職業【遊び人】魔法を学び小石を生成する
五層の地上。スタッフを握り、魔力を流し込む。
属性は土。魔力量を加減して魔法を発動した。今度の出力はうまくいった気がする。
そう思っていた魔法の球は、空を二メートル程度進むと破裂する。
「ま、またか……」
魔法は空中で弾ける。
制御する方法が分からずにカリナは頭を捻った。
何度行っても失敗する。
「魔力の込めすぎなのかな……僕のイメージが大きすぎ?」
召喚した大スライムに腕を押し込む。冷たくドロドロした感覚とともに、腕の中にエネルギーが流れ込む。
『諸刃の剣』で大スライムの体力をMPに変換しているのだ。大スライムは小さくしぼんでいた。
うーむとうなるカリナの頬を突くのはメイト。
「カリナ? 眉がこんなんなってるぞー!!」
自分の眉を指で押して、困り眉を作った。
ケラケラと笑うメイトに、顔が熱くなる。
メイトは隣でカリナと同じ魔法を打つ。それはカリナが目標としている魔法。『大岩魔撃』。
「なにが違うんだろう……」
「やっぱり魔力の安定度だね! 魔法の打ち方の復習! 魔法に必要な四大要素は!?」
「属性、出力方法、MP、安定度だよね」
「そうそう、覚えてんじゃん! 普通魔法は覚えてから使い始めるから悩まないんだよ。カリナは特別だよ? 新しく作って唱えてるなんてすごい!」
「でも、うまく魔法が使えないと、おいてかれちゃうよ」
「私は普段魔法を使わないから分かんないや!! でもカリナの悩みはなんとなく理解出来る」
メイトは珍しく声を細めて話す。
スタッフを握るカリナの手を握って、メイトは魔法を撃つふりをする。
魔力がメイトの腕を伝って、カリナに流れてくる。その流れは穏やかで心地よい。
「別に毎回新しい魔法を打とうと思わなくていいんだよ。魔力の量と魔法のイメージを徐々に合わせていったらどう?」
「どういうこと?」
「カリナは、私たちみたいに『なんとなくこれくらいの魔法』っていうイメージができないんだと思う。だから魔力1の魔法のイメージを学習して、次に魔力10のイメージ、100のイメージってのを頭に刻み込むんだよ」
「でも、安定しないと意味ないんじゃ」
「1から順番にイメージと結びつけていけばいいんだよ。1の大きさ、2の大きさ、3の大きさって……どう? カリナは頭がいいから簡単でしょ」
「うん。やってみる。ありがとうメイト! でも僕は頭良くないよ」
「何いってるの? 私とチェスで戦えるなんて、頭いいに決まってんじゃん!」
ヘラヘラと笑ってピースをするメイトをみて、自然と笑みがほころんだ。
魔力を限界まで抑える。スタッフを持つ手が震える。
「力み過ぎだよ」
「あっ……ありがとう」
スタッフを弱く握り、息をはくのと同時に、魔力を注ぐ。
腕に冷たい感覚が流れて、スタッフが呼応する。
小石のような魔法がスタッフの先から現れるが、それはすぐに破裂した。
「多いね」
「まだまだ……」
カリナは続けて魔力を込める。スタッフを優しく握り、魔力を伝える。
小さい小石をイメージしながら、魔力を押し出す。
小石は徐々に飛距離を伸ばす。カリナの目が熱くなり、吹く息が震え始める。
首に冷たい気配を感じて、カリナは途端に振り返る。
「め、メイトっ!」
「集中しすぎだよー、もっと優しく!」
メイトが指で首をなぞったのだ。
くすぐったくてカリナは首の後ろを手で覆う。
カリナが怒ると、メイトはさっと手を引いて笑った。
「ごめんごめん! ほら、やってみよ」
そうしてカリナは魔力を込める。何度も魔法を放つ。
六回目の挑戦。
スタッフを握る力はとにかく優しく。注ぐ魔力はスズメの涙。
何度も見た小石を思い浮かべながら、つぶやく。
「『土撃』」
カリナの詠唱に魔力が反応し、魔力が小石を形成する。
その小石はスタッフの先から放たれる。力なく発生した小石は、破裂することなく地面に着地した。
カリナは安堵で息をはいた。
「おぉ! さすがカリナ! これで魔力1のイメージができたね、じゃあ次は魔力2の魔法! 頑張ろー!!」
「メイトもありがとう。先が長いね」
「まぁ、エレンちゃんよりは早く終わるんじゃない?」
そう言って宙を見つめる。カリナは苦笑いをして同意した。
目線の先には空中を走る二人。ソートが後ろ向きで飛びながら、エレンの魔法を捌いていた。
「次、そんなんじゃ魔法は安定しません」
「『火球』! 『大岩魔打』! 『大雷魔線』!!」
エレンが大杖を両手で抱えて、振り回しながら魔法を放つ。
