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ロールバック・ライフ ~ブラックSE(30)、10年前の専門学生に戻ったので未来知識で全部やり直す~  作者: 深夜三時
第1章 再起動

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第17話 利確

 12月8日、金曜日。夜11時。


 家族が寝静まったあと、俺は自分の部屋で、取引所の資産画面を見つめていた。


 日本円:4,559,312円。


 ビットコイン:0 BTC。


 ビットコインキャッシュ:0 BCH。


 夕方のうちに、ビットコインキャッシュも全て売っていた。1枚15万円ほど。8月にもらった時は4万円だったから、こっちも4倍近くになっていた。


 455万円。


 その数字を、何度も、何度も見直した。


 桁を数える。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん。じゅうまん。ひゃくまん。


 ――455万円。


 前の人生で、俺の年収が一番高かった年でも、手取りはこれより少なかった。月100時間の残業をして、休日も障害対応に呼び出されて、それで、この金額に届かなかった。


 それを、20歳の俺は、8か月足らずで手に入れた。


 手が、震えていた。


 喜びなのか、怖さなのか、自分でもよくわからなかった。


◇


 出金の手続きをする。


 取引所から、自分の銀行口座へ。手数料を引かれて、反映は週明けになるらしい。


 申請ボタンを押して、画面を閉じた。


 そのまま、しばらく椅子の上で動けなかった。


 誰かに言いたかった。


 母さんに。結衣に。颯太に。


 「やったぞ」と叫びたかった。


 でも、言えない。


 颯太は、まだ持っている。今日売れと言ったのに、売らなかった。そんな颯太に、「俺は売って455万円になった」なんて、言えるはずがない。


 結衣には、仮想通貨の話なんてしたくない。


 母さんには――週明け、口座に入金されたのを見せてから、ちゃんと話そう。


 ふと、部屋の窓の外を見た。


 12月の夜空に、冷たく星が光っていた。


 コートを羽織って、そっと家を出た。


◇


 近所のコンビニまで、歩いて5分。


 冬の夜道は、しんと静まり返っていた。吐く息が白い。


 コンビニの明かりの中に入ると、店員の「いらっしゃいませー」という気の抜けた声が響いた。


 特に、何か買いたいものがあったわけじゃない。


 ただ、じっとしていられなかった。


 店内をぐるりと一周して、スイーツの棚の前で足が止まった。


 ――とろけるプリン。


 母さんが好きなやつだ。


 前の人生で、母さんの病室に見舞いに行ったとき。食欲がないと言っていた母さんが、これだけは「おいしい」と言って、半分だけ食べた。


 俺がお見舞いに行ったのは、あの時が最初で、最後だった。


 棚から、三つ取った。母さんと、葵と、俺の分。


 レジで会計を済ませて、外に出る。


 298円が三つで、894円。


 455万円を手に入れた夜に、894円のプリン。


 なんだか、それがおかしくて、帰り道で一人で笑ってしまった。


 笑っているうちに、視界がにじんだ。


 ――ああ、そうか。


 俺はずっと、怖かったんだ。


 四月に全財産を賭けた日から、ずっと。記憶が間違っていたら。未来が変わっていたら。母さんを救うための最初の一歩で、つまずいてしまったら。


 その怖さが、今やっと、少しだけほどけた。


 コンビニの袋を握りしめたまま、俺は夜道に立ち止まって、しばらく空を見上げていた。


◇


 翌朝。


 台所の冷蔵庫を開けた母さんが、首をかしげた。


「あら、プリン? 誰が買ったの?」


「俺」


「珍しいわね。どうしたの」


「……なんとなく。食べたくなって」


 母さんは「ふうん」と言いながら、プリンを一つ手に取った。


 スプーンですくって、一口。


「おいしい。これ、好きなのよね」


 知ってるよ。


 その言葉は、口には出さなかった。


◇


 土曜日の午後。


 部屋で、俺は電卓を叩いていた。


 手に入れた455万円は、まだ全部が俺のものじゃない。


 前の人生でフリーランスの同僚に聞いた話や、ネットで調べた情報を、一つずつ確認していく。


 仮想通貨の利益は、雑所得。給料と同じように、利益が大きいほど税率が上がる。


 今年の利益は、ざっと430万円。


 所得税と住民税を合わせると、70万円以上。


 それだけじゃない。


 これだけの所得があれば、俺は今年の分から、母さんの扶養に入っていられなくなる。母さんの税金が上がる。家の国民健康保険料も、俺の所得の分だけ跳ね上がる。


「……マジか」


 思わず、頭を抱えた。


 全部合わせると、ざっくり見積もって、100万円近く。


 ネットの掲示板では「億り人」の書き込みが溢れているけれど、そのほとんどは、税金のことなんて考えていない。来年の春、確定申告の季節になって、青ざめる人が大勢出るはずだ。


 前の人生の颯太は、そこまでたどり着くことすらできなかった。


 ノートの新しいページに、大きく書く。


 【税金・保険料用】150万円(手をつけない)


 100万円で足りるかもしれない。でも、念のため、多めに取っておく。


 残りは、約300万円。


 ――億り人には、程遠い。


 でも、それでいい。


 俺が欲しかったのは、億の数字じゃない。


 母さんを病院に連れて行ける力。妹の夢を応援できる力。友達を守れる力。


 そして、自分の人生を、自分で選べる力だ。


 電卓を置いて、窓の外を見た。


 さあ、次だ。


 このお金で、何をするか。


お読みいただき、ありがとうございます!

次回は明日21時に更新します。


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税金、保険を取り除ける。偉い!
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