ギルド【アンノウン】戦場を駆け巡る
カリナが戻ると、フラムが敵の首を刈り取っている最中だった。
「よく戻った! さすがカリナだぜ!!」
「まさか倒して戻って来るとは」
「カリナすごいよ!! 本当にあれを倒すなんてね!」
レッカは二人の後ろでクォータースタッフを握りしめていた。だがレッカのポイントは少ない。敵を倒していないのだ。
フラムとアントのポイントはほとんど同じで、フラムのほうが少し上回っていた。
フラムの体はすでにボロボロで、戦えているのが不思議なくらいである。
「レッカは戦わないの?」
「私は二人のサポート! カリナも手伝うよ、私に出来ること、思い出したんだ!」
レッカはイトマとの話を思い出していた。
これまで彼女はドッペルゲンガーとして、皆と共に前線で戦っていた。
しかし彼女は錬金術師でもある。錬金術師として自分にできることを考えた結果、レッカは新たな立ち位置を模索した。
それは勇者パーティーでいう僧侶である。
回復はできないが、バッファーとして自身の得意を発揮できることに気がついた。
「この前、カリナの剣を作った時に属性の話をしたでしょ?」
「あー、あの難しい話のやつね……」
「あれが使えるんだ! 一時的にだけど、ものすごく複雑な縛りを貸す変わりに能力をあげるの」
レッカは『錬金術師』として『属性』を扱うことが出来る。
それを使い、フラムに『飛行中かつ、斧を装備している状態かつ、【魔族覇気】を使用している場合に限り、攻撃力が大きく上昇』という効果を付与していた。
普通に考えれば難易度の高い条件だが、フラムはそれを常時発動出来る。
「私は錬金術師だからね! 属性を操るのは得意なの」
「レッカ、こい!! 二人に負けねぇくらい敵を倒すぞ!!」
「分かった……ま、待って!!」
レッカは蝶の羽根を使って飛び上がると、フラムの後を追う。
血の気が多いなと思いつつ笑顔で見送る。アントが銃でカリナを小突いた。
「イテッ、なに? どうしたのさ」
「カリナ、スタッフを手に入れたらしいな」
「トトのやつをもらったんだよ。光属性の超つよーいスタッフ!」
「【遊び人】は装備できないはずだろ?」
「うーん、URが当たったときのアイテムだから装備出来るのかも?」
「それはつまり、魔法が……打てるのか?」
アントは声を震わせて言った。
自分の役割が取られるかと思って聞いたのだ。カリナは嫌味なく答える。
「使えるようになったよ! 魔法が作れるようになった」
「ソートみたいなやつか……カリナ、一緒に戦おう。それでなんとなく分かる」
アントがマガジンを交換するように、カリナは大スライムを召喚すると腕を突っ込んだ。
彼はそれを見て目を見開く。
「お、おい……それは」
「『諸刃の剣』ってスキルで、体力をMPに変えられるんだよ。アントの使う魔法って火だったよね! たしか、こんな感じ?」
スタッフを握りしめて、カリナはイメージを連想させる。
火が燃えるイメージをする。アントの魔法は近くで見てきた。きっと上手くいく、そんな曖昧な気持ちでカリナは詠唱を開始する。
「炎よ。灼熱の力を解放し……愚者を地獄に送れ」
カリナは赤面しながら呟いた。
イメージの連想は苦手だが、魔法を詠唱するのも恥ずかしい。
詠唱は上手くいき、魔法名が脳内を過ぎる。
「いくよっ! 『灼熱大魔炎打』」
炎のエネルギーが、月の模様の入ったスタッフから放たれる。
スピードはアントほど速くはなく、大半のプレイヤーに避けられた。
着弾すると周囲のプレイヤーを巻き込んでダメージを与えたが、肝心の手応えは少ない。
「あれ? アントのやつはもっとすごかったんだけどな」
「贅沢なことを言うな、今のは上位魔法だぞ? 充分強い。それにこれ以上は俺をおいて行かないでくれ」
「あっはは!! ごめんごめん! まだ覚えたてだから上手く行かなくてね」
「そりゃ良かった。俺の役割だけは奪わないでくれ」
アントは冷や汗を拭うと、引き金に指をかけた。
彼の放つ『灼熱大魔炎球』は大勢を巻き込む大魔法。地上が炎に包まれて、大勢のプレイヤーが灰になる。
なにが違うのだろうかと、カリナは魔法を何度か打ち続ける。
「おい、カリナ。フラムにおいていかれるぞ」
「えっ!」
視界の先にいるフラムは残虐な笑みを浮かべていた。その周りには大勢の魔物。
彼女は体に傷を負いながらも激しく動く。レッカの攻撃力上昇の効果を受けて暴れている。
もちろん『窮地適応』による効果を発動するためでもあるが、それだけではない。彼女が強くなるのはこれからだ。
フラムが使用したスキルは【魔覇君臨】。召喚できる全てのモンスターが召喚され、主を守る。
「私が、魔王だぁぁ!!!」
その瞬間だった。
フラムの足元から黒い魔力が噴き上がる。
地面に魔法陣が重なり、魔物が溢れ出した。
スライム。飢餓イノシシ。淡光バンビ。錯乱ホーネット。粘糸スパイダー。電痺スネーク。炎禽スパロー。草色アゲハ。
それぞれ五体ずつ。合計四十体の魔物が、フラムの周囲に一斉に出現した。
「なっ……!?」
プレイヤー達の声が上がる。
しかし驚く暇はない。
「行けぇぇぇぇ!!」
