白羽の矢が立つ
イトマはトトへ暇を余すことなく投与する。
五人のステータスは常に上昇し続け、体力が削られても回復速度のほうが上回る。
トトは静かに戦場を見守る。拳は汗を握り、カリナの一挙手一投足に期待を浮かべる。
「トト、ガチャの当たりはSSRが最高?」
「違う、C、R、SR、SSRがある。そしてその上がUR」
「引けるかな?」
「これはクラス全員の苗字が同じになる確率と一緒」
「なるほどね。もっと加速しなくちゃ」
二人は敵の攻撃を避けるために動く。
それとは対象的に攻撃を仕掛けるのはカリナとクレートであった。
鯨に近づき攻撃を仕掛けたかと思えば遠ざかり策を練る。ヒットアンドアウェイを繰り返し鯨の体力を少しでも減らす作戦だ。
そんな二人に知恵を貸すのはメイト。
「カリナ! 鯨の体力は!?」
「四割に増えた、回復してる」
「もっと攻撃を与えねばなりません」
「この状況で、もっと強い攻撃を当てないと駄目なの……!?」
魔法による雨で地面がぬかるみ立つのがやっとだ。視界はぼやけて自分が生きているのが不思議であった。
ダメージ量で言えば、カリナが翠月刀で切りつけたときだけ、体力が削れるのが分かる。だがその減少量はたったの一秒で回復されるのだ。
クレートによる攻撃は鯨にとっては取るに足りない。それ以外のメンバーの攻撃はあってはないようなもので、すでにある選択肢では倒せないことが理解できた。
どうにかしてダメージ量を増やせないか。カリナは歯を食いしばる。
「カリナ様、攻撃系のスキルはありますか。なにか合成ができれば……」
「攻撃系のスキルなら『自爆』だね。状態異常もいくつかあるけど、効いてないみたい」
「召喚したモンスターを自爆させるのは!?」
「それは駄目、やりたくない」
「じゃあとにかく探るのみです。カリナ様の【遊び人】の極地を見せてやりましょう」
クレートが空を駆けると、それについていくようにカリナが宙に浮いた。
『念動』による空中浮遊は視界がシャッフルされて脳が混乱を起こす。
今彼女にできることといえば、魔法をわざと受けて耐性がゲットすることだ。
空中に浮かぶ巨大な魔法陣が魔法を放つ。『挑発』で攻撃を受けると、ダメージ数値が視界に入る。
魔力を浴びるが彼女の体力は減らない。しかし体が動かなくなり五感が遮られる。
彼女は大スライムに挑発をさせて攻撃から逃れる。
「大スライム、反撃だよ」
召喚している灼熱スライムと轟雷スライムは自身の属性の魔法が使える。
それを使わせて鯨にダメージを与えようと思った矢先、スキル取得音が頭を刺激する。
スキル取得
【魔法半減】【魔法作成】
「クレート! 『魔法作成』ってなに!?」
「魔法が作れます! ソートという有名プレイヤーを知ってますよね! 彼が使う技です」
「……誰も知らないって言ってなかったっけ? 詳しいね」
「『キティー』ですから」
カリナは試しに魔法を放って見ることにした。
使う魔法は火、腕に魔力を流すと、手のひらが鼓動を放つ。脳内に魔法名がよぎるとそれを綴る。
「『火球』」
炎は鯨に当たると離散した。クレートが渋い顔をする。
「MPが足りてないです、それに魔法が安定してない!」
「ステータスが初期のままだからね、どうやって補充出来るかな!?」
「それすらもスキルとして取得するのですよ!!」
「難易度が高いことを要求するよね、遊び人は万能じゃないんだよ」
彼女は頭を悩ませて一つの仮説を立てた。仮名による新たなスキルの案は、天すらも味方につけるのだ。
試しに魔球を連発すると、MPはすぐに枯渇して、魔法は空振る。
「カリナ様! いったい……」
「これ、合成してみて!!」
クレートに差し出した核は『自爆』、それと回復した瞬間に放った魔球。
「【核・融合】」
クレートは訳もわからず合成を始めると、結果をアウトプットする。
そしてカリナは笑った。
スキル取得
【諸刃の剣】
地面にいた大スライムを呼ぶと、膨れ上がった腹に左腕をめり込ませる。
そして右手で魔法を作成しだすと、大スライムは徐々に縮んでいった。
「『諸刃の剣』とは……」
「HPを消費してMPとして扱うんだ」
「な、なるほど! ということはその大スライムは……」
「巨大なMPの貯蔵庫だ」
アントのマガジンを思い出し、閃いた。
カリナが作るのは土の魔法。魔力を込めて魔法のイメージを浮かべる。
土の魔法のイメージは難しく、どのようにダメージを与えるのかが理屈では語れない。
頭を叩いて想像を膨らませるカリナにクレートの声が届いた。
「魔法はイメージと言うでしょう! 詠唱です。イメージを詠唱で補うのです!」
「え、詠唱って……なにを言えばいいの!?」
「正解はありません。思ったこと、起きてほしいことを綴るのが詠唱です」
クレートの言葉を半信半疑にカリナは言葉を綴る。
「大地よ……怒り狂い、濁流殻禍魚を、貫け」
彼女の脳内に魔法名が浮かび上がる。自身はないが、間違えてはいないはずだ。
クレートと自分を信じて手のひらを鯨に向けると、魔法名を呟く。
「『崩壊大魔岩撃波』」
瞬間、鳴り響くは魔力の怒号。カリナの掌から放たれる黄土色の魔力の奔流は空を穿つ。
地面はえぐれて、空は土に覆われる。鯨の腹を狙った魔法は、腹を掠めて地面へと逸れた。
着弾した瞬間、魔力は発散して消える。
多くのプレイヤーを葬ったが、肝心の鯨には一割程度の攻撃にしかならなかった。
「ど、道具無しで魔法を……」
「ま、まずい!! 全然削れてない!」
カリナはダメージ表示を見て落胆した。
魔法を使うには慣れておらず思った以上の有効打になり得ない。
鯨の体力はいまだ四割で、これを削りきれるほどの攻撃を与えるにはこの威力の魔法を後五、六発は撃ったなければならない。
極力大スライムを殺したくはないし、魔法をコントロールは難しいことが分かった。
これ以上のスキルを作成しなければならないのか? カリナは頭を抱えていると、それは起きた。
「……え」
ガチャが、止まる。光が変わった。
白でも金でもない。七色が、ゆっくりと滲む。世界が暗転する。
昼の空が、一瞬で夜に塗り替えられた。星が瞬き、空に二文字が刻まれる。
【UR】
カリナとクレートは息を呑んでそれを見守る。
爆発的な魔力が、トトから噴き上がる。地面が震え、空気が歪む。鯨が動きを止めた。
トトの背中の翼が、音を立てて広がる。
小さかった羽が倍以上に膨れ上がり、白銀の羽根が夜を切り裂く。
右手に一本、炎を宿す赫のステッキ。続けて蒼。金。翠。
四本の杖が、トトの周囲に浮かび上がる。元素が共鳴し、空間が軋む。
「……当たった」
震える声。
その余波だけで、鯨の体表がひび割れる。
夜空の下、翼を広げた少女が浮いていた。
一年に一度の奇跡。
世界が『選ばれし者』を肯定した瞬間だった。




