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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第四章:夏休み編
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第二十七話:棚から豆大福


朝、今日も無事に目を覚ました私の目に映って来たものは。


「いつまで寝とるんだ」


大福だった。ラロの家からまたもやついてきてしまったこのおっさんのような猫。いつまでも大福猫と呼ぶのも可哀想なので大福と名付けた。あんまり変わっていないのはきっと気のせい。


本来女子ならばここでキャーーーと叫び声を上げる予定なのだけど、生憎ラロの家から帰ってきて約一週間ずっとこれなんです。もう慣れました。


「腹がへったじゃけぇ、さっさと食堂に行くぞ」


朝っぱらから奇妙な言葉遣いをするふてぶてしい大福に起こされ、小言を言われながら顔を洗い、適当に服を来て食堂に行く。

夏休みで人が少ないというのに、出される料理はあいも変わらず豪華で、本当に世間は幸福で満ち溢れている。


「いただきます」


緑黄色野菜がフサフサしているサラダを口に運びながら前を見ると、向かい側に座った大福が目に入った。

やつ、猫のくせに人間の様に座り、二本の前足で器用にチキンをかじっている。

肉球についた油をナプキンできちんと拭き次の料理を睨みつけムシャムシャ。


何故私は大福と一緒に朝食をとっているのだろうか。


ジャンナとラロは家族旅行で今居ないし、たんまり出された夏季休暇の宿題もニックに教えられながらほぼ終わった。

特にやることのない私は後約二週間残っている夏季休暇をどう満喫するか思考を巡らせる。


「おいお前さんよ」


私がパンにバターを塗りながら学校内にある暇を潰せそうな場所をピックアップしていると、向かいの大福がこちらにチキンの骨を向けてきた。


「なんですか大福さんよ」


手前の皿を見ると、中央に盛りつけされたチキンの減少と比例し、チキンの骨が空高く積み上げっている。

うん、中々の食いっぷりである。


「今日の予定はなんじゃいな」


今まさに考えていたのだが、いまいちピンとくるものがない。

とりあえず私はお腹が一杯になったのでナプキンで手と口を吹き、手を合わせる。


「ごちそうさまでした」







講堂を出てアレクサンダー寮へ戻る。

大福はポテポテと私の足元に寄り添って歩いてくるので、少し歩きにくい上にすれ違う人々から不思議そうな目を向けられていた。


白い大理石で出来た通路を潜り、アレクサンダー寮が見えてくる。


ふと、私はジャック・アレクサンダー像の前で立ち止まる。


真っ直ぐ前を見据えるジャックの目は何の感情もなく、ただ灰色の瞳がそこにあるだけ。

ここ最近まったく彼の姿を見ることが無くなっていた。


白い朝日が柱を抜けて私達を照らす。


じっと銅像を見上げてつったている私の足に大福が擦り寄ってきた。


「ウォルトニア革命のジャックか・・・」


足元の大福が高くそびえる像を見上げ呟いた。


「え?」


聞き覚えのない言葉に私は驚いて大福を見た。


「そんな時代もあったなー」

「大福、この人の事知ってるの?」

「そりゃー、知っているとも!」


大福は少し怒ったように顔をクシャっとさせて言った。

これは意外や意外。まさかここでこの猫の活躍が期待できるとは。


「大福、あんた一体何物?」

「ふんっ、俺は普通の猫じゃないわっ!ったく何年生きてると思っとるんじゃ」

「まさか、ジャックが生きてた時代・・・から・・・?」

「そうじゃよ」


でました。この当たり前の様な顏。


「ってことはあんた・・・今、何歳なの・・?」

「よく覚えとらんが、大体七、八百位じゃの」


私は目眩で倒れそうになった。


「じゃぁ!」

「うぉっ!?」

「大福はジャックの生きた時代を見てきたのね!?」

「もちろんとも」


大福に聞けば彼と私の関係を知るヒントになるかもしれない。


「大福あなた最高!!」


私は重い大福をよいしょと持ち上げぎゅっと抱きしめた。


「わっ!!よせ!苦しい!気持ち悪い!!」


ジタバタと暴れる大福を抱えたまま、アレクサンダー寮の入口を開けるとそこには見覚えのある男が立っていた。


濃紺の髪に夏だというのに黒いコートを着ている。

一見細身に見えるが彼が動くとジャキジャキと金属音し、目はまるで視線で人を殺せそうなくらい目付きが悪い。


この人たしか・・・・


「なにか用?」


鬼の様な形相にドスのきいた声。

紛れもない殺意だ。

ここまで目付きの悪い人間を私は見たことがない。


「いいえ、すみません」


私が端へ寄ると彼はジャキジャキと音をさせて寮から出ていってしまった。

ふうっと一息ついていると、腕の中の大福がぶすっとした顔をこちらに向けた。


「なんだあの感じの悪い奴は」

「アレクサンダークラスの五年、寮長だよ」

「ふんっ、しかし目付きわりーなー」

「ははっ、あんたも大して変わらないけどね」

「なぬっ?」


よいしょっと大福を抱き直して女子寮の階段を登る。






私と大福はベッドの上に座った。

ジャックが夢に出てきたこと、地下にお墓を発見したけど肝心の五人目が見つからないこと、この世界に来てから起きる不可思議を私は大福に全部伝えた。


「ふーむ、なるほど。お前さんは魔法界の人間じゃないのか」


大福はヒゲを色々な方向へしゃわしゃわさせて言う。なにか受信しているのだろうか?


「そう。いきなりこんな所に来ちゃったからびっくりしたよ」

「でもどうだ?あっちの世界よりも、こっちの方が断然いいじゃろ?」

「そうだね。でもあっちの世界が私の生まれた世界だから、多分いずれあっちには戻らないといけなくなると思う・・・」


その言葉を言った瞬間、一抹の寂しさを感じた。


「ふむ。俺の知っている事は限られる」


大福の目が私をとらえる。


「でもこの目で見てきたのは確かだ。奴らがしてきたことも考えてきたことも」


聞くか?


そう聞かれ私は迷いなく首を縦にふる。


「お願い、聞かせて」


私も大福の目を見つめながらお願いする。

暫く大福は私を見つめ、しっぽをヒョンとゆらし窓の外に目をやった。


「よし、じゃぁ、どこから話そうかの・・・」







皆さんお久しぶりです。

読んでくださり感謝しています。

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