職業【銃使い】巨狼で猫又を庇う
階層ボスの討伐はあっという間に終わった。
ニーナはボスのドロップアイテムを拾うと、アントに投げつける。
「お、おい……急になんだよ」
「やるよ。レッカのご所望なんだろ?」
「……ほんとに良いのか?」
「質問に質問で返すな。やるって言ってんだろ」
「す、すまん……ありがとう」
アントは笑顔でアイテムをインベントリにしまった。
レッカの嬉しがる表情を思い浮かべて口角をあげる。
「なにニヤついてるんだい、アント君?」
「な、なんだ……関係ないだろう」
「あぁそうだねぇ。失敬失敬、ちょっと君たちのことが気になっただけだよ」
「あんまり詮索するなよ。うちには魔王がいるからな」
「おっと、それはまずいね」
「虎の威を借るようだな。恥ずかしくないのか」
ニーナが薄目で言い放つ。
そこに嫌味はない。彼はアントの表情を見て面白がっているのだ。
「ほら、こっちはお前らの分。案外動きがいいじゃねぇか。これからも頼るかもな」
「……」
アントは、心のなかでナギとツムギを称賛していた。
彼らの連携は凄まじく、入る隙はなかった。
アント以上の貢献に、思わず報酬を受け取るのが躊躇われた程である。
しかし彼らはボスを倒し終えた今でも表情を変えなかった。
「要らないのか?」
「……」
ナギは頷く。
無言の肯定だが、ニーナは口を出さなかった。
彼は単純なやつだ。ニーナは初対面で知らない相手には非常で冷酷なやつだが、仲間や仲間と認めた人に対しては甘々になる。
それを理解している彼からすれば、今回のニーナの笑みは、二人の強さを認めたニーナなりの配慮だと感じた。
イトマもそれを理解しているため、傷を回復しようと近づく。
そしてそんな単調な思考が、足元をすくわれる原因である。
「報酬は、『鎖破悪狼』がいい」
「私、『猫騙し』」
「……は?」
発砲。
ニーナの肩に、穴が開く。
「ニーナ!!」
アントの腕は届かない。二度目の発泡。
「【鎖破悪狼】」
巨狼は発泡された銃弾を握りしめていた。
ニーナは肩を抑え、倒れる。
体力はある。しかし、剣が握れない。
「二人とも!!」
イトマが慌てて剣を構えるが、二人の視界にイトマはいない。
「アントのスキルは五つ。『戦場掌握』は切り札だろうから、あと四回倒せば、奪える」
「『猫騙し』は?」
「二つ。もう一つは『神契り』だから、一発」
「確定ガチャだ」
ツムギは口角を釣り上げた。灯籠の火が青くなる。
火に銃を通す。
「魔力が増えたぞ」
「やっぱり敵だった、てことでいいな」
「やっぱり? 気づいてたんなら教えてよ。仲間だろ」
「仲間は、信用するもん……なんだよ」
ニーナは震える足で立ち、本を構える。
アントが庇うように目の前に立つ。巨狼がニーナの方へと腕を広げた。
ナギもツムギと同じように褐色に燃える火にナタを通す。刃は褐色に染まる。
「アント!」
「『灼熱大魔炎球』」
ツムギが銃口をこちらに構えるよりも早く、引き金を引いた。
火球が放たれる。着弾し、火は彼女を包む。
「『迅射貫撃』」
アントがそれに気がついたのは、攻撃を受けたときであった。
巨狼の腕が射抜かれた。ダメージを受けて怯むが、致命的なダメージではない。
気にするべきはそこではない。アントに続き二人も気づく。
「なぁ……攻撃が効いてなくねぇか」
「あぁ。俺は確か魔法をツムギに当てたよな」
「俺もこの目で、はっきりと」
イトマがアントを回復する。
彼女の銃口がイトマに向いた。
「『深淵大魔冥珠』」
「アント! 逃げろ!!」
ニーナの声が響くと同時に、金属音が響く。
ナギがニーナに攻撃を仕掛けてきたのだ
「そのナタ、俺なんかに向けちゃ駄目だ、後悔するぜ」
「妹の頼みだ。素直に死んでくれ」
ニーナは肩を庇いながら動く。
だがナギの攻撃は粘着質であった。一定の距離感で近づいてくると、突きと薙ぎを繰り返す。
「気持ちわりぃな……アント、大丈夫か!」
「あぁ。生きてる。イトマもな」
アントは適当な位置に『戦場掌握』で瞬間移動していた。イトマは尻もちを着く。
「俺は初めてだ。攻撃が効いてないなんてな」
「……うっとうしい。ちょこまか動きやがって」
ツムギの声が耳に届く。
体の向きを変えずに、銃だけをこちらに向ける。
腕を伸ばして放たれる銃弾は、素早くアントを射抜く。
「だ、大丈夫!?」
「あぁ、致命傷じゃない。しかし、これはまずい」
遮蔽物がなく、移動にも時間がかかる。
それにイトマを守りつつの戦闘は骨が折れる。
そして最大の問題は、攻撃が効かないことだ。
「物理攻撃は効いてくれるよな」
「僕の出番ってことだよね」
イトマは『閑暇:即応』を使用し加速する。
彼は瞬きをする間に、ツムギに接近すると、剣を薙ぐ。
その剣は、すり抜ける。
「なっ!」
「邪魔」
目の前のゴミをどかすかのように、イトマの頭に銃を叩きつけた。
イトマは鈍い音を立てて地面に手を打つ。
アントはツムギを睨みつける。
どうやら、倒すべき敵は階層ボスではなかったようだと、アントは舌打ちをした。




