ギルド【百鬼星行】第一階層に集結する
「お、マゼラン! お疲れ様」
「イトマ、無事だな」
「カリナ様!!」
「さ、サリア……さん」
第一階層へと上がると、『百鬼星行』が集まっていた。
カリナは咄嗟に警戒する。目線の先にはダメージを負っている猫又と、やけに洒落ている弓士がいたからだ。
「あぁ、やはり美しい! カリナ様、お待ちしてましたよ!!」
「どういうこと……? 戦いたいの?」
サリアが目を輝かせてこちらを見るが、メドゥーサであることを思い出しおもむろに目を逸らす。
彼女は怯えるカリナに対して、手を広げて無害をアピールした。
「いえいえ! 戦いません、あれはレッカがいたからです! 私はカリナ様のためであれば死ねます! 我が愛おしき人よ!」
「む、むず痒いな」
好かれているのは分かっているが、以前まで敵対していた件を思い出し信用できない。
レッカのことがとにかく嫌いなのが分かる。カリナは歯ぎしりをした。
そんなカリナとは対象的に、フラムは血気盛んに声を荒らげた。
「おい、ニーナじゃねぇか!! せっかくだ、あの時の決着をつけようぜ」
「今はマゼランの補助をしないと駄目だ。お前に構ってる暇はない」
「私が殺せばいい」
フラムが手斧を握ると、突撃する。息が漏れて、目が血走っている。
『紙一重』で塞ぐが剣は握らない、ニーナは引かずに彼女を睨む。
「挑発には乗らない。倒したいなら倒せ」
「チッ、それなら勝負にならねぇじゃねぇか」
フラムは手斧をしまう。彼女は野蛮だが、戦士であった。無駄な戦闘は行わない。
深呼吸をして落ち着くと、自然と上空を見つめた。大勢のプレイヤーがそれから逃げている。
皆がつられて目線を上げる。そこには空を悠々と泳ぐ一匹のモンスター。
「イトマ、こいつはなんだ」
「第五階層のボスだよ。俺じゃあ手がつけられないけど、マゼランだったら余裕だろ?」
「当たり前だ」
マゼランは周囲に星を飛ばす。
目線の先に浮かぶのは体長が五十メートル程ある鯨。カリナは鑑定を使うと、目を疑った。
濁流殻禍魚
HP 3000/3000 MP 1000/1000
鯨の肌は青黒く、鱗で覆われている。
太った胴体に、ヒレがおもむろに動き、宙を掻いて泳いでいた。
「だが、あの体力だ。戦うなんてもってのほかだ。無視するぞ」
「なんで? もったいないよ、せっかくだったら戦わなくちゃ!!」
カリナが目を輝かせてそういう。
それに便乗するようにフラムが武器を握る。
「なら私はカリナの邪魔をするプレイヤーを排除しよう!」
「いいねそれ! 鯨なんて敵じゃないよ」
「戦いたいのか。なぜ?」
「なぜって、戦ってもし勝てたらポイントが貰えるでしょ? それにものすごいスキルが手に入るかもしれないじゃん!!」
マゼランはカリナの言葉にふむうと唸る。
イトマをじっと見つめると、不敵に笑った。
「イトマ、お前も行くといい」
「……えっ? 僕!? いやいや流石に何でもあれは倒せないよ」
「行く。な?」
マゼランが星を操作するとイトマの周りを漂わせ始めた。
イトマは表情を殺して「イキマス、タタカイマス」と呟いている。イケメンが台無しである。
「仲間が増えるならもっともだね、よろしくねイトマ!!」
「あ、あぁ……僕は回復ぐらいしかできないから頼らないでね」
「回復? そういえば、イトマの職業ってなんなの」
「自己紹介をしてなかったか」
イトマはそう言うと、剣を抜いて見せつけるように構えた。
「職業【暇人】の人間だよ」
彼の能力は『暇な時間』を貯め、それを消費して時間を操ることが出来る。
『暇』とは、自分がなにもしていない時間や、暇をしている他の人から採取することが可能だ。
また、時間を操ると言っても、基本的には加速しかできない。
例えば、人に暇を与えて『自然回復速度』を上げて回復させたり、状態異常を早く解消したりできる。
「職業【暇人】ってのはありきたりな職業でね。その割に職業の内容が人によって違うから、一概に没職業とは言えないんだけど……」
イトマ自身は自分の能力に対して良い印象を持っていないようだ。
「お前の力は最高だろう。それにお前の性格が乗るから最高が最適になる。私たちのチームのリーダーであることを忘れるなよ」
マゼランは吐き捨てるように言うと、その場を離れていった。
サリアが一生懸命こちらに手を振っているのが不気味に思える。
「イトマ、手伝ってくれるんだよね」
「あぁ、仕方ない。第一階層ぶりだね、よろしく頼むよ」
イトマは腕を差し出してきたので握手を交わす。
辺りではプレイヤー同士の激突が起きているのに、自分たちは飄々と話していて良いのか?
カリナは溢れ出す疑問を飲み込んだ。今は目の前の鯨を倒すことに集中すべきだ。自分にできることを考え始める。
途端に流れた効果音に、画面を見る。アントからのメッセージであった。
「フラム、アントから。もうちょっとで来れるって」
「私の方もだ。レッカがこっちに向かってる、もう少し待つか」
「俺からすればちょうどいい、充分に暇しておこう」
鯨は攻撃を始めることなく、宙を泳いでいる。
戦闘には、もう少し時間がかかるようであった。




