第二十三話「弾丸魔法少女ルイ」
パソコンとの格闘から数時間後、何とか人並みに検索機能を使いこなせるようになったルカがディスプレイを眺める中で、不意に明るい声を上げた。
「あ、これいいかも」
そう言って彼女が指した物は、拳銃の写真だった。
それから二人は、拳銃が本当に生み出せるのかどうか、試してみることにした。拳銃だけでなく他の武器も出せるのかも並行して実験した。それから紆余曲折の末、いくつかの制約の下でならば、ルカはどんな武器でも生み出すことが出来るという恐ろしい結論に達した。
その制約とは以下の通りである。
一つ。武器を生み出す際には、その武器の名前と形状を知っていなければならない。逆にそれらを知っているならば、例えそれがバズーカであろうと日本刀であろうと生み出すことが出来た。
二つ。一度の変身において生み出せる武器の数は三つまで。
三つ。一度変身を解いたら、次に変身できるまで一時間かかる。変身自体に制限時間は無い模様。
四つ。武器の現出にはスーツに変身した大悟の協力が不可欠である。武器を生み出すにはスーツの一部を利用する必要があるが、そうして削り取られた部分はすぐに元に戻るので露出が増えることは無かった。
因みに、この方法で生み出した武器を使用した際にルカが感じる武器自体の重量、反動、衝撃はゼロだった。
そして遠距離から一方的に攻撃できるという理由から、ルカは銃を使うことにした。その考えには大悟も異論は無かった。
『やるんなら安全に戦いたよね、やっぱり』
ルカに賛成した折、大悟はそう締めた。
ルカが引き金を引き、轟音と共に銃弾を放つ。銃の上部がブローバックし、円柱状の空薬莢が外に吐き出される。
魔力で練成された弾丸が回転しながら直進し、音速で魔族の鳩尾にぶち当たる。実弾ではないため体を貫通することはせず表皮に当たるだけだったが、その破壊力は十分すぎる物だった。
胴の一点から感じた衝撃が、息つく間もなく放射状に広がり全身を駆け抜ける。そして痛みと共に襲い来るのは、突進の勢いを殺し見えない手を以て後ろに引っ張っていくような不気味な感覚。その今までに感じたことのない未知の感覚に魔族が顔をしかめ、その一方で撃たれた衝撃で魔族がのけぞった際に出来た隙をルカが逃すことは無かった。
『ぶっ放せ!』
大悟の声が木霊する。その言葉のままにルカが歯を食いしばり、両手で銃を構え直し人差し指に神経を集中させる。そして指に力を込める度に爆音が響き渡り、その度に魔族の胴に弾丸がぶち当たりその体躯を後方に押し出していく。
「がっ……くそっ!」
その小石ほどの塊がもたらすハンマーで殴られたかのような衝撃に耐えかねたのか、魔族が翼をはためかせて自ら後ろに飛び退き距離を取る。その胸には痣が九つほどついていた。
タフな奴め。口にすることなく毒づきながら、ルカが声高に叫ぶ。
「AK!」
それに応じるようにルカの手元にあった拳銃が瞬時にスライム状に戻り、更に今度は左手首の先端が溶けだしスライムとなってそこに合流し一つに混ざり合う。
一回り大きくなったスライムが両手の中で生き物のように蠢き、やがて一つの形を成していく。それは先ほどまでルカが持っていた物よりも一回り大きく、よりいびつに折れ曲がっていた物であった。
AK-47。ロシア製のアサルトライフル。
右手でグリップを、左手で銃身と弾倉の間をしっかりと握り、距離を取りしかめ面で様子を伺う魔族に銃口を向け、力いっぱい引き金を引く。
拳銃とは比較にならないほどの爆音を小刻みに撒き散らし、ルカの足元に空薬莢を大量に散乱させる。
そしてなおもその場で滞空する魔族の元に、毎分六百発のペースで吐き出される弾丸の嵐が情け容赦なく降り注がれていった。
「――!」
その衝撃と激痛の前に、魔族はもはや声も出せなかった。超音速で飛び行く『石ころ』の雨によってその場に釘づけにされ、なす術もなくハチの巣にされていく。
その弾丸はルカの魔力を直接錬成して撃ち出している為、弾切れすることはなかった。好きなだけ弾丸を吐き出すことが出来るので、この状況では圧倒的にルカが有利だった。それにも関わらずルカの顔つきは苦々しかった。
「これ、いつまで続ければいいのよ!?」
優勢な立場にいながら苛立たしげにルカが叫ぶ。そんな中で、大悟は一人思案にふけっていた。
