完璧でないロボット2
「ただいま」
家に少し早めに帰ってきた。いつも通り彼女が玄関に立って出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「風呂に入る。夕飯はそのあと用意してくれ」
「申し訳ありません。旦那様が帰ってくるのがいつもよりも早かった為、まだお風呂の支度がすんでおりません」
「え?そうかい、沸いてないのか。じゃ先に食事にしてくれ、今日はあまり食欲がなくて昼はあまり食べてないんだ」
「申し訳ありません。朝、旦那様が夕食は必要ないとおっしゃっていたので材料を用意しておりません」
「まいったな、夕食もなしか。何かできないか?」
「朝ご飯の洋食ならすぐに作ることが可能です」
「パンか、まぁいいか。それで頼む」
「かしこまりました。それと旦那様、本日は関節パーツの交換の予定日です交換をお願いいたします」
「ああもうそんな時期か、めんどくさいんだよな。ご飯食べて風呂に入ってからじゃダメかい?」
「今日中であれば問題ありません。面倒であれば関節交換用出張ロボットを呼びますがいかがなさいますか?」
「いや、金がもったいない。それに自分でできるしな、私がやろう」
「よろしくお願いいたします」
そう言って彼女は朝食の準備もとい夕食の準備に取り掛かる。カタカタと台所のほうで音がする、いつもの食事を作ってくれているようだ。その間に私は湯船に湯をためる。ボタンを押すだけのことだが湯につかる前のワクワクは子供の時から変わらない。彼女が食事を作っている間、私は彼女の関節パーツを納屋のほうから運んできた。これらはかなり重い、腕のパーツ一つにしても5kgはあるだろう。三往復ほどして彼女の呼ぶ声がしたので、一度居間に行った。
「旦那様、食事の準備が出来ました」
「悪いんだが先にお茶を入れてくれないか、のどが渇いた」
「かしこまりました」
椅子に腰かけると私は二の腕のマッサージをしながら彼女を見た。
「おいおい、零れてるぞ。ストップ、ストップだ。流石にお茶を入れる機能くらい追加したいな、能力拡張カードって今どれくらいするんだっけ?」
「新品の販売、製造はすでに終了しております。中古の相場ですと一枚4万円ほどです」
「そんなにするのか、お茶を入れるだけでかなりかかるな」
それもそうだろう、彼女ももう10年ほどの前に買ったものだ。今はもう最新のロボットでさえ中古の拡張カードの6枚もあればたいそうなものが買え、さらに彼女よりももっと高性能だろう。お茶を入れることはもちろん、料理のレパートリー、洗濯、掃除、マッサージ、ベットメイク、家のことなら何でもできてしまう。しかし私は何とはなく新しいロボットを買うことはしなかった。
「ついでに料理のレシピのカードも買ってくるか。もう2、3種類はレパートリーが欲しいな、さすがに」
「能力拡張カードが4枚ですともう少しお金を出せば私よりも最新のいいロボットが買うこともできます」
「いや、いいや。まだ当分君には働いてもらうよ。お金ももったいないしな」
「ありがとうございます。今、食器をご用意します少々お待ちください」
彼女はそう言って台所に戻った。少しするとテーブルにはパンとスクランブルエッグとサラダと焼けたソーセージとコンソメスープが並び、私が入れたお茶がそろった。「いただきます」と私が言い、彼女は「お召し上がりください」と言う。久々の自宅での夕食である。パンの甘く焼けたにおいが私の鼻を刺激して思わず手を伸ばす。それから、コンソメスープをスプーンですくい飲む。間にスクランブルエッグやソーセージなどを食べる。夕食の後は万能ビタミン剤を飲み一息ついた。食事はいつも通りの味だったがいつもよりもおいしい気がした。彼女が食器を洗っている間、また私は納屋に行き彼女の関節パーツをすべて持ってきた。
「では、よろしくお願いします」
そう言って彼女はスリープモードに切り替わる。スリープモードに切り替わるとまるで本当の人間が眠っているようである。まずは彼女の関節をすべて外し、新しいパーツを潤滑剤を薄く塗りはめ込んでいく30分もすればすべてのパーツは彼女の手足になる。外したパーツは出張ロボットがいれば持っていてくれるのだが、今日のところは玄関あたりにおこう。明日にでも回収ロボットをよんでおけばいいだろう。すべての作業が終わると彼女をスリープモードから起こした。
「おはようございます」
「おはよう、関節の調子はどうだ?」
彼女は手足を軽く動かして「特に問題はありません」と答えた。私はそれを聞くと頷き風呂に入ることにした。
どんな時代が変わっても風呂の心地よさは変わらないものだ。100年前もこの温かさは変わらないだろう。こんなにも発達した人類がわざわざ裸になってニホンザルなどと同じように湯につかるというのもおかしな話ではあるが。宇宙なんかでも今の時代風呂はあるらしい、私は入ったことがないからわからないが一度は行ってみたいな。私は風呂が好きだ。とあれこれ考えているとだんだん視界がぼやけてきた、少しのぼせてきたようだ。のぼせて溺れてしまってもすぐに彼女が助けてくれるので溺れてしまっても問題はないが、大の大人が裸で女性の格好をしたロボットに助けられるのは絵的には好ましいないのでそろそろ出ることにする。
「さて、ちょっと雑談でもしようか」
「はい、旦那様」
「君がうちに来てからもう何年くらいになるかな」
「今日で10年と7か月7日になります」
「10年半か、そうりゃかなりお世話になってるな。ところで、ロボットの買い替え周期の標準はどのくらいだったかな?」
「メーカーは標準的に3年が推奨されています。しかし、実際は2年2か月ほどで新しいロボットに買い替えらているようです」
「そんなに早いのか。それじゃ何だ君はざっと5世代前のロボットになるのか、まさにアンティークだな。パーツなんかも値上がりするし、拡張カードも高いし何とかならないもんかね」
「御心配には及びません、旦那様。私のパーツは間もなく市場からなくなります。」
「なくなったら、もっと探すのが大変になるじゃないか」
「いいえ、逆です。そうなれば旧式である私を破棄し、新しいロボットを買うことができます。最新型のロボットのパーツの価格は私の10分の1以下です。交換も私よりも頻度が少なく、手間もありりません。大変経済的です」
「・・・」
「新型であれば料理のレパートリーも500円ほどでダウンロードでき拡張性やメモリーは私とは比べ物にならないほどです」
「新型を買ったら君はどうなる?うちの納屋は君を入れておくほど大きいわけではないが」
「ご安心ください。下取りプログラムがございます。旧式のロボットであれば新型の20%で買い取り可能です」
「・・・なるほどな、よくわかった。今日は眠くなったから寝るよ。明日は休日だがいつも通りに起こしてくれ。」
「かしこまりました。お休みなさいませ、旦那様」
そう言って私は寝室に歩いて行きベットに潜る。明日は特に予定はないがいつもの時間に起きてゆっくりするとしよう。それではおやすみ。




