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ロールバック・ライフ ~ブラックSE(30)、10年前の専門学生に戻ったので未来知識で全部やり直す~  作者: 深夜三時
第1章 再起動

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第19話 颯太への警告

 12月17日、日曜日。


「ほら見ろ! また上がったじゃん!」


 駅前のファミレス。ドリンクバーのメロンソーダを片手に、颯太が勝ち誇ったようにスマホを掲げた。


 1BTC=219万円。


 12月8日に天井をつけて少し下がったあと、ビットコインは再び盛り返していた。


「湊、お前、売るの早すぎたんじゃね? あのまま持ってたら、今ごろもっと増えてたぞ」


「……かもな」


「かもな、じゃねえよ。もったいねー」


 颯太は笑いながら、ポテトをつまんだ。


 俺が12月8日に売ったことは、颯太にも話していた。金額までは言っていない。「少し利益が出たから、全部売った」とだけ。


 結衣は、向かいの席でパフェをつつきながら、二人のやりとりを不思議そうに眺めていた。


「二人とも、最近ずっとその話してるね」


「結衣も買えばよかったのに。今からでも遅くねえって」


「私はいいよ。よくわかんないもん」


 ――それでいい、結衣。


 俺は、窓の外に目をやった。


 ショッピングモールのクリスマスツリーが、きらきらと光っている。


 この熱狂は、もうすぐ終わる。


◇


 12月22日、金曜日。


 冬休み前、最後の授業の日。


 昼休みの学食に、颯太の姿がなかった。


 LINEを送っても、既読がつかない。


 放課後、空き教室を覗くと、颯太が一人で、窓際の机に突っ伏していた。


「……颯太?」


 顔を上げた颯太は、ひどい顔をしていた。目の下にクマ。唇が乾いている。


「湊……。見たか、今日の」


 スマホの画面には、真っ赤なチャートが映っていた。


 1BTC=150万円。


 朝から一気に崩れて、たった半日で、3割近く下がっていた。


「NEMも、他のも、全部……。昨日まで280万あったのが、今、190万切ってる」


 颯太の声が、震えていた。


「一日で、90万だぞ。バイト何か月分だよ……」


「颯太」


 俺は、颯太の向かいの椅子に座った。


「今から、俺の言うことを聞いてくれ。真面目な話だ」


◇


「あの取引所から、資産を全部移せ。今日中に」


「……またそれかよ」


 颯太は、力なく笑った。


「今移したって、下がった分は戻ってこねえよ」


「下がった分の話じゃない」


 俺は、声を落とした。


「年明け、たぶん1月のうちに、あの取引所で、大きな事件が起きる」


 颯太の目が、わずかに見開かれた。


「……事件?」


「不正アクセス。資産が、まとめて盗まれる。特に、NEMが危ない」


「は……? なんで、そんなことわかるんだよ」


 ――言えない。


 2027年から戻ってきたなんて、言えるわけがない。


「わからない。でも、そういう気がするんだ。ずっと」


「気がするって、お前……」


 颯太が、呆れたように眉をひそめる。


 それから、ふっと、真顔になった。


「なあ、湊。お前、春からおかしいよ」


 空き教室の空気が、ぴんと張り詰めた。


「ビットコイン、一番安い時に全財産で買って、一番高い日に全部売った。8月の分裂も、9月の暴落も、全部『慌てるな』って言って、全部そのとおりになった。コンテストの回線トラブルも、一瞬で対処した。講師にも、あの社長にも、なんか特別扱いされてる」


 颯太が、真っ直ぐに俺を見た。


「お前、何を知ってるんだ?」


 心臓が、うるさいほど鳴っていた。


 言ってしまおうか。


 全部。2027年のこと。前の人生のこと。お前が、この先どうなったのかを。


 ――でも。


 言ったところで、颯太は信じない。信じたとしても、今度は「じゃあ、次に上がる通貨を教えてくれ」と言うだろう。そうやって、颯太はもっと深く、沼に沈んでいく。


 俺が颯太に渡したいのは、未来の答えじゃない。


 自分で、立ち止まれる力だ。


「……信じなくていい」


 俺は、ゆっくりと言った。


「俺の勘が、たまたま当たってるだけかもしれない。でも、今回だけは、俺に賭けてくれ」


「賭けるって」


「全部じゃなくていい。半分だけでいい。半分を、別の取引所に移してくれ」


 そして、俺は、一番言いたくなかった言葉を口にした。


「もし1月が過ぎても、何も起きなかったら。移したせいで、お前が損した分は、全部俺が払う」


 颯太の顔が、固まった。


「……は?」


「12月8日に売った金がある。お前が損した分くらいは、払える」


 長い沈黙があった。


 廊下を、帰っていく学生たちの笑い声が通り過ぎていく。


「……お前、それ、本気で言ってんの」


「本気だ」


「バカじゃねえの」


 颯太は、顔を伏せた。


 肩が、小さく震えていた。


「お前が損した分払うとか……友達に、そんなこと言わせんなよ……」


◇


 その夜。


 颯太から、LINEが届いた。


『ビットコインの分だけ、あの取引所から出した。お前が使ってる取引所は登録に時間かかるから、今はとりあえず手元のウォレットに逃がしてる。やり方、ネットで調べた』


 画面を見て、俺は長く息を吐いた。


 少しの間を置いて、もう一通。


『でも、NEMはもうちょい持っとく。ここから上がるってみんな言ってるし。年明けに、また考える』


 ――NEM。


 スマホを握る手に、力が入った。


 あの取引所から盗まれるのは、まさにNEMだ。


 でも、颯太は動いた。半分だけでも、自分の意思で、立ち止まった。


 前の人生の颯太は、一度も立ち止まらなかった。


『わかった。ありがとう、颯太』


 送信してから、もう一行を書き足した。


『NEMも、年明けすぐに考えてくれ。頼む』


 既読がついて、しばらくしてから返信が来た。


『しつけーよ(笑) わかったって』


 ノートパソコンの「人生ロールバック計画」を開く。


 ・颯太:BTC分を移動(2017/12/22) NEMは残留

  → 期限:2018/01/25


 期限まで、あと34日。


 半分は、届いた。


 残りの半分を、俺はまだ、救えていない。


お読みいただき、ありがとうございます!

次回は明日21時に更新します。


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