中に押しとどめ、平静な口調で青年に返した。


「確かに彼らは謂わば尖兵。未知の戦場に真っ先に駆り出されていく手駒であります。しかし彼らは同時に、その未知の戦場で必死に戦い抜く勇敢な戦士でもあるのです」

「勇敢。確かにそう考えることもできますね。尤も奴らは、ただ単に憂さ晴らしをしたいだけなのかもしれませんが。暴力の中でしか快感を見いだせない。野蛮な連中ですよ」


 その異界での憂さ晴らしをせざるを得ないような状況に誰がして、誰がそれを助長しているのか。シェリルは喉まで出かかった言葉を必死に抑え込んだ。

 自分は無関係だ、とシラを切ることはできない。これはレビーノ全体の問題なのだから。


「……とにかく、私はそんな彼らの意志を尊重したいと考えているのです。」


 そんなことを考えつつシェリルが自らの意見を述べ終える。青年は理解した様に頷いたが、すぐに薄い笑みを浮かべて嘲るようにシェリルに返した。


「尊重。奴らの意見を尊重なさると?シェリルさん、あなたの優しさは僕も良く知っているが、連中にそのような気遣いをする必要はないんですよ。奴らは魔族なんだから」

「確かに彼らは魔族です。しかし――」

「魔族なんだ。それ以上の理由はいらない。でしょう?」

「――ッ」


 無駄だ。まるで話が通じない。

 シェリルは自分と相手の間に埋めようのない認識の溝があることを痛感した。

 そうしてシェリルが苦い表情を見せながら顔を伏せていると、青年がその周りを回りながら彼女に言った。


「そうだ。次の戦闘、僕に一つ考えがあるんですが、実行してみてもよろしいですか?」

「考え?それはどういう物でしょうか?」


 自分を軸にして動く青年を追うようにシェリルが首を動かしながら返す。その問いに顔色一つ変えずに青年が答えた。


「なに、あいつらの闘争本能に少し火を点けてやるだけですよ。あいつらは今、戦いに飢えている。どんな綺麗事を並べたって、それは変わる事のない事実だ。ならその欲求を少しでも満たしてやることの方が、ずっとあいつらのためになると思うんですけどね」

「……本心はどうなのですか?」

「口減らしが出来る」


 悪びれもせずに青年が言い切る。


「こちらからお膳立てはしますが、僕としては、連中がそのまま戦って自滅してくれるのが一番望ましい展開なんですよね。何と言っても僕たちが手を出すことなく、向こうから数を減らしてくれる。願ったり叶ったりだ」

「そんな、いくらなんでも」

「僕を止めようとしないで下さいよ。これは僕たちの、そしてキリカさんの意志でもあるんだ。下手に僕を止めて、それがキリカさんの耳に届こうものならどうなるか、あなたもわかっているでしょう?」

「そ、それは」

「自分の父上にあらぬ疑いがかけられるのだけは、避けたいですよね?」


 父の名を出されてはどうすることも出来ない。自らの信念と父の立場を秤にかけ、そして苦い思いでシェリルが言った。


「……わかりました。お願いしてよろしいでしょうか」

「もちろん。お任せください。話が速くて助かります」


 そう言ってわざとらしく大仰にお辞儀をしてから、苦虫を噛み潰した顔でいるシェリルに向けて青年が言った。


「そんな顔をなさらずとも。万事、このゲインにお任せください」


 ゲイン・カーティスマン。

 シェリルとは対極の思想――レビーノに生きる人間の大半が抱くよりも過激な思想を持ち、彼女たちの在籍する学園内で最大勢力を誇る『キリカ派』の一人。

 彼女の嫌いなタイプだった。


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