第二十二話「弾丸魔法少女」
ようやく見つけた。
目の前の獲物を前にして、魔族は小さくほくそ笑んだ。向こうは自分の襲来を全く予想していなかったらしく、見るからに動揺していた。
「う、うわ、どうしよう。会っちゃったよ」
怯えた様にそう言いながら、黒ずくめの女が後ずさる。そして魔族もまた、追いつめるようにゆっくりと前へと進んでいく。
女の動きが止まる。後ずさった結果、とうとう屋上の縁にまで到達してしまったからだ。逃げ道は無かった。
「諦めろ」
魔族がそう言って、両手で持った槍を構える。だが絶体絶命の状況にある筈の目の前の女の顔には、絶望ではなく迷いが見え隠れしていた。それが魔族にとっては腑に落ちなかった。
「――え、何?どうかした?」
不意に女が顔をしかめ、耳をそばだてるように頭を傾ける。
「……それって、ここで使うってこと?まあ、それ以外に方法ないかもしれないけどさあ」
「?」
そしてその状態のままで眉根を寄せ、困ったように女が虚空に向けて話し始めた。自分を馬鹿にしているのかと魔族は苛立ちを隠せなかったが、それは恐怖を紛らわせるための一人芝居には見えなかった。言葉の端々から、本気で悩み、本気で誰かと相談している気配が漂ってきたからだ。
余計不気味だった。
「いや、出し方はわかってるって。あの時みたいにやればいいんだよね……でもさあ、やっぱり最初は怖いって――」
最初は躊躇いがちにそう言っていた女だったが、次第に踏ん切りがついたように、自分の言葉に自信を漲らせていく。
「――ああ、そうだよね。私一人で戦うって訳じゃないんだよね――ごめん。怖いのはお互い様だって気づかなかったよ――うん、じゃあ、一緒にやろっか?」
何者かとの会話――あるいはただの小芝居――を済ませて、女が決意に満ちた顔つきでまっすぐ魔族に向き直る。
「……話は済んだのか?」
「ええ。逃げようかとも思ったんだけど、やっぱり戦うって決めたから」
「そうか」
どこか余裕のある女の言葉に満足そうに魔族が頷く。そもそも目の前の女がどんな奇行に及ぼうとも、魔族にとってはどうでも良いことであった。何をしているのかと疑問に思うこともあるが、結局の所、戦えればそれでいいのだった。
己の戦闘欲を満たさんと魔族が槍を握る手に力を込め、その先端をまっすぐ女に突き出す。
対して目の前の女も肩幅と同じくらい足を開き、上半身を捻ってだらりと伸ばした左腕が前に来るようにする。そして右肘を真後ろに曲げ、右掌が腰に位置するような格好で構える。
見たことのない構えだったが、それが一層魔族の興味を惹いた。さも面白そうに笑みを浮かべながら魔族が言った。
「ほう、それで何をしようと言うのだ。徒手空拳か?」
「悪いけど、私そんな格好いい戦いとか出来ないの。剣もステッキも持つ気ないから」
「ならば虚仮脅しか」
「試してみたらいいじゃない」
「上等だ」
それと同時に魔族が一直線に駆ける。一瞬で間合いを詰め、女の頭に振り下ろさんと槍を真上に掲げる。
魔族の眼前で女が不敵に笑う。
槍が天高く掲げられた直後、体を捻り返して左肩が後ろに来るようにし、肘を伸ばし手を開いて腰だめに構えた右手を魔族に向ける。そしてその後に女の右手に起きた事象を目の当たりにして、魔族が息をのんだ。
「な……!」
女の体を覆う黒いスーツ。その右手首の部分が溶けだし、黒いスライムのような物体となってスーツと切り離され、開かれた右手を覆うように絡みつく。そしてそのスライムが掌の中に納まると同時に瞬時に形を形成していき、やがてゴツゴツとした、ブーメランのように折れ曲がった肉厚の黒い物体がその手の中に収められていた。
「なんだそれは……!」
「ベレッタM92」
女が静かに言い放ち、人差し指に力を込める。
魔族の眼前で爆発のような轟音が轟いた。




