ギルド【キティー】戦場を俯瞰する
荒れた第一階層を五人は静かに俯瞰していた。
とある箇所では魔法と打撃がプレイヤーを襲い、とある箇所では雷鳴が轟いている。
クレートはアンノウンの動向を見て呟く。
「彼女はこのゲームに欠かせない存在ですね」
「ラトラス様が勅命を出した戦闘だ。何か得られる確証があったんだろう。どうだったんだ?」
黒装束に身を包んだ『キティー』だが、外見にはそれぞれ特徴があった。
例えばクレートは藍色の髪を後ろで結んでいる。彼の意図したことではないが、フードを被っていないメンバーは彼一人である。
そしてクレートに声をかけた青年はイド。彼の顔はフードに覆われて見えないが、服が液体のようにただれていた。
影が揺らめいて静止できずにいるのである。
「あの場で戦った四人には、特別ななにかを感じました。例えばカリナ様で言えば職業。あれはゲームの根幹を変える」
「トトもだな。ゲームのシステムに干渉して、自分の理想を投影していた風に見える」
「それは僕も思ったよ。でもメイトも同じじゃない? あの人、自分の趣味をとことん追求して、職業の認識を拡張していってる。あれはおおよそのプレイヤーにできることじゃないよ」
口を出すのはクロ。小柄な体格が特徴であり、いつも笑顔を浮かべている少年であった。
彼は一層の遠目で見てニヤニヤと笑っていた。それはゲームの常識が一段階上昇したことへの喜びでもある。
「私も同意。でもそれを言うなら全員ね。それこそイトマ様なんて時間に干渉してるじゃない」
「それはリリスがイトマを贔屓しているだけだろ?」
「あら、言うわね。私は事実を述べたのみよ?」
フードから覗くピンクの短髪はリリス。
目線が鋭くクレートは威圧されたように声を出すが、彼女は意に介さない。
「それにクレートだって核を扱うんでしょう? ラトラス様が特別扱いする理由がよく分かるわ」
「え? 僕、特別なんですか?」
「これら全てがラトラス様の掌の上。我らが主は全てをお見通しなのです」
「それは常識だろう?」
「そういうわけではありません。今我々がこうして集まって『カクメイト』の戦いを振り返ることすら、ラトラス様は予想しているはずです」
「君はもうちょい頭を使って話してくれるかな……」
体格の大きい青年は、目が紫に光っている。彼はルクス。
クロに茶々を入れられているが、彼は気にかけない。
五人は黙り込むと、戦いに目を奪われる。
フラムが【魔覇君臨】を視認した時、彼は静かに驚いた。
「フラムも戦闘が激化してきましたね。イドは誰が入賞するとお思いですか?」
「勇者は確定だとして、マゼランとラトラス様は外せないな」
「僕はフラムに一票入れましょう。もう既に数百人は倒していますよ」
「知ってるかしら。どうやら今回のイベント、『エス』も力を入れているみたい」
「エスかぁ……僕あいつ嫌いなんだよね」
「エス様、名前は知っていますが……ラトラス様はどのようなお考えなのでしょう」
彼らの中でRCOの内で名を広めるプレイヤーは事前に周知済みだ。
もちろん『アンノウン』や『黒白戦線』といった知名なギルドは抑えていたが、『エレメント』のような物珍しいギルドも忘れていない。
そしてリリスが特別に名を覚えていたのはエス。彼もまた、フラムに並ぶ強者の一角であった。
「ラトラス様が気づいていないわけがございません。おそらくは仲間を増やし第十階層で名前が売れ始めるかと」
「ルクスは詳しいの?」
「もちろん。噂によれば、『モザン』様とも知人だとか」
「モザンっ……!」
皆が息を呑んだ。空気が強張る。それは当然、その名前が強者の持つものであるからだ。
彼の強さは皆が理解していた。ルクスの態度に、クレートが不満を浮かべる。
「嘘だったら、不敬ですよ」
「なにも敵対するわけではございません。しかしそうなったら、我々では構わないでしょうが」
「……ラトラス様を侮辱するの? あたなそんなに偉かったかしら」
「勘違いされたのなら遺憾です。自分はただ事実を述べたまで。ラトラス様のことは信用していますが、それ以上の強さであることは皆もご存知でしょう?」
再度訪れる静けさ。
それは紛れもない肯定。クレートの表情が歪むが、クロはこんな状況でも笑っていた。
「全部確信じゃないんでしょ? じゃあ考えたってしょうがないじゃん。エスがイベントで頑張ってるー、それでいいでしょ」
「……えぇ、クロの言葉の通りです。今は彼らと我らが主君を信じましょう」
クレートが震える声で呟いた。
イベントは終わりを迎える。彼らは静かに今後の動向を見守るのであった。