フラムの叫びと同時に魔物達が動いた。
飢餓イノシシが突撃し、プレイヤーを吹き飛ばす。
粘糸スパイダーの糸が空を切り裂き、敵の動きを封じる。
電痺スネークが地面を走り、噛み付いた瞬間に麻痺を与える。
錯乱ホーネットが空を覆い、針を突き刺すたびにプレイヤーの魔力が暴走する。
「くそっ、なんだこの数は!?」
そこへ。
炎禽スパローが炎の翼を放つ。
草色アゲハが風を巻き起こす。
淡光バンビが魔法陣を展開し、光弾を降らせた。
「どけぇぇ!!」
フラム自身も斧を振るう。
レッカの付与した条件付き強化は常時発動。
斧が振り下ろされる。その一撃で多数の人がまとめて吹き飛ぶ。
「ははっ!! 弱ぇ!!」
フラムは笑う。
血に濡れ、体はボロボロ。
それでも止まらない。
魔物達は命を賭して主を守り、敵を狩る。
スライムが盾となり、イノシシが突撃し、蜂が狂わせ、蛇が麻痺させる。
そこへフラムの斧が落ちる。
まるで軍隊だった。わずか数十秒で、視界にいたプレイヤー達が次々と光の粒子になっていく。
ポイント表示が、狂ったように増え続けた。
その光景はまさに、覇王。
戦場の中心で、フラムは斧を担ぎながら笑っていた。
「僕たちもやらなきゃね」
「しかし……」
「アント?」
アントは胸元を漁っていた。よく見るとマガジンがもうひとつしかない。
MPがなければ、彼は巨狼に頼らなければならない。
「MP、分けられるか?」
「そういうスキルがあるの?」
「スキル屋とかにあるんだが……そうか、カリナは知らないのか」
「なるほど、スキルがあるって分かれば充分! そのマガジン、一瞬貸してよ!」
カリナの言葉に頷いたアントはマガジンを投げ渡す。
彼女はそのマガジンにMPを注ぎ込んだ。
カリナの【遊び人】は、主の思いを全て汲み取る。故に一般級程度のスキルであれば想像が簡単にできた。
スキル取得
【MP譲渡】
マガジンを握る手を開くと、金平糖のような星の欠片がキラキラと輝いた。
カリナはニヤけるとアントの背中を叩く。それはアントの体に吸い込まれるように消えていった。
「どう? これでっ!」
「もう、なんでもありだな」
「【遊び人】だよ? スキルのことなら任せてよ!」
「貸し一つ、だ。あんたが撃とうとしてる魔法を見せてやる」
アントは銃を構えると巨狼を召喚して空に浮かび上がる。
カリナはそれについていくと手に汗を握った。
「いいか? 魔法ってのはこうやって打つんだ」
そして放たれる焔の魔法は、半径五百メートルを地獄に変える上位魔法。
「【灼熱大魔炎球界】」
アントの銃口から放たれた闇の魔力が、空中で巨大な炎球へと変貌した。
それはゆっくりと膨れ上がりながら前方へ進む。
次の瞬間。世界が赤く染まった。
轟音と共に炎が爆発し、半径数百メートルが灼熱の海へと変わる。
逃げ遅れたプレイヤー達が、光の粒子となって次々と弾けた。
十人、二十人、三十人。
炎の余波だけで数十人のプレイヤーが消し飛ぶ。
地面は黒く焼け焦げ、煙が空へと立ち上っていた。
カリナはその光景を見て、目を輝かせる。
「すごっ……!」
アントは銃を下ろし、肩をすくめた。
「これが魔法だ」
アントはそう言うと、すぐに次のマガジンを装填した
その後ろで、レッカが小さく息を吐く。
「フラム、アント、カリナ! ちょっとだけ強くするよ!」
彼女の足元に魔法陣が広がる。
「【複製】」
その瞬間だった。
フラムの周囲で暴れていた魔物たちが――増えた。
錯乱ホーネットがさらに空を覆い、粘糸スパイダーが地面を埋め尽くし、飢餓イノシシの群れが突進する。
「うおっ!? 増えた!!」
フラムが笑う。
「ははっ! いいじゃねぇかレッカ!!」
魔物の数は倍近くになり、戦場が完全に飲み込まれていく。
その間にレッカはスタッフをアントへ向けた。
「アントも!」
魔法陣が銃へと吸い込まれる。
「魔力密度を上げる! 発射時の威力、増幅!」
銃口に黒い光が集まった。
アントは驚いたように銃を見つめる。
「……なるほど、錬金術か」
そして静かに狙いを定める。
「じゃあ遠慮なく使わせてもらう」
銃声が鳴る。
放たれた魔法は先ほどとは比べ物にならないほど膨れ上がり、
プレイヤーの集団を丸ごと飲み込んだ。
爆炎が広がり、光の粒子が舞い上がる。
ポイント表示が一気に跳ね上がった。
「いいねぇ!!」
フラムは斧を振り回しながら叫ぶ。
その時、レッカの視線がカリナへ向いた。
「カリナも!」
カリナの腰に下げていた刀へ、錬金術の紋様が浮かび上がる。
「条件付与! 攻撃時、速度上昇。衝撃強化。刃圧増幅!」
光が刀へ流れ込む。カリナは目を丸くする。
「えっ、ちょっと待って、これ……」
刀が震えていた。魔力が溢れている。
戦場ではフラムが魔物を率いて暴れ、アントが銃でプレイヤーを撃ち抜き、レッカがその全てを支えている。
カリナはその光景を見て、口角を上げた。
「……いいね」
静かに刀の柄を握る。
「僕も混ざろうかな」
鞘から、ゆっくりと刀を引き抜く。
翠色の刃が、戦場の光を反射した。
翠月刀。
「よし」
カリナは笑う。
そして。
三人の暴れる戦場へと、駆け出した。




