職業【読者】奇襲の理由を語る
巨大な地下神殿が広がるここは第七階層。
壁面は光を反射する鉱石でできており、作りは古代ギリシャを彷彿とさせた。
アントは天井を見上げて声を漏らした。
「すごい迫力だな……」
「ガキか、早く行くぞ」
「に、ニーナ。今は仲間なんだから穏便にね」
イトマがニーナの口調を指摘する。
天井には巨大なクリスタルが規則正しく敷き詰められ、地面には使用後の魔法陣が残されていた。
空気は乾いている。空間は広く声が反響する。心無しか肌寒くアントは鳥肌を撫でた。
地面は時折透けており歩くのが怖くなる。光が乱反射して明るいが、分かれ道が多く迷いそうになる。
「おい、敵だ」
「あいつ、レッカにドロップ素材の回収を任されてたやつだ。俺にやらせてくれ」
「手伝うよ!」
イトマが剣を抜くと同時に、アントは走り出した。
鎧はクリスタルでできており、七光りしている。頭はなく、鎧だけで構成されているモンスター。動きがぎこちないが、剣を構えるとアントに対抗して走ってくる。
光晶ソルジャー
HP 500/500 MP 100/100
フルオートの銃を取り出し、引き金を引く。
攻撃は直撃するが、鈍い音で弾かれる。
(魔法が聞きづらいのか? 鏡のように反射しているのかもな)
魔法への耐性があるとアントは察した。
光晶兵はダメージを受けても怯まず、突進を仕掛けてくる。
剣を振り上げて斬りつけてくるが、イトマは片手剣で受ける。
「重いねっ!」
彼は攻撃を受けて表情を浮かべた、両手で剣を握ると、威力を相殺する。
その隙にアントは魔弾を何発も打ち込んだ。
近距離で魔法を受け、光晶兵は倒れ込む。今度は魔法が弾かれずに、衝撃を与えた。
弱点を露出したモンスターに、イトマは剣を突き刺す。
剣は関節を切りつけて、光晶兵は暴れる。
ダメージが蓄積し、腕と胴体が分かれる。
「なかなか手強いね」
「ダメージは通るが、体力と耐性が高いタイプだな。ニーナ、ここは頼んでもいいか?」
「素材はもらうのに? 甘ったれたことを言うようになったな」
「まぁ素材は歩合制だね。それでいいでしょ、ニーナ」
「まぁ共に戦った仲だ、少しぐらいなら譲歩してやる」
アントはほっと胸を撫で下ろす。
彼は口が悪いが、決して悪いやつではない。そう思っての提案だったので、呑んでくれて助かった。
光晶兵を倒すと、アントは素材を拾う。イトマにそれを渡すと、インベントリにしまった。
「ボスを倒したら分けるよ、それでいい?」
「そうしよう。やっぱりイトマはリーダーが似合ってる」
「こいつがリーダーな事知ってんのか?」
三人は神殿の奥へと進む。
道はどこまでも広く繋がっており、天井までは十メートル以上の高さがあった。
光晶兵が遠くからこちらを見つけて襲ってくるが、無視して最深部を目指す。
「まぁな、なぜマゼランじゃないんだ」
「それ、よく聞かれるね。単純だよ? マゼランにリーダーを頼まれたからだ」
「なぜだ? マゼランがリーダーをすればいいだろ? 『百鬼星行』で一番強いし、頭の回転も早いだろ」
「そりゃイトマがリーダーに向いてるからだ。それと、マゼランが強すぎなんだよ」
「強すぎる?」
「マゼランはね、強すぎてなんでも一人でこなす癖が付いてるんだ」
イトマが得意げに話す。
ニーナもイトマの方を向いて話を聞いていた。見た目が女性なので、目が合うとアントは不意に目を逸らしてしまう。
それが面白いのか、ニーナはニヤニヤとアントを見つめた。
「仲間は大事だろ? アントがハーレムを作ってるのと同じだ。マゼランも一人で行動しないために、行動指針を決めるリーダーを据え置いたんだ」
「俺はハーレムを創りたかったわけじゃない。呼ばれてあのチームにいるんだ」
「どっちでもいいじゃないか、アントは『アンノウン』にとって欠かせない仲間ってことだろ?」
「それは嬉しいな。でも、どうしてイトマなんだ。あんたらはいつどうやってマゼランと知り合った?」
「うーん……簡単に言うと、俺、意外と人気でね? レッカの動画にも出たことがあって、それでマゼランが指名したんだよ」
イトマが淡々と話していると、ニーナが察して画面を操作すると、アントに見せる。
アントは目を落とす。レッカとイトマが映っている動画だ、二人で協力してモンスターと戦っているのが分かった。
こうして客観的に見てみると、二人とも顔が整っており、人気になる理由も分かった。
「じゃあニーナ達は? あんた達はどうして仲間になったんだ?」
「……イトマに惹かれたんだよ。ほら、分かるだろ」
イトマを指差すニーナは、鼻を鳴らした。
正直じゃないやつだが、仲間は信用しているようだ。
アントにはニーナの言いたいことがよく分かる、イトマは無意識に人を誑すタイプなのだろう。
イトマとカリナからは似た雰囲気を感じる。アントはニーナと自分を重ねていた。
そんな二人を見て、イトマは首を傾げる。そういう動作が人を貶めるのだとアントは目を細めた。
「じゃあそんなニーナさんは何故俺達を襲ったんだ。そういえばまだ言い訳を聞いてなかったな」
「あぁ。カリナのスキル狙いのクエストが出回っててな。リーダーがそれを見つけた」
「俺、ゲームを始めてすぐにカリナにあったことがあるんだよ。だから彼女のことはよく知っててね。たくさんのプレイヤーに狙われるなんて可哀想でしょ?」
「庇ったのか?」
「わざと負けるように先導してやったんだ。リーダーから直々の支援要請だぜ? 感謝しろよ」
イトマは悪いことをしたと謝る。
まさかカリナを助けるための行動だったとは知らなかった。
だがアントはニーナと対決したときのことを思い出すと、首を傾げる。
「それでも中々いじめてくれたよな」
「そ、そりゃ俺も本気出さなきゃ対抗すらできずに倒されていたからな」
「フラムなんてニーナ以上に強いからね。最後に出てきたときはびっくりしたんだぜ?」
「こっちも本気だったからな。だがそういう理由があったのは知らなかった。助かる」
アントが感謝を告げると、イトマは腕を組んで鼻息を鳴らした。
上機嫌で何よりだが、現状は上手くいっていない。
「イベントのせいでお前らを狙う連中はまた増えたな」
「イトマも狙われるだろう? MVPになったし、有名人だしな」
「まぁそれはなんとかなってるよ。基本逃げるようにしてるし、心強い仲間もいるしね、だろ? ニーナ君」
「巻き込みやがって。手は貸すが、タダじゃねぇぞ」
「はいはい、助かるよ」
イトマは悪態をつくニーナに微笑みかけた。
神殿に響く声は、建物内にいるプレイヤーに筒抜けである。
とあるプレイヤーたちは、アントの存在に気がつくと、作戦を実行し始めるのだった。




