ギルド【百鬼星行】星は終末を迎える
イトマは空中に浮かぶ一つの星を見つけた。
その星に『暇』を注入すると、星は周囲のエネルギーを収集し始める。
それが終わると、宙を漂う一人のプレイヤーの下まで走る。戦場を俯瞰するのは鬼の少女。
「おまたせ、マゼラン」
「鯨は倒したんだな」
「カリナとトトのおかげだよ! 二人が思った以上の成果を上げたよ」
「マゼランに謙遜はやめとけ。お前も頑張ってただろ」
「カリナ様はやはり素敵です! あぁ、思い出すだけで胸が張り裂けそう……! 私が信じたお方、かっこよかったです……」
背後から聞こえる声の主はニーナ。彼はカクメイトの戦いを遠目で見ており、イトマの安否を案じていた。
その隣で身を捩り、カリナの名を呟いているのはサリア。彼女もまたカリナの有志を見ており、感動のシーンに恍惚とした表情を浮かべる。
そんな三人にマゼランは星をまとわせる。
「久々にあれをやってみよう。頼んだぞ」
三人はマゼランの意図を組むと、声を発さずに戦場をかけていった。
イトマは『閑暇:即応』を使用する。
集めた暇を自身に適応させ加速する。そうして危険な戦場を一瞬で移動していた。
ニーナは『猫騙し』を使用して移動する。
『猫騙し』は一見すると、敵の意表を突くためのスキルに思える。それを彼は、移動用スキルとして使用していた。
このスキルは、対象のプレイヤーの背後に一瞬で移動する。すなわち、対象を変更していけば遠距離への瞬時の移動が可能であった。
サリアは弓を構えると矢を射る。彼女の武器は弓。遠距離に落下した矢の着弾地点へ瞬時の移動が出来る。
彼女はこれを使い遠距離への移動を行う。しかし二人と違って安全性は保証されない。
それを理解しているサリアは、襲ってくるプレイヤーを横目に矢を握ると放射状に投げる。そして唱えるのは職業【信仰者】のスキル。
「『狼狽』」
プレイヤーは遅れて気がつく、自分がいつの間にか魔法もスキルも発動できなくなっていることに。
弓を盾に剣を受けると、矢が着弾して移動する。それの繰り返しであった。
彼女は自身に戦闘能力がないことを理解している。そのうえで仲間のためにどう動くのかを考えた結果が、自衛手段を増やすことだった。
物理の攻撃を行うプレイヤーに対しては、目を合わせて動きを止める。メドゥーサならではの戦略に、プレイヤーは彼女に追いつけない。
しばらくすると、目的の位置にまで移動できたため、マゼランから渡された『星』を設置すると、元の場所にまで戻る。
マゼランが浮かんでいた場所には誰もいない。見失ったかと思うと、地上で一匹の鬼が暴れているのが分かった。
「遊び足りないのですか?」
「いいや、私も星を設置するんだ。邪魔なプレイヤーが多くてな、その対処だ」
「せっかく作戦を実行しようとしているのに。倒したら元も子もないのでは?」
「これでも丁重だ」
少女と話していると、イトマとニーナが合流した。
ニーナは剣を納める。その美しいメイド服はいまだに乱れていなかった。イトマがマゼランから『暇』を回収しながらこちらに笑いかける。
「無事だな」
「あまり舐めないでください。自衛くらい私にだってできます」
「ただのカリナオタクだと思っていたが、やるときはやるな」
「まぁ? こういう時じゃなければ私に活躍の機会はありませんから」
「私がこき使ってやる。仲間だろう」
「言いましたね? 突っ走ったら許しませんから」
サリアは良い仲間に巡り会えたと再認識したのだった。
星が五角形に配置され、その中央に四人は位置する。
「『無重力』」
マゼランがスキルを発動すると、四人は宙に浮き出す。
彼女達は表情を変えることなく少女の動きを眺めていた。
そして現れる星と星をつなぐ軌道が浮かび上がる。
五つの光点が、互いを認識した瞬間。空気が止まった。
音が消えて、風が凪ぐ。戦場に満ちていた怒号も、魔法の炸裂音も、すべてが遠のく。
五芒の線が灼けるように輝き、中心へと収束する。
光は糸のように細く、だが触れれば世界を断ち切る鋭さを帯びていた。
マゼランの瞳が、静かに細められる。
「――収束」
五つの星から奔る光条が、中央へ。
圧縮。圧壊。凝縮。
直径十センチほどの、白銀の光塊が生まれる。
それは星。脈動する。呼吸する。
内部で無数の核融合が起きているかのように、光が爆ぜては沈み、また爆ぜる。
戦場のプレイヤーが本能で後退する。
逃げるが、遅い。マゼランは片手を掲げる。
イトマが笑い、ニーナが目を閉じて、サリアが高揚した。
「【超新星爆発】」
星が、崩壊した。世界が塗り潰される。爆音は遅れてやってくる。
衝撃波が大地を抉り、空間を捻じ曲げ、光の津波が半径一キロメートルを呑み込む。
プレイヤーも、モンスターも、防御魔法も、障壁も。区別なく蒸発する。
HPバーは表示される暇すらなく消滅し、光の粒子となって散った。
地面は焼き払われ、クレーターが残る。
無重力の中、粉塵だけがゆっくりと舞う。
五芒星の軌道は消え、静寂が戻る。
マゼランは軽く息を吐いた。
「……こんなものか」
戦場は、彼女の一撃で更地になっていた。