ソートを追いかけているが、その魔法は一つも彼に当たることなく相殺されていく。
「魔法に振り回されては駄目です。刻印された魔法に魔力を注ぐだけでは魔法の極地には行けません。トトのような雷魔法を撃ちたくはありませんか?」
「撃ちたいに決まってるでしょう!! 『大雷魔線』! 『大光魔珠』!! 『轟雷大魔雷線』!!!」
紫の稲妻がソート目掛けて放たれるが、すでに彼はその導線にいない。
光の珠はソートのステッキに振れると、すぐに離散した。
通常よりも大きい光の柱が大杖から放たれるが、ソートはその魔法目掛けてスタッフを構える。
「甘い。掛け合わせがなってません。魔力の量が偏っている。『虚大魔消撃』」
ソートの中位魔法が雷を包む。雷の魔法はかき消された。
エレンの表情が曇り、空中で動作を止めた。カリナの視野にはエレンのMP切れが映った。
「MP切れ、だね」
「ソートって普段はあんなに鬼じゃないんだよ? 同じ魔法を使う人だから厳しいだけ、勘違いしないでよ!?」
「それエレンに言っても、聞いてくれる気がしないね」
「確かに! 『王行使』、MP回復するよー!!」
メイトのスキルによってエレンは地面へと降りてくる。
彼女はエレンをお姫様抱っこすると、おもむろにカリナのそばへと寝かせた。
エレンの目は充血しており、表情を見るだけで悔しさが伝わってくる。
カリナは彼女の腕に触れて『MP譲渡』を行う。
右手を大スライム、左手をエレンの胸に当てて魔力の導線を作る。
身体に冷たいものが流れるのを感じた。
スキル取得
【可変譲渡】
エレンに充分の魔力を注ぎ込んでから、画面を操作して習得したスキルを見てみる。
可変のステータスを譲渡出来るようだ、体力やステータスのバフなども移動出来ると書かれていた。
ソートも地上に降りてくるとカリナの横に並ぶ。
「カリナ、今スキルゲットしましたね?」
「分かる? 【遊び人】はすごいでしょ」
「全くです。他のプレイヤーに狙われたりしませんか?」
「イベント後から少しね。まだ負けてないけど、油断すると負けそうになる。全体的にプレイヤーの強さが上がってない?」
「それ私も思った! イベント後から皆徐々に強くなってきてるよね!」
「やっぱり気の所為じゃないようね。私はスキルをあまり持ってないから良かったけど、トトやコロンがずっと心配だわ」
エレンは起き上がると歯ぎしりする。
イベントから数日経ったが、カリナ達は他のギルドとの関わりを続けていた。
自身の強化も理由の一つだが、それ以外の理由がある。
イベント後の奇襲が激しくなったことだった。
「コロンにはソロモンが、トトにはシルフがついてます。彼らが負けることはない。それにあなたは自分が必ず守ります」
「エレンちゃんは心配性だねー。私たちに任せといてよ! ギルド『黒白戦線』は最強ってね!!」
「忘れないでよ! 僕だって弱いわけじゃないんだから」
「……ありがと」
エレンは耳を染めた。
三人はエレンの感謝を素直に受け取る。
しかし少女は恥じらいを隠せずに、俯いた。
「それにしても、なんで皆強くなってるんだろう?」
「イベントの影響でしょう。トトを中心に、自分やマゼランの魔法の威力を、多くのプレイヤーが理解しましたからね」
「近距離戦闘は難しいしね! シルフも戦い方は適当って言ってたし!!」
「コロンも同じようなことを言ってたわ。戦闘スキルを鍛えるのは骨が折れるって。その代わりに成長すれば、魔法を超える強さを得るともね」
「一長一短です。魔法は所詮限度があります。詠唱の時間は必ず必要ですし、そもそも魔力がなきゃ戦えない」
「でも近距離戦闘は戦闘スキルが多くを占める。フラムも感覚で戦ってるっぽいし、強さを言語化しにくいってわけだね」
ソートは眉をしかめた。
魔法だって簡単に扱えるわけではないことを、この場にいる四人は理解していた。
だからこそ四人はさらなる高みを目指す。
「自分たちも成長をするなら今でしょう、私という最高の講師がいるんです。そこらのプレイヤーに負けたら容赦しませんよ」
「『黒白戦線』は成長を止めないよ!! 目指せ、最速百階層ボス討伐ー!!」
「それはどうかしら、世界に名を轟かすのは私たち『エレメント』に決まっているわ」
「『アンノウン』だって負けてないよ! 努力は他チームに負けていないよ!!」
四人は武器を構え、各々の夢を語る。
彼らは知らない。
自分たちが強くなればなるほど、その力を欲しがる者が現れることを。
そしてその者と、いずれ必ず対峙することを。




