68. 異端の翼は秘密を知る 1
「ではご主人さま、買い出しの方に行って参ります」
「おうよ、気をつけてな」
ベレールと共謀関係を結び、フレイヤに大事が無かったことを伝えた俺は、早々に寮へと戻っていた。
あとはこれからアリシャと話を――。
「あうっ!」
カバンを取る最中だったのだろうか。
テルラは今日も転んでいた。
「大丈夫かー?」
「は、はい……」
玄関まで見に行ってみるが、大ケガを負ったりしている様子はない。
「やっぱり体調が優れないんじゃないか? しばらく休んだ方が良いと思うが」
「いえ、問題ありませんので!」
彼女はそう強く主張すると、そそくさと出て行ってしまった。
なんか足取りが怪しかったが、本当に大丈夫だろうか。
ここ最近、事あるごとにコケているが……。
「"レイシス様、到着いたしましたわ"」
アリシャか。時間通りだな。
「"ちょっと待ってくれ、すぐ窓を開ける"」
俺は急いで窓際に向かう。
外を見下ろせば、彼女はすでに待機していた。
「"……よし、開けたぞ"」
そう伝えると、アリシャはひょいっと窓を潜り、部屋まで入って来る――。
――だけなら良かったのだが、彼女はそのまま俺に飛びついて来た。
いつもなら避けているところだが、今回はだいぶ負担を掛けてしまった。
しばらくは好きにさせてあげよう。
「お久しぶりですわ! レイシス様!」
「お、おう……。色々任せてしまって悪かったな……」
「いえいえそんな! レイシス様のご命令でしたら、わたくし何でも致しますわ!」
「頼もしい限りだな……」
っと、このままだと時間が無くなる。
テルラが帰ってくる前に済ませなければいけない。
女性を部屋に連れ込んでいた、なんて誤解でもされたら絶対面倒なことになる。
「アリシャ、悪いが早速本題に入ろう。メイドが帰ってくるまでに終わらせたい」
「あら? 今日の逢瀬について、お話になられていないんですの?」
「わざわざ変な言い方するな」
「ふふ、失礼いたしました」
まぁ確かにコソコソ会っているわけだが……。
とりあえず冗談はこのくらいにしておこう。
「それでアリシャ、どのくらいまで分かったんだ?」
「そうですわね、まずは『理想触媒』の方でしょうか。こちらについては割とすぐに判明しましたわ」
俺はイスに座るよう促すと、自分も向かいに腰かけた。
「理想触媒。キャパシティに関係なく、あらゆる魔法書を保有できる素質のことを指しているようです」
「おい、まさか俺と同じって事なのか」
だとしたら絶対に許せない。
でもフレイヤに限ってあり得るのか?
「あーいえ! レイシス様のケースとは全く異なりますの!」
……流石にそんなことは無かったか。
「理想触媒は亜人にのみ現れる、先天的な魔法適性のこと、だそうですわ」
「あぁ、なるほど。どうりで聞いたことが無いわけだ」
俺の知識は人族領の、もっと言えばドラグシアの物に依存してしまっている。
亜人に対する研究がそこまで進んでいない地域だ。
「……ちょっと待ってくれ、フレイヤも知らなさそうみたいだったが」
「当然ですわ。理想触媒の存在が認められたのは、ここ数年の事らしいですので」
「てことはだいぶ最先端なのか。よくそんな物を探し出せたな」
最新の魔法研究とは、すなわち軍事技術とイコールだ。
現段階で人々の生活に役立っている魔法など、どれも型落ちの物でしかない。
魔法に関する新しい情報を他国に流してはいけない。
それが今の常識だ。
「どうも普通に発表された物みたいでして、少し調べるだけで論文が出てきましたの」
「おいおい……」
亜人領の人間は、危機管理能力がないのだろうか。
「隠すほどの事でも無いと判断したのでしょう。なんせ論文では『理想触媒は存在しない』と結論づけられていましたから……」
「ん?」
てことは、フレイヤを襲ってきた敵は一体なにがしたかったんだ。
いや違うな。
『存在しない物』が存在していたと見るべきか。




