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45. 問題児は押し負ける

 今回は時間に余裕がある。

 先ほどのように軍用魔法を使う必要はない。


「――《"フレア・ブレード"》」


 第一章の第二節。


 烈火の書を持つ人間なら、最初に学ぶであろう基本的な魔法のひとつだ。


 効果は至って単純。

 炎の剣を手元に作り出すだけの簡単な物。


 だからだろう。

 ライエンは俺の魔法を見た瞬間、止めに入って来た。


「待て! そんな魔法ではあの数は倒せん!」

「まぁそこで見とけって」


 俺は制止を振り切り飛び出す。


 まず手始めに手近な魔獣の目前にまで迫り右手を振るう。

 同時に左手を別の魔獣に向け、《"フロスト・スピア"》を射出。


 そのまま立て続けに踏み込み、テンポよく『フェロシティ』を処理していく。



 炎の刃による斬撃、そして氷の槍による貫通。


 どちらもなんのことはない、誰でも簡単に使える魔法だ。

 俺が使っていても、誰も不審がらないだろう。


 それに敵はフレイヤの魔法によって拘束されている。

 最後の一匹を切り捨てるまでに、時間も労力もそれほど使う必要はなかった。


「ふぅ……」


 魔法を解き、思わず一息ついた時だ。


 一匹の『フェロシティ』が視界の端を通り過ぎた。

 あの先にはフレイヤたちがいる。


「取りこぼしたのか? いや――」


 あれは俺が来た時にすでに倒れていた個体だ。

 どうやらまだ生きていたらしい。


 すぐさま氷の槍を数本飛ばす。

 が、敵は速度を落とすことなく、次々と避けていく。


 さすがに無詠唱ではこの距離だと精度が足りない。


「それなら――」


 続けて魔法を詠唱。

 右手に生み出した炎の剣を投げつけ、同時に全速力で距離を詰めていく。


 またも魔獣は攻撃をかわすが問題ない。

 元より狙いは別のところにある。


 狙い通り、飛んで行った炎はさらに先へと着弾。

 木の根元を両断し進路をふさぐことに成功した。


 当然敵は一瞬立ち止まる。

 近づくには十分な隙だ。


 俺は急いで《"フレア・ブレード"》を生成、今度こそ確実に首を切り落とす。



 さらに探知魔法を使い、他に取りこぼした敵がいないか確認する。

 ()()()()()せいで反応は悪いが、それでも手ごたえはある。


 結果はゼロ。

 周囲の魔獣はすべて処理したと見ていいだろう。


「悪いな、最後の最後で気を抜いちまった。そっちは大丈夫だったか?」

「あ、あぁ……」


 燃やしてしまった木を消化しながら、ライエンたちの様子を確認する。


 幸いにも被害は及んでいない。

 間に合ってよかった。


「フレイヤも助かった。魔法を使うのが早すぎて驚いたぞ」

「あはは……。気付いたら咄嗟に使っていただけですよ」


 無意識にあの判断を下したのか。

 もしかしたら、彼女には戦闘のセンスがあるかもしれない。


「ロズウィリア、ひとつ聞いてもいいだろうか?」


 先ほどの戦いを思い出していると、唐突にライエンがたずねて来た。


 しかしこの問い掛けも慣れてきたな。

 俺は彼だけに分かるよう、コソっとフレイヤを見る。


「この状況なら、かばってわざと負傷するのがベストだろう」

「なるほど、そんな手が――って違う!」


 今回は別の話だったらしい。

 彼は一拍置くと話を切り出す。


「今の身のこなしについて聞きたかったのだ」

「べつに授業で教わったとおりだぞ」


 もちろん()()()()()()()ものだ。

 軍ではあんな立ち回りはしない。


「私が聞きたいのはそこではない。なぜあんなに動けるのだと聞いている」

「そりゃもう学校の実習が素晴らしかったからな」

「あれ、レイシスさんって授業受けてましたっけ……?」


 なにか小さな声が聞こえたが無視だ。

 ライエンは気づいてないみたいだし問題ない。


「これは()()だ。普通なら腰が引けたりする」


 めずらしく鋭いな。


 ……そういえば前は『騎士養成所』にいたんだっけか。

 すっかり忘れてたな。


「無我夢中だっただけだよ。とくに深い理由はないって」

「そんなことがあり得るのか……?」


 彼は考え込むようにアゴに手を添える。

 また再開されても面倒だし、話を変えるならいましかない。


「そういえばルカはどうしたんだ?」

「……ん? 会長なら随分前に見つけた生徒を送っている」

「まさか一人でか?」


 いくらルカとはいえ心配だ。


「いや、たまたま居合わせたベレール教官が一緒だ」

「あーなら大丈夫だな」


 気にするだけ無駄だったか。

 あの怪物と一緒なら安心だ。


 アレは魔法なんぞ使わなくとも、素手だけで戦えそうな()()()だからな。


「じゃあ捜索をさっさと済ませるか?」

「そうしたいのは山々だが、我々も魔力の消耗が激しいのだ」


 ということは、俺たちが来る前からかなり戦っていたのか。

 まあそれなら都合がいい。


「じゃあ残りは俺が見て来るか」

「……話を聞いていなかったのか?」

「いや、俺一人で済ませて来るから気にすんな」


 そう伝え、さっさとこの場を後にしようとしたのだが、突然フレイヤに手を握られる。


「待ってください。ひとりで行動するのは危ないと思います」

「フレイヤ様の言う通りだ。孤立するのは危険だろう」


 もちろん答えは用意してある。


「先にアリシャと合流するさ。そろそろこっちに着く頃合いじゃないか?」

「でも……」

「フレイヤから見て、俺とアリシャはそんなに頼りないか?」


 仕方なかったとはいえ、俺たちはすでに軍用魔法を見せてしまっている。

 彼女は知らなかったようだが、強力な魔法が使われたことくらい分かっているだろう。


「――わたしも行きます」

「いや待て、なんでそうなる」

「危ないからです」


 駄々をこねている感じはない。

 むしろとても落ち着いているように見える。



 フレイヤは自分を過大評価するような人間じゃないはずだ。


 つまり冷静にちゃんと考えた上で、『ついて行く』と。

 彼女はそう言っていることになる。


「危ないからこそ、俺とアリシャだけで行くと提案してるんだ」

「さっき聞いたんです。アリシャさんは疾風の書しか使えないんですよね?」

「……そうだな」


 いつの間にそんな話をしたんだ。


 ――『さっき』、か。

 となるミーリヤの応急処置をしたあとが怪しいな。


「つまりお二人とも、治癒魔法が使えないことになります」


 たしかに彼女の言う通りだ。


 俺は豊穣の書を持っていない、ということになっている。

 そして治癒魔法が記載されているのはコイツだけだ。


「ですからわたしも一緒に行きます」

「いやでもな……」


 急いで言い訳を考える。

 が、なにも思い浮かばない。


 フレイヤの言い分は至って正論だ。


「まあいいじゃありませんの」


 視線を上げ、言葉を詰まらせていると不意に声を掛けられた。



 いつの間に来たのやら。

 振り返ってみれば、アリシャがそこに立っていた。

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