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職業【遊び人】上位魔法の詠唱を開始する

「『符号反転』は使ってはいけませんよ」

「了解! 大地よ。怒れる力を貸し与え給え。『大岩魔打(アースショット)』!」

「稲妻よ、愚者の魂を分散させよ! 『大雷魔線(スパークレイ)』」


 宙を泳ぐ巨体。発する声は海を波立たせる。その正体は、濁流殻禍魚(トレント=アクア)

 第五階層のボスにして、イベントを混沌にした元凶である。

 二人の魔法を受けてダメージを受けるが、鯨はダメージを徐々に回復する。


「させないよ!!」


 カリナが使っては駄目だと言われたのは『符号反転』である。

 つまりこちらは使ってもよい。


「『可変接触』!!」


 鯨の肌に触れて叫ぶと、鯨から溢れていたプラスの数値が無くなった。

 すぐさま後ろへ走って、スタッフを鯨へと向ける。

 ソートの声が背後から聞こえた。


「このままでは削りきれませんよ」

「私がやるわ! 蒼天を裂く神罰の雷よ、ここに顕現せよ!! 『轟雷大魔雷線アルカナレイン・ライトニング』!!」


 紫電の雷撃が大杖から放たれると、それは鯨を覆うように展開される。

 カリナの目には、百以上のダメージを幾度も与えるのが見えた。大規模魔法に鯨は咆哮する。

 身体に稲妻の傷を受けて紫紺の跡ができる。空気が痺れて、髪が逆立つ。

 威力は充分、ダメージは大きい。それでも鯨は、侵攻をやめない。

 天から降り注ぐ魔力の往来が二人を襲う。それを食い止めるのはソートの役割だ。


「『天光大魔嵐線網ルミナス・テンペストレイ』」


 凄まじい光を覆う。天からの魔力が飛来するよりも早く、ソートの魔力が鯨の魔力を押し流す。

 魔法を魔法でかき消すなんて、自分の威力に絶大なる自信があるに違いない。

 二人はその魔法に感化されていた。

 長ったらしい詠唱を唱えず、魔法名のみでこれだけの威力を出せる。次元の違いに彼女らは悔しさを声に漏らす。


「魔法名の詠唱だけでこの規模の魔法を安定して打つなんて、やっぱりイベント入賞は違うね」

「魔術の高みね。私たちも負けてられないわ」

「魔法名もしない詠唱ってできるの?」

「それは無詠唱魔法と言われている。まだ成功した人はいない、幻の御業ね」


 それを聞いて不意にワクワクした。

 もしそれができれば不意打ち仕放題ではないか。いつか唱えれるようになりたい。

 このまま二人に仕事を任せるのもよくない。カリナはスタッフにいつも以上の魔力を流す。

 スタッフを満たす魔力にカリナは笑みを浮かべた。後はコントロール。

 杖の先を鯨に向けると、頭の中に鯨の胴体に当たる魔力の線をイメージする。

 詠唱を行うと、魔力が押し出されるのが分かる。


「眠れる大地よ目覚め、万物を砕け。『崩壊大魔岩撃波デバステート・インパクト』」


 鯨を襲う黄土色の魔力の怒号。

 カリナのスタッフから放たれた魔法は、カリナのイメージ通りで、鯨の胴体に直撃する。

 魔力は安定して直線の軌道を描いた。スタッフから魔力が尽きると、光が途絶える。


「よしっ! 入った――」


 カリナが安堵の声を漏らした、その瞬間だった。

 濁流殻禍魚の巨体が、これまでとは明らかに違う動きを見せる。

 空を悠然と泳いでいたはずの鯨が、突如として身体を大きく捻った。

 巨大な尾が空気を叩き、轟音と共に周囲の魔力が乱れる。

 次の瞬間、信じられない速度で巨体が前へと滑り出した。


「――っ、来る!!」


 ソートの声が響くよりも早く、灰色の影が視界いっぱいに広がる。

 五十メートルの怪物が、空を裂く勢いで突進してくる。

 逃げるには遅すぎる。

 カリナの瞳に映るのは、迫り来る巨大な口と濁流のような魔力の奔流。

 そして、濁流殻禍魚の巨体が、目の前まで迫ってきていた。


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