職業【選ばれし者】戦士を相手にガチャを回す
「トト! イベント七位おめでとう!」
「まさか俺が負けるとは思わなかったぜ! 流石だな!」
「シルフの言う通り、素晴らしい快挙でした! 『黒白戦線』の全員入賞は叶いませんでしたが、いい負けっぷりでしたよ!」
「あ、ありがとう……」
トトは耳を赤くさせてお礼を告げた。
第八階層で四人は曇り空の下歩いていた。ここは森や小さな集落のある広野。
目を凝らすとゴブリンやオークが練り歩いている。ここは『魔生族』の住処であった。
「んで! その七位様が戦闘に悩んでるから、俺が話を聞くって?」
「私に戦闘のコツを聞きに来てくれたんだけど、生憎『錬金術師』は戦いなんてわかんないからねー」
「戦闘なら私たちですよ! まぁ私も戦えませんがね!」
セレナが左手で頭を掻いた。彼女の左手は翼になっており、器用に扱うものだとレッカは驚いていた。
「そういえばセレナについて詳しくないんだけど、種族は聞いてもいいの?」
「あまり他のギルドの方に本性を明かすのはよくありませんが……レッカとトトさんならいいでしょう! 私は職業『奏者』のセイレーンです! 見ての通り、左半身が鳥、右半身が魚なんですよ」
「人魚、だね……かっこいい」
「いい例えですね! そのとおり!! ちなみに私は攻撃よりも回復やバフのほうが得意なので、トトさんと近い役割ですね!」
セレナは錫杖を取り出して二人に見せつける。
円形の飾りがジャラジャラと音を立てていた。
「そんで、トトは普段どういう戦い方をするんだ? それが分からなきゃアドバイスもできねぇ」
「よくやるのは、ガチャを回して、当たったアイテムを使って攻撃をするの。イベントの後からは、このスタッフも使うようになった」
銀髪のボブが揺れると、空気が流れる。
少女が指示すると、四本のスタッフがトトの周りを浮遊しだす。
イベント戦のURで当たった、魔法攻撃力が大きく上昇する効果のついた魔法用のスタッフであった。
「ほう? 実際に戦って見せてくれ。出来るか?」
「う、うん……多分」
「なにかあったら助けるから! 安心して?」
「私も、回復ができますから!」
トトの目線の先にいるのは一体のゴブリン。
第八階層の敵ともなると、体力や知能が高くなっていた。
しかし少女は臆さない。イベント戦や味方の心強さを胸に少女は走り出した。
ゴブリンは手には剣を、背中には弓が構えられていた。少女の姿に気がつくと、剣を構える。
戦士ゴブリン
HP 500/500 MP 200/200
戦闘が始まる。トトはガチャを回す。
当たったのは白色の球であった。それを構わず投げると、ゴブリンは避けずに受ける。
「毒玉だね。状態異常にさせてから戦うのは、コロンと同じかな?」
「それはどうでしょう? 状態異常を与える効果の持つアイテムは当たりやすい。だからいつも同じような戦術になる、とかもあり得ますね」
「戦術としては間違いではないな」
再度ガチャを回すと、トトの体を纏うように、青い光の粒が溢れた。MPが上昇したのが、レッカの『鑑定』で分かる。
毒の効果をもろともせずに、ゴブリンは剣を振り構える。それをスタッフでガードする。
別のスタッフを握ると魔力を注ぎ込む。
「『大火魔球』」
トトの放つ魔法はソートに比べて魔力効率は悪く、アントのような上位魔法を打つことはできなかった。
しかしそれをカバーするのは強大な魔力量。
少女がガチャによって手に入れるMPは、一度の増加量が多いかわりに、上限を超えている。
だからトトは余すことなく使用する。
スタッフから放たれた火球は、魔力量や見た目だけで言えば上位以上の性能だった。
ゴブリンは巨大な火球におぼれて皮膚を焦がす。しかし魔力の離散スピードが早く冷めやすい。
痛みを我慢して振りかぶった剣を流し目に、トトは再度ガチャを回した。
「アイテムが当たる前から、なにが当たるか分かってるみたいな動きだね」
「実際にそうなんだろう。客観的に見ればピンチでも、トトからすればチャンスかもしれねぇ」
次に当たったのは斧。フラムの双斧よりも持ち手が長い。
斧で剣を守ろうとしたトトだったが、想像以上の威力に体勢を崩す。
後ろに下がり斧を両手で持つと、宙に浮いたスタッフがゴブリンの方を向いた。
少女は走り出すと、斧を横に薙ぐ。
「――っ!」
攻撃を避けるが、追撃に対処しきれない。
スタッフから放たれるのは魔弾。光の固まりが胴体に傷をつける。
そしてゴブリンの眼前で宙に浮くのは、翼を纏って斧を振りかぶる少女。
「ハーピーの特性はガチャで強化されるのか! 羽がデカくなりやがった」
「天使みたいで可愛い! 頑張れー!!」
斧を振り下ろすが、ゴブリンは難なく避ける。
そして剣を振りあげると、トトは焦ってスタッフで受けた。
体を起こしてガチャを回す。
しかし頭の言いゴブリンは、少女がガチャを回す時にだけ画面に目線を向ける癖を見抜いていた。
ゴブリンの剣がトトの胴を断つように振られる。
決着はつく。
「なんとなく分かったぜ!!」
ゴブリンの頭部から振り遅されるのは、巨大なハンマー。
無惨にもクリティカルヒットで潰されたゴブリンは、抗うことなく消えていった。
トトは安堵に息をつく。セレナが背中をさすり回復の魔法を与えた。
「強くなりたいとはよく言ったもんだ。充分に強い! 誇ってもいい」
「でも……」
「目が肥え過ぎなんだよ。俺達やマゼラン、ラトラスなんてのは夢のまた夢だ」
「でもこれ以上強くなるならば……」
セレナはシルフと目を合わせていた。
どうやら意見は同じのようだ。
シルフは躊躇わずに話す。
「進化だ」
「進化……」
「職業進化のことです。シルフは元々『冒険者』でした。それから『剣士』になり、今の『乱打士』になったのです」
「私もシルフと同じ『精鋭職』だよ! 『作成者』から『鍛冶屋』で『錬金術師』だらか!!」
トトはエレンたちと比べて職業進化を行っていなかった。
少女にとっては弱みで、短所であった。しかしそれは乗り越えなければならない。
「職業進化、試してみよう」
トトがそう言うと、三人は眩しい笑顔を浮かべた。
こうして闇の空の下、四人の『トト、職業進化作戦』が決行された。




