69. 異端の翼は秘密を知る 2
仮にフレイヤが『理想触媒』だったとして、だ。
敵の目的はいくつか予想がつくが、碌なものは一つもない。
「それで、フレイヤを欲しがってる相手のことは分かったのか?」
つまり彼女に頼んでいた三つの項目のうち、二つ目の物になる。
「一応目星をつけている組織がひとつ」
組織、ね。
ベレールが口を滑らせた『組織』と同一の可能性が高いな。
「エリオラ機関。先ほど挙げた論文執筆者の出資元ですわ」
「エリオラ? それって天秤の書のか?」
「さあどうでしょうか……。組織自体は10年ほど前に発足されたようですが」
六つの基本魔法書と四つの異端書。
これらはすべて錬金術、今で言う『天秤の書』を元に作られている。
で、その天秤の書の生みの親がエリオラ・アービーだ。
もちろん彼女とその魔法書が生まれたのは、10年前なんてもんじゃない。
それこそ魔族と人間が戦っていた数千年前だとか、そのぐらい昔の話だ。
「それでエリオラ機関なのですが、どうも妙でして」
「と言うと?」
「いくら調べても、なにも出てきませんでしたの。この名前を見たのも論文内のみ、というほどに」
「そりゃたしかに怪しさ満点だな」
だからアリシャは目を付けたのか。
調子が戻ったら、俺も調べる必要がありそうだ。
「にしても10年前か。嫌な数字だな」
「レイシス様がドラグシアに来られた年、ですものね……」
ほんと、縁起が悪いとしか言いようがない。
「他に無ければこの話は終わりにしよう」
「ですわね。現状だと組織の名前ぐらいですから、これ以上お話出来ることはありませんわ」
「名前が分かっただけでも大収穫だ。理想触媒に関する論文のコピーは後で回してくれ」
「後日お持ちいたします」
とりあえず進展はあった。
敵の正体が全く分からなかった頃と比べれば、名前が分かっただけでも上々だ。
「では最後の方に移ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ頼む」
「テルラさんの経歴ですが、とくに気になる点はございませんでした。一応こちらがまとめた物になります」
俺は彼女から受け取った紙に目を落とす。
エーリュスフィアの王都、リュシオンで生まれ、幼少期を過ごす。
魔法学校を出てからは、とある公爵貴族の使用人に就職。
で、一年ほど働いた後はシトリス魔法学院のメイドに転職か。
今年来たばかりだったんだな。
「うーん、卒業時の成績も普通だな……」
「至って平凡な方ですわね。レイシス様は何故、彼女について調べろとおっしゃられたのですか?」
「いや、ちょっと気になる出来事があってな」
俺はテルラと食事をした際、一瞬感じた違和感の話をした。
あの気配はどう考えても実戦経験がある。
そう思っていたんだが……。
「ちなみに情報の出所は?」
「主に王都の学校の記録になりますわ。裏付けも取ってあります」
「……まさか王都まで行ったのか?」
「ええ」
王都ってたしか、三つくらい町を跨がなかったか?
「どうかご心配なさらず。ちゃんと空を飛んで行きましたので、誰にも見られてはいないかと」
「あーね……」
アリシャは『空を飛んで』などと言っているが、そんな便利な魔法は俺が知る限り存在しない。
でも彼女が飛んで移動したのは事実だろう。
だいぶ前のことだが、一度見せてもらったことがある。
複数の魔法で周囲の空気を圧縮、爆発させて打ち上げる、という方法を。
まぁつまりだ。
『空を飛んだ』というよりは、空を吹き飛んだ、と言った方が正しい。
俺は思わず彼女を細目で見る。
「も、もちろん闇雲に向かったわけではありませんのよ!? ちゃんとテルラさんが王都の出身だと知ったうえで……」
「分かった分かった。そう慌てるなって」
俺が言いたいのは移動手段の方だったのだが、とりあえず今は放っておこう。
「細かい点は置いておくとして、だ。現状手に入った情報はこんなところか」
理想触媒にエリオラ機関、そしてテルラの過去。
どれも断片的ではあるが、それなりに収穫はあった。
だが真相はまだ見えてきていない。
流れは決して悪くないが、もっと情報が欲しいところだな。




