職業【読者】敗北
ニーナの剣術は一般的な冒険者を参考にしている。
その攻撃は早くも重くもない。一般的なものだが、それが功を奏する。
「猫騙し」
「……っ」
ナギは彼の声に反応し即座に背後を振り向く。そこにニーナはいない。
彼の『猫騙し』の本質は、それを知らない人に対しては不意打ちになり、知っている人には駆け引きになることだ。
ナギはそれに気づかずに振り向いたため、隙を見せた。
ニーナの癖のない剣が、ナギの背中に傷を付ける。
「チッ――」
ナタを振りかぶり、重い一撃を与える。
しかしニーナはその攻撃を読み切っており、ナタに手を添えると、そっと囁く。
「【紙一重】」
現れるのは一枚の青く透き通る板。ナタは板を砕くと、スピードを落とした。
逃げようとするナギの腕を掻っ切る。
「そのスキル、フラムに奪われたはず」
「返してもらった。いらねぇって言われたからな。思い出させんなよ、胸クソわりぃ」
ナギは調子の悪そうな顔色を浮かべた。
しかし傷を受けても彼の動きは変わらない。
「……」
ニーナは彼を睨みつけた。
おそらくダメージが通っていない。
ナギの動作は守備を考えていない。それはつまり、攻撃を受けても良いということの他ならない。
彼は帽子を深く被ると、呟く。
「ツムギ、ニーナはもう一つスキルがある。二回だ」
「そう。そっちは任せる」
ツムギはアントの攻撃を流し目する。
自分の腕をじっと見つめる。そこにはアントが命からがらに付けた銃痕であった。
それは彼女が撫でると、消えてなくなる。
「だから、効かないって。分かったら逃げるか倒されるかしなよ」
あどけない声で、平然と毒を吐く。
アントは体を起こすと、ツムギを見つめる。
魔力は残っている。しかし、満身創痍。
体には数多の傷跡。巨狼が寂しげな表情でアントを包む。
イトマは既に動けなくなっていた。死んではいない。
動いた瞬間に倒されるのを理解しているのだ。彼は歯を食いしばって時を待つ。
「あんたら、なにがしたいんだ」
アントの声にツムギが反応する。
口を閉ざして応答しない。返ってくるのは銃声。
『戦場掌握』で横にブレる。それを予測しているのか、銃弾は軌道を変えて巨狼を撃ち抜いた。
衝撃がアントに伝わる。腕が重い。顔を上げられない。
銃をインベントリにかたしたのか、即座に消えた。
「お兄ちゃん。倒せるよ、いる?」
「要らない。こっちが本命だ」
「えー、こいつやったほうが絶対いいよ」
「ニーナのほうが手強い。こいつを弱らせたほうが合理的。それにアントの攻撃が効かないことは、よく分かったろ」
「確かに。あ、聞いてた? 逃がしてあげるから、失せて」
近くまで寄ると、ツムギがアントの銃を取り上げた。
「出口は向こう。見えるかな?」
表情を変えずに銃で出口を指した。アントはそんな挑発に乗らない。
「聞こえてないのかな」
銃で頭をコツコツ叩かれる。アントの眉間にシワが寄る。
レッカの表情が脳裏に浮かんだ。それはレッカの作ってくれた銃だ。
「アントに触るな!!!」
ニーナの足音が響き、身体が揺れる。剣がツムギの首を斬りつける。
その剣は、彼女の体をすり抜け、空振る。
「やったー。釣れた」
銃声音が轟く。
アントは、目の前の光景に、息を忘れる。
ニーナの喉に、ツムギの銃口がゼロ距離。ニーナの髪を雑に握る。
待つことなく引き金が何度も引かれた。
「お兄ちゃん。『猫騙し』だよ。やったね」
「よくやったな、戻ろうか」
「うん」
ニーナの姿が消えてなくなる。ツムギは銃を投げ捨てる。
銃が地面と擦れて、カラカラと音を立てる。
アントは拳を握りしめた。思わず立ち上がる。
「ほんとにこっちはやんないの?」
「結構時間経ったろ。エスが怒ってるかもな」
「めんど。じゃあ戻るしかない」
ツムギはアントの頭をぽんぽんと叩く。
彼は握った握りこぶしを、彼らに振りかざすことができなかった。
それが効かないことが分かっているから。それをすると仲間が悲しむことを分かっているからだ。
二人は談笑しながら階層を降りた。姿が消える。
「アント!!」
姿を見失うとすぐにイトマが回復を行った。
アントの傷が癒える。しかし、彼は力を無くしたようにイトマを見つめた。
「……ありがとうな」
「う、うん」
イトマは言葉を掛けれなかった。
アントは立ち上がると、銃を拾い上げる。
「ごめん……」
読んでくださりありがとうございます。
この話で100話投稿となります。
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