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46. 異端の翼は背を向ける

「まあいいじゃありませんの」


 突然そう言ってきたのはアリシャだ。

 気配を殺しているわけでもないだろうに、まったく気付かなかった。


「いつからそこに居たんだ」

「つい先ほどですわ。戻って来たらちょうどお取込み中のようでしたので」


 上品に笑っているが、あれは内心満面の笑みだろうな。


「というかフレイヤは気付いてただろ。なんで教えてくれなかったんだ」

「人差し指で『しーっ』ってされましたから……」


 フレイヤがやっているせいか可愛らしく見えるが、本当は絶対あんな表情じゃない。

 もっとこう、悪魔のような――。


「レイシス様、どうかされましたか?」

「いやなんでもない」


 こんなことで言い合いになっても仕方ないな。


 別にアリシャの目が怖かったわけじゃない。

 真面目な話、今はもっと重要な事がある。


「それよりさっきのだが、フレイヤを連れて行くなんて本気で言っているのか?」

「もちろんですわ」


 ここから先は手の内を隠しつつ、戦えるほど甘くはない。


 いや、正直余裕があるかも怪しい。

 今回は後方支援もなく、そのうえ俺とアリシャしかいないのだから。


「治癒魔法を使える方はいるべきだと、わたくしもそう思いますの」

「あのなぁ……」


 アリシャは回帰の書の存在だって知っている。

 つまり今の発言は建前だ。


 そうまでしてフレイヤを連れて行こうとする意図が読めない。


「アリシャさんもこう言っていますし、ダメですか……?」


 このままでは押し切られそうだ。

 あと冷静に判断してくれそうなやつと言えば……。


「む? 私はフレイヤ様と同意見だが」

「本当にそう思っているんだろうな?」

「当然だ」


 しばらく睨んでみるが反応は変わらない。

 嘘は言っていなさそうだ。


 てっきり相手がフレイヤだから、否定してないのかと思ったんだが。


 一応ライエンの後ろにいる二人にも聞いてみるが結果は同じ。

 よって反対派は俺のみとなる。


「ほら、多数決ですし構いませんわよね?」


 アリシャは勝ち誇ったような表情で、上目遣いで見つめて来る。

 どうやら今回は俺の負けらしい。


「あーもう分かったよ。三人で行けばいいんだろ?」

「――ありがとうございます!」


 俺とは対照的にフレイヤは嬉しそうだ。



 しかしこんなところで多数決を返されるとは思わなかった。

 もともとは遠慮がちなアリシャを、無理やり自由にさせる手段だったんだが。


 いや、そういう意味ではちゃんと機能している……のか?



