ギルド【キティー】蟲退治を行う
レッカは目を疑った。
正面には第三階層のボスである『甲鎌針禍蟲』がいる。
それは森を裂き空から現れた。そして見えたもう一つの影。
「蟲が二体なんて……」
「れ、レッカ……逃げよう!」
そうしたいのは山々であった。
しかし先程からいる一人の青年に阻まれる。
「だめです! もう少しで来ます! 僕達だけで逃げるのは卑怯だ!!」
彼の名はクレート。先程森の中で声をかけられ行動を共にしている仲間であった。
真っ黒の服装に藍色の髪を後ろでまとめた彼に、レッカは不信感が否めず、トトを離す。
「ならあんたが残ればいいでしょう! 私たちは戦う職業じゃない! だから逃げるよ!」
「ま、待って! 話を聞いて下さい!」
「後ろ来てるから!!」
蟲の六つに分かれた腕によって放たれた斬撃は容赦なくクレートを襲う。
トトがガチャを回す。それよりも早くレッカは動いた。
その防御は間に合わない。だがクレートはその攻撃を見切っていた。
「【核・抽出】」
攻撃が消えて、一つにまとまっていく。それは玉となり、彼の手中に収まった。
二人は目を疑う。蟲の攻撃は消えて、彼は傷一つも付けていない。
「もう少しの辛抱ですので、僕に託してください!」
彼の指が光る。中指にはめられた指輪が小さな魔法陣を放つと、そこから放たれるのは斬撃。
蟲が放った攻撃である。レッカはトトを引き寄せると、彼に近づく。
「案外やるね……!」
「我が主君に比べれば造作もない。それより下がっててください」
蟲が二匹、こちらを見ている。
皆が固唾を飲む。攻撃が放たれ、レッカとクレートはそれを相殺するため構えを取る。
その攻撃は、瞬時に離散する。
激戦を予感した三人の背後から足音が聞こえ、皆が振り返る。
「無謀」
「ら、ラトラス様!!」
クレートがその女性へと近づく。
彼の話では仲間であったが、レッカはその存在を睨みつける。
「……」
口を開かない彼女は長身で、体感二メートルはある。
背中に真っ赤な鎌を背負っていた。朱色の髪に、褪せた服装。
レッカが彼女を警戒したのはその特徴的な肌である。彼女の顔の右半分は火傷でただれており、肉が見えていた。
また、腕からは肉が削ぎ落ちて、骨すらも見えている。反射でトトの目を覆った。
「見世物ではありません! 主君はラトラス様! スケルトンでございます!!」
それを聞いても納得できない。
スケルトンとは骨でできた魔物だ、しかし彼女には肉がある。レッカは思考を凝らす。
『ラトラス』という名に聞き覚えがあった。アントとの会話に出ていた『キティー』のリーダーだ。
レッカはハッとして辺りを見渡す。
そこには、ラトラスとクレートを除いた四人のプレイヤーがいた。
トトが恐怖で震えており、そっと手を握る。
「信用しても、いいんですよね」
レッカがそう言うと、そばに控えたプレイヤーが口を挟む。
「レッカ様、トト様、私たちはあなた方の味方でございます」
「我々と協力しろとは言いません。ですが、第一階層へと赴いていただきたく」
「カリナ様、フラム様、アント様が先に到着するでしょう」
「この場は我々にお任せください」
ラトラスは頷く。
「下がれ」
レッカは口を閉ざす。ラトラスの後ろへと回ると、彼女は蟲を見据えた。
どのような戦い方をするのか、見ておきたかった。
アントが目をつけるほどの強敵だ。弱いわけがない。
レッカはそう考えて、刹那。思考を停止させた。
ラトラスは呟く。
「【始原回帰】」
二匹の甲鎌針禍蟲の体が、木っ端微塵になる。
残るは灰のみ。ラトラスは一息つく。
「クレート、二人とともに上へ」
「……へ!? 僕も一層ですか!?」
「……」
ラトラスはなにも言わない。
クレートが渋々レッカの腕を引こうとするが、彼女は動けなくなっていた。
それは今見た光景を理解できないからだ。
「……」
目を点にさせて考える。
指が震える。だって、あの技はカリナの唯一であったはずだ。
固有級のスキルを持っている? さっきの技は『始原顕現』じゃない? 彼女は理解が追いつかない。
そんな彼女の思考を読んだのか、ラトラスが声を掛ける。
「私のスキルだ」
それだけ言うと、森の中へと姿を消した。
彼女は、マゼランに匹敵するほどの力を持っている。そう確信したレッカは、おもむろに歩を進めるのだった。