『まさか魔族がこんなにタフだったとは……いや、ひょっとしたら魔族が原因なんじゃなくて……』
「ダイゴ、どうかした!?」
『なんでもない!じゃない!後で話す!それより今はあれを何とかしないと!』
そんな大悟に、トリガーを引きっぱなしにしながら視線を脳内に向けるようにして顔を背けルカが叫ぶ。それに対して大悟が同じくらいの声量で返すが、これはこのくらい叫ばないと銃声で声がかき消されてしまうからだ。
そして再び魔族の方に目をやった時、ルカは一瞬息をのんだ。銃弾の嵐の先にいた筈の敵が忽然と姿を消していたからだ。
『右だ!』
不意に大悟が叫ぶ。それに答えるように反射的に身を屈めて前転する。その直後、それまでルカが居た所に魔族が勢いよく右手を振り下ろした。鋭利な爪が空を裂き、ルカのすぐ背後で大気が悲鳴を上げるような嫌な音を響かせる。
「なぜわかった!?」
魔族が驚嘆の声を上げる。これはスーツと化した大悟が、その身に受ける風の流れや気配に敏感になったからであったが、それを魔族が知ることは無かった。
そして魔族と同じように、ルカも撃つのを止めて驚きの表情を浮かべていた。
「あれを振り切ったって言うの……!?」
「小賢しい真似をしてくれる!」
抱くように銃を持って(魔力によって生み出した物なので撃ち終えた後の銃身が火傷するほど熱くなるということは無い)ルカが動揺し、それに対して全身痣だらけにしながらその魔族が吐き捨てる。そして腰を屈めて膝を曲げ、両手を顔の高さにまで持って行って大きく構えを取る。
「何を使っているのかは知らんが、これ以上食らうわけにもいかん」
魔族が顔をしかめる。それは痛みから来るものなのか、それとも怒りからなのか、ルカにはわからなかった。
「終わりだ。これで終わりにしてやる」
わかることと言えば、その顔がとても恐ろしいことと、魔族が次の攻撃で雌雄を決するつもりでいることだった。
「これで決着をつける気みたい。ダイゴ、どうする?」
『近づいてきた時を見計らって、破壊力のあるアレで撃ち落とすのが確実だと思う――ルカにはかなり怖い思いをさせることになるけど』
「問題ないよ。もっと怖い目にあってきたんだから」
『なら問題ないな』
大悟が笑い、つられてルカも笑い返す。そしてそれまで持っていたAKをスライムに戻し、不気味に蠢
かせたまま変形させることもなく両手の中に収め続けていた。
「さあ、いいわよ」
「……行くぞ」
まっすぐに魔族が飛び出す。翼をはためかせ、迷うことなく一直線に突っ込んでいく。
その迷いのない真っ直ぐな軌道を見て、学が無いとも強固な意志を持っていて羨ましいとも感じながら、ルカが手の中のスライムを変形させ始める。
今回三個目の武器。それはこれまでの物とは違い、外面の全てを滑らかな流線型で作られたスマートな形の銃だった。
「レミントンM870」
生み出したショットガンを目線の高さに構え、ルカが静かに告げる。
距離が詰まる。狂喜する魔族の顔が眼前に迫る。魔族によって圧迫され、吹き荒れる風を全身に受ける。
爪が斜めにその顔面に迫る。
「バイバイ」
一息に引き金を引く。
最後の轟音が木霊し、放たれた一発の銃弾から分散した大量の小粒の弾が一斉に魔族に降り注ぐ。
それまでの物とは段違いの衝撃。兵士のハンマーではない。巨人の張り手を正面から貰ったような最悪の感覚。
直撃を貰った魔族が後ろに回転し、後頭部から地面に叩きつけられる。翼を動かす暇もなかった。
それで終わりだった。
「お前の……」
その魔族は、辛うじて意識は保っていた。仰向けに倒れた状態からゆっくりと顔だけを上げれば、眼前に長い棒状の物を持ったまま立ちすくむ女の姿が見えた。その女に向けて魔族が切れ切れに言った。
「お前の、名前……最後に教えてくれないか」
「……止めを刺す気は無いから」
大きく息をつき、疲れた様に女が返す。それでも魔族は食い下がった。
「それでもいい。名前が聞きたい」
「どうしてききたいの?」
「なんとなく……だ。聞きたい気分になった」
そんな魔族の要求に折れたのか、棒状の物を片手で担ぎ女が言った。
「ルイ」
「ルイ?」
「そう。二人の名前から取ったの」
ルカのル。ダイゴのイ。その時は、それを魔族が知ることは無かった。
ただ彼女の名前だけを。
「弾丸魔法少女ルイ」
名前だけを脳裏に刻みながら、ゆっくりと目を閉じた。




