職業【遊び人】数値に触れる
カリナはトトが大規模魔法を放つのを待っていた。
しかしそのときは現れない。鯨が回復を始めているのを見て焦った彼女はトトの元へと走る。
大量のMPと魔法の呪文の用意はできているにも関わらずに、何故魔法を撃たないのか。
トトの隣に立つと、少女は優雅に笑った。
「カリナ、当たったよ」
「おめでとう、トト。魔法、撃たないの?」
「うん。これは取っておく。カリナとクレートが必死になってくれてるのに、私がそれを上書きするのは悪い」
「なるほどね。それって、僕がトトの魔法以上のことが出来ると思ってるってこと?」
「なにか策があるんでしょ? ないなら作るまで。URが起きた後は全ての効果に追加効果が乗る。やるなら今だ」
トトは五本のスタッフを宙に漂わせていたが、そのうちの一本をカリナのそばへとやる。
そのスタッフは、力を無くしたように自由落下を始めたので、カリナはそれを受け取る。
「カリナ、それ使える?」
「もちろん。このスタッフ、とんでもない潜在能力を秘めてるよ」
カリナはスタッフを見る。
魔法攻撃力の値がずば抜けた月の模様がある光属性の杖であった。
値に直接触れて、それを実感する。その時、神は微笑む。
スキル取得
【可変接触】
「カリナ?」
「スキルだ。それも希少級」
「さすがだもっとゲットできないかな? そのスキルの効果は?」
「言葉にすると難しいな。簡単に言うと、数字に直接触れることが出来るらしい」
「触れて、どうするの?」
「停止させる」
「……そのスタッフあげるよ、役に立つでしょ」
「でも……」
「まだ四本あるからね。そんなに必要ないよ」
カリナはトトの言葉を聞き走り出した。それを見つけたメイトが命ずるのは【女王指定】。
カリナの姿はすでに鯨の頭部。彼女は自身のスキルを余すことなく使用する。
「可変……」
「カリナ様!!」
「クレート?」
クレートがやってくると、右手の指輪が発光しているのが分かった。
左手をこちらに差し出しており、彼の眼差しに希望が宿っているのが分かった。
「カリナ様、鯨にトドメを刺しましょう」
「ラトラスにいいところを見せたいんだね?」
「えぇ、当然です! 主君を振り向かせたいのは配下の務めでしょう!!」
「君って、配下だったんだ……」
「自称です!」
カリナはクレートを信じて『可変接触』を発動してクレートに触れる。
それは二分されると、一方は体内に残り、もう一方は核として抽出された。
初めての減少に戸惑いを隠せないが、クレートは案ずる。
「『可変接触』はおそらく数多のスキルを統合するスキルなのでしょう。フラム様の『窮地適応』や、アント様の『戦場掌握』と同じです」
「それで、なにが出来るの?」
「実際に使ってみれば分かりますよ」
クレートが抽出すると、カリナは笑みを浮かべた。
スキル取得
【符号反転】
理解が追いついた瞬間、迷いは消える。彼女は躊躇なく、鯨の体表に触れた。
数値は、緑だった。ゆっくりと増えていく回復値。四割から、四割一分へ。四割二分へ。それに、触れる。
「――反転」
数値が、止まる。一瞬の静止。
次の瞬間。
緑が裏返った。増えていたはずの体力が、減少に変わる。
回復の演算が、傷の演算へと書き換えられる。
再生していた肉が、内側から崩れ落ちた。
増殖するはずの細胞が、自壊する。補填されるはずの魔力が、消費へと変わる。
鯨が、初めて異常を理解した。空気が震え、魔法陣が乱れる。
だが、カリナは手を離さない。
「触れられるなら、止められる」
回復は、すべて傷へ。再生は、すべて崩壊へ。演算は逆向きに回り続ける。
鯨は暴れる。地団駄。重力が揺れ、空間が軋む。
「【歩兵指定】!!」
メイトの声。鯨の体に前進の制約が刻まれる。
しかし、落下する巨体に前進は出来ない。矛盾。処理不能。演算が止まる。
「【閑暇・投与】」
イトマが合流する。暇が、倍加する。
反転された回復が、さらに加速する。赤が、溢れる。
体力は、削れるのではない。消えていく。四割。三割。二割。
誰も、声を出せない。鯨は、回復しようとし続ける。だが、その全てが傷になる。
やがて、巨体がゆっくりと傾く。音が消え、魔力の雨が止む。鯨は光になった。
分解される。粒子へと還り、夜空に溶ける。誰も、すぐには動けなかった。
遅れて、歓声が爆ぜた。
この瞬間、世界のレベルが一歩進む。
世界は彼らに応え始めていた。




