職業【遊撃手】肩を借り跳躍する
後ろのいる凶悪な気配に三人は息を飲む。
しかし今は目の前の触手をどうにかしなければならない。
武器を振り回し、触手を刈り取る。力任せに腕を振るが、案外なんとかなるもんだ。
目の前の草の根に気を取られていると、ソロモンに声を掛けられた。
「お前、なんてやつ呼びやがった……」
「仕方ねぇだろ。呼びたくて呼んだんじゃねぇ」
「ど、どうするんですか!!」
ソロモンは額に汗を書き、コロンは唇が震えていた。
悪魔の名前は召喚者であるフラムにしか開示されない。
しかし、その場にいる全員が、その存在の強大さを認識する。
悪魔の名は『堕天王』。最上級の悪魔を呼び出してしまったことを理解せざるを得ない。
『堕天王』は動かない。その存在は影のように黒く霧がかっており、実体はなく触手が透けていた。
「多分本人は来ていない。残穢みたいなもんだな」
「それでこの圧……! フラムさんのバカ!! こんなの敵を増やしたみたいじゃないですか!」
「あれが動くかは分からんが、こちらの味方になってくれれば勝機がある。だから挑発せずに待つんだ」
「意外にポジティブだな、あんた」
ソロモンは影を横目に大剣を振るう。コロンは驚きで『竜人化』が解けていた。
影はいまだ動く様子がない。そもそも動けない可能性もある。
だがせっかく命からがら召喚したというのに、生意気にも動かないなんて解せない。
フラムは影のそばまで寄ると、口角を上げて話し出す。
「冷やかしか? 気が散るから戦わないなら消えてくれよ」
「「……っ!!」」
二人が驚愕する。
この場にいる誰よりも男気が溢れていた。しかし今そんな勇気は要らないのだ。
「馬鹿かお前!! 勇敢と無謀は違うんだぞ!!」
「怒ったらどうするんですか!!」
そんな二人の言葉を無視する。フラムは影をギロリと睨む。
「召喚者を守らねぇ悪魔なんて、悪魔の面汚しだなぁ」
影が動き出す。彼女の言葉が聞こえたのだろう。
宙に浮いたように平行移動をして彼女を覆う。
「フラムさん!!」
「大丈夫」
黒霧に包まれるが違和感はない。
攻撃の意思は感じ取れない。フラムは鬱陶しく感じつつも我慢する。
だが、視界を遮られ攻撃を度々受ける。影のせいで上手く動けない。
体の動きが縛られて、耳元で空気の淀む音が流れ出した。
しびれの切れたフラムは叫んでしまう。
「あぁもう邪鬱陶しい!! 戦闘の邪魔をするな、戦えよ!!」
直後、フラムの胸部に恐ろしいほどの鈍痛。
一瞬の静寂、激痛を感じて体を倒す。
思わず胸を押さえ、彼女は目を見開く。
痛くない、気の所為だ。そのはずなのに、体は重く、意識がはっきりとしない。
二人の声に目を無理やり開け、戦場を見渡す。
触手による攻撃がなくなり、皆の戦闘音が聞こえなくなる。
「……っ!!」
「う、うそだろ」
「フラムさん!」
コロンが回復のポーションを身体にかけてくる。
彼に感謝しつつフラムは驚きで声を漏らした。
「触手が……」
戦場から木の根があらかた黒霧によって覆われているかと思えば、それは黒色の粒子となり消えていく。
それは刹那の出来事。
フロアは更地と化し、戦場に存在するのは三人と向日葵のみであった。
しかし触手はあらゆるところから伸びてくる。
「い、行け! 今だ!!」
「う、うん!!」
「俺が前だ」
ソロモンが走りながら伸びてくる触手を断ち切っていく。その後ろをコロンがついていく。
コロンは後ろを走りながら、目の前の戦士に目を奪われた。
近距離最強というだけはある。攻撃のタイミング、速度、効率のどれを取ってもダントツの強さを誇っていた。
それを走りながら大剣で処理しているのだ、同じ近距離戦闘を行うプレイヤーとして彼の強さは憧れであった。
「コロン、ここから行けるか」
躊躇する。
それは向日葵までの距離が遠いからだ。
向日葵の直下まで走って分かったが、そもそも向日葵が大きすぎるのだ。
近くにあるように見えても、実際は遠い。
「初めに体力が見えただろ。あれに届けば俺らの勝ちは確実だ」
「分かってますよ……やるしかないんでしょ!」
ソロモンの腕を握ると、彼は頷いた。コロンも彼の目を見て頷く。
体を精一杯しならせると、コロンを天高く打ち上げた。
目を見開く。彼の底力に思わず嗚咽が漏れた。
空を見上げて向日葵を見据える。その距離五十メートル。
正直絶望的だが、自分は『遊撃手』だ。手はある。
「『竜人化』」
コロンは短剣を取り出す。『風撃』の魔法が刻印されている武器だ。
それを地面の方へと打ち出すと、コロンの体は向日葵の方へと距離を縮める。
「行けるぞ!!」
「コロン……!」
距離二十五メートル。
触手がコロンを襲ってくるのを捉えた。
コロンは笑みを浮かべる。
「その手は悪手!!」
コロンは短剣を手にすると、触手に叩きつけた。
しかし触手は切れない。それは攻撃力を低下させるアイテムを使用したからだ。
彼はその剣を起点に高く飛び上がる。触手がしなりコロンの機動力となる。
「ま、まずい……」
「待て。なにかする気だぞ」
距離十メートル。
コロンは斧を取り出し、構える。
「弱点が露出してるんだよ!!」
そして彼は斧を投げた。
竜と化した彼の力は単純計算だと、ソロモンと同程度である。その速度は亜音速。
彼は戦闘センスがなかったため、その力を余らせていたが、彼の本領は応用力であった。
崩れ行く向日葵を見て、コロンは自分が落下死することを悟る。
戦闘に勝利した越に浸る。
「……?」
途端に体が宙に浮き上がると、そこにはフラム。
「遅くなった。よくやったな!」
コロンの頬がボッと熱くなる。
(さっきから胸がうるさいっ……)
彼の心が落ち着くのは、それから3時間後のことであった。




