はじめての貴族
「マールバラ伯爵のジョージ・マールバラだ。娘を助けてくれて感謝する」
僕、ホシノ ミライは頭を抱えたくなるのを堪えながら、目の前にいるマールバラ伯爵と面会していた。
どうしてこうなったかって?
キャサリンさんに窮地のところを助けてもらい、僕はじゃあサヨナラ、とするつもりだった。権力を持ってる人と行動しても仕方ないからだ。
しかしキャサリンさんが
「お礼がしたので良ければ家まで来てください」
と言い出した。何とか辞退しようとしたのだが、トータス団長から
「お嬢様は一度言い出すとてこでも動きません」
という諦めに近いアドバイスを貰い、やむなく同行することになった。
そして馬車で数時間かけ到着した領都にて、めちゃくちゃ大きいお屋敷のめちゃくちゃ大きな客間と思われる部屋に通され、しばらくしたらお貴族様の降臨、というわけである。
「礼儀は気にしないでくれ。平民相手にそこまで目くじらを立てるつもりはない」
一応頷いたが、はいそうですか、と楽にはできない。この世界に貴族がある以上、恐らくこの人は僕を処刑にしたりもできるだろう。
ヘクセレイ・マンになれば逃げることもできるだろうが、早速お尋ね者になりたくもないのだ。
「まずは此度の件へのお礼をしたい。これを受け取ってほしい」
そう言うと伯爵は、控えていた執事か何かに目くばせした。すると執事は目の前にドサッと重いものが入った袋を取り出した。
「金貨10枚相当の銀貨が入ってる。重ねて言うが受け取ってくれ」
目を見る限り、本当に受け取ってほしそうに見える。正直この世界の金も何も持ってないのでありがたいのも本心だ。僕は素直に受け取った。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
「なに、正直に言えば、誘拐されていたらもっと金がかかったしな。安いものだよ」
僕がお礼を言えば、伯爵は朗らかにそう返した。
この世界での貨幣の価値は知らないが、恐らく身代金はもっと高いのだろう。どうやら僕は気づかない内に伯爵家の財政も助けていたらしい。
「して旅人よ、君は行く当てもなく旅をしていると聞いた。冒険者ギルドや商業ギルドにも属さずに旅をしているそうじゃないか」
こう伯爵は言うと、僕を見てさらに尋ねてきた。
「どうだ、我が領軍で働かないか?聞けばオリジナルの魔法を使えるそうじゃないか。その才能、放置するには惜しいぞ」
まさかの勧誘だった。ヘクセレイ・フリスビーを見せてしまった以上、これも仕方がないことか。
さて、どうやって断ろうか…
「ありがとうございます。ですが私は田舎の出身かつ無知な身です。各ギルドのことも特に眼中になく、これまで自給自足で旅をしてきました。そのような身で誰かに仕えるのは難しいと思います」
「そうか。では今後はどうするつもりだ?また旅に出るのか?」
残念そうに伯爵は言ってきた。ま、行く当てもないから答えは決まってるんだけどね。
「いいえ、実はそろそろ路銀が尽きてきてました。今回の報奨金以外にももっと路銀を貯めてから他所に行こうと思います。初めに今までしてこなかった冒険者登録をし用と思います」
「なるほど。金が尽きたなら労働をしなくてはならんからな。頑張るといい」
「ありがとうございます」
伯爵から激励の言葉を貰った僕は、そろそろお暇することにした。
いつまでも貴族の家にいても落ち着かないからね。
去り際、キャサリンさんが見送りに来てくれた。
「ハヤタさん、今回は本当にありがとうございました。この恩は忘れませんわ」
「人として当然のことをしただけです。そこまで改まらないでください」
お礼を言ってくるキャサリンさんに対し、僕は適当に答える。威張って逮捕とかなったら怖いからね。
「またいつでもお会いにきてください。いつでも歓迎いたしますわ」
「かしこまりました。またお会いいたしましょう」
礼儀には礼儀を返した。貴族と関わりたくないからもう会うことはないだろう。でもこの先の幸せをこっそり祈っておく。
こうして別れを済ませて門を出た。さ、まずは冒険者ギルドだ。冒険者になってお金を稼いでいかないとね。
ありがとうございました!