----



 ライエンたちと別れ、生徒を探す名目で歩き出した俺たち。


 もちろん行先は森の奥。

 つまり敵がいると思われる場所であり、魔獣はそこら中に配置されていた。


 ちなみに本来の目的についてだが、三人になった時点でフレイヤには話してある。

 ミーリヤの症状について、おおかたの見当が付いている事もだ。


「こちらは片付きましたわ」

「おう、さすがに手慣れて来たな」


 後方のアリシャを見ながら、たった今踏みつけた『フェロシティ』の喉を貫いてとどめを刺す。

 さっきからずっとこの繰り返しだ。


「フレイヤは無事か?」

「はい!」


 彼女はさらに後ろ、安全を確保した場所で待機している。

 成り行きでついて来るハメになったわけだが、戦闘に参加させるかはまた別の話だ。


 この点に関してはアリシャも同じ考えだったらしい。

 ますますフレイヤを連れて行かせようとした意味がわからん。


「レイシス様、少しよろしいでしょうか?」

「《"高次探知(ハイ・ソナー)"》の話か?」

「ということはやはりレイシス様も、ですか……」


 アリシャが言いかけたように、今ではもう探知魔法が機能していない。

 進んでいくごとに魔力が濃くなっているせいだ。


 今回の元凶が近づいているのか、はたまた濃度が進行しただけなのか。


 砂浜まで引き返し、比較するわけにも行かないため真相は分からない。

 が、急いだほうが良さそうなことに変わりはないだろう。


「ここから先は勘に頼っていくしかないだろうな」

「なんとかやってみますわ」


 こうしてまた歩き始めた俺たちだったが、となりに戻って来たフレイヤはなにやら言いたげな表情だ。


「どうかしたか?」

「あの……。わたしが言うのもなんですが、そんな適当な感じで大丈夫なんですか?」


 おそらく先ほどしていた話の事だろう。

 今の今まで気づかなかったが、あれでは適当だと思われても仕方ないな。


「『勘』と言ってもだな……」


 そのまま説明を続けようとしたのだが、なぜかアリシャが先に話始めた。


「例えば木々の揺れに気を配ったり、向けられた殺意を感じ取る、とでも言いましょうか」


 しかもかなり大雑把だ。

 これではフレイヤにもよく分からない。


 と思ったのだが、当の本人は納得したらしい。

 思わずアリシャに視線を戻す。


「申しわけありません。レイシス様が話されても、すぐには理解しづらいと思いましたので」

「……なるほど」


 たしかにここで細かく教える必要はない。

 そんな事を考えていた時だった。


 ずっと変わらなかった景色が突然切り変わり、視界が開けた。

 いや、道がなくなったと言うべきか。


 そのまま崖の端まで近づいた俺たちだが、すぐさま後退して身を隠す。


「今のは一体なんですか……?」

「おそらく敵のキャンプ地だ」


 二人を手で制し、見つからないよう注意しながらもう一度崖の端まで移動する。



 見下ろす先、まず最初に目につくのは中央にある巨大な塔だ。

 造りから魔導具の類だとは思うのだが、あんな物は見たことがない。


 くわえて大量の機材とテント群。

 さらには待機状態で配備されいている『フェロシティ』も無視出来ない。


 あとは周囲にいる人間たちだが、服装だけ見れば普通の盗賊だ。

 とはいえ偽装と見て間違いないだろう。


 あれだけの物資や設備、ただの盗賊が手に入れられるとは考えにくい。


 現時点では彼らの正体は分からない。

 だが歩き方からして統一されているのだし、訓練を受けた人間しかいないのは明白だ。



 俺はもう一度見回し、情報を整理しながらフレイヤたちの元に戻る。


「レイシス様、いかがでしたか?」

「見た目は盗賊なんだがな。近接戦用の、それも全員同じ魔法杖(まどうじょう)を携帯していた」

「待ってください、全員……ですか? 先ほど少しだけ見た際、かなりいた気がするのですが……」


 アリシャの言う通り、確認出来ただけでも一個中隊ほどの人員だ。

 一応民生品だったとはいえ、そのすべてが装備を統一している。


 盗賊と言い張るにはさすがに無理があるだろう。


「あの、本当に戦うんですか……?」


 不意に口を開いたフレイヤの表情はひどく不安げだ。


「行くしかない、だろうな」


 状況的に見て、あの()がもっとも怪しい。

 あれを調べるためにも戦闘は避けられない。


 それに相手は軍用の魔獣を平気で扱う集団だ。

 どちらにせよ、ここで対処しておくに越したことはない。


「まぁ心配するな。最悪俺一人でなんとかする」


 つまりアリシャも置いて行こうとしているわけだが、今度はなにも言ってこないようだ。

 俺の考えを分かってくれているのだろう。


「一人でなんて、そんな無茶苦茶な……」

「ここから先は本当に危険なんだ」


 それにフレイヤにはあまり見せたくない。


 人が人を殺すために、魔法を打ち合う光景なんて。

 そんなもの、彼女には知ってほしくない。


「だから――」


 ここでアリシャと待っていて欲しい。


 そう伝えようとした時だった。


「わたしも戦います。わたしだってお姉ちゃんのために何かしたいんです」


 とても真剣な眼差しだ。

 だが今度ばかりは聞き入れるわけにはいかない。


「――俺は今から人を殺しに行くと、そう言っているんだぞ」


 目を見て言い放つとフレイヤは口をつぐむ。

 

 彼女からしてみれば、戦うと言っても気絶させる程度だと考えていたはずだ。


 でもそれは違う。


 殺さずに無力化する、というのはとても難しい。

 そしてそれは不安定な手段だ。


 だからこそ、失敗しないためにも確実に殺す必要がある。


「アリシャ、あとは任せたぞ」


 嫌われることぐらい慣れている。


 ずっとそうしてきたはずなのに、今日はなぜか言葉が詰まった。


 だが気に掛けたのは一瞬だ。

 今はもう、ちゃんと落ち着けている。


「フレイヤさんの事はお任せください。ご武運をお祈りしていますわ」


 アリシャの答えに安心し、背を向けた瞬間。


 俺は突然左手を掴まれた。

 彼女の手はひどく震えている。


「今度は絶対……ちゃんと帰って来てくださいね……」

「――もちろんだ」


 俺は強く握り返すと、下に降りるべく歩き出した。


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