職業【銃使い】上位魔法を唱える
アントは『鎖破悪狼』を召喚すると、カリナから借りたダガーを二つに複製して握らせる。
カリナはそれを察すると、アントに『念動』で捕まった。
「レッカ、捕まって!!」
「え、う、うん!」
「行くぞ、【戦場掌握】!」
カリナの体に抱きつく。直後、三人の体は宙に浮き始めた。
レッカが目を見開いて驚く、それに対し、楽しそうに腕を振るカリナにレッカは説明を求めていた。
アントが飛んだ瞬間であった。
「え、ちょっとこれ!! どうなってるの!?」
「アント、飛べるようになったんだね!」
「このスキルを持っていれば当然だ」
巨狼にダガーを握らせて固定と解除を繰り返しクライミングのように宙へと登る。
カリナはポーションを手渡すと、レッカの体力が回復した。
「これでとうとう全員飛ぶようになったね……」
「僕が飛べないよ!」
「あんたはどうせ明日には不思議な力で飛んでるな」
「同感」
二人はジト目でカリナを見つめた。
戦場を俯瞰する。本を開いている猫耳メイドが『ニーナ』なのだろう。そして周りにはカリナのスキルを奪うために集まったハイエナ共。
ハイエナは十数名。さらに遠方からもプレイヤーが集まりつつある。ニーナが情報を流したに違いない。
アントは下方から突き上げてくる魔撃を避けるように体を避ける。どうしても避けられない攻撃は銃を打って相殺する。
「『戦場掌握』はすごいな」
「そうでしょ! 僕のとっておきだからね」
「戦場が手に取るように分かる。どんな奴が、何処で、何をしようとしているのか。全てが情報として理解できる」
「え、そこまでじゃないんだけど……」
彼はスキルに適応していた。
その順応力はカリナ以上であった。戦場にいるだけで場を理解して、己がすべきことが理解できる。
アントはスキルを常にONにして戦場の俯瞰を継続する、そして作戦を立てていくのだ。
「おそらくこの場にいればまたウジ虫が湧いてくる、一旦引くか?」
「そうしたいのは山々だけど、逃げても僕のスキルを諦めないでしょ? 一度でいいからこてんぱんにして諦めるのを待とう」
「カリナってば、どんどん血の気が増していくね」
「まぁあいつの友人だからな」
「確かに! あれ、一緒じゃなかったの?」
「あぁ、置いてきた」
「「えぇ……」」
そう言ってフラムの顔を思い出す。
フラムとは一緒に行動をしていた。しかしニーナに攻撃をされて上手く動けていなかったカリナを見て「さっさと連れて行け! 私が殺す」などと物騒なことを言っていたので置いてきた。
あの暴走車を一緒に連れていけば戦場を把握する事もできずにピンチになるのがオチだ。
アントとフラムは性格が合わなかった。アントの考え方はカリナと似ているはずなのに、なぜ差が生まれるのか分からない。
「それに俺も多少は活躍したいんだ」
スモークが焚かれて姿を隠した。
半径五メートルの範囲を隠す『煙幕』は姿を晒すよりも安全であった。
彼はスナイパーライフルを握ると、魔法の詠唱を始めた。
それは上位魔法の詠唱であった。銃の先端に魔法陣が幾重にも連なり始める。
レッカの顔がどんどん曇っていく。
「ね、ねぇ……やばいことしようとしてないよね!!」
「やばいこと? アントはなにしようとしてるの?」
「カリナって魔法について驚くほど知識ないよね……」
「ま、まぁ剣で戦うのに憧れたからね!」
魔法とは五段階の等級に分かれている。
それぞれ下位、中位、上位、超位、神位だ。アントはそれの上位を唱えようとしていた。
「ニーナが撃った『虚大魔消撃』も上位魔法だよ。ただあれはMPの消費が激しくて簡単には打てないから、スキルで緩和したんだろうね」
「緩和? あぁ、『神契り』って言ってたやつ?」
「そそ、魔導書も剣や銃と同じ武器なんだよ。上位魔法は覚えるのも難しいから、普通は魔導書とか杖に覚えさせて唱えるんだけど、今後二度と打てない代わりにノーリスクで撃つのが『神契り』の効果だと思うよ」
「でもアントは銃だよ?」
「銃も杖の一種だからね」
「なるほど」
職業【銃使い】であるアントはマガジンにMPを貯めることが出来る。それにより枯渇しないほど大量のMPを得たアントは、上位魔法の連打が可能だ。
しかし詠唱に時間がかかるため窮地での発動は難しかった。しかし空を登る事ができるようになった彼はそのデメリットを克服したに等しい。
「そろそろかな……」
「おぉ!!」
「遊び人、あんたの『風撃』で煙幕を晴らした瞬間に撃つ。いつでもいいぞ」
「了解!!」
アントの選択した魔法陣は、それぞれ発動二倍を四枚、威力二倍、追尾の単純な増強であった。
魔法陣を重ねる行為は、魔法陣を展開する以上のMPを消費する、そのため魔法陣を設置して魔法を何度も放つほうが効率が良い。
しかし彼は一点集中を選んだ。
「【風撃】!!」
刹那、ニーナの姿を捉えたアントは魔法を放つ。
「【灼熱大魔炎球】」
けたたましい轟音とともに発動した魔法は、魔法陣を潜り威力を増していく。
直径三メートルの火炎の球が軌道を燃やし尽くす。空気が膨張して花火のような破裂音が辺りを支配する。
その火炎はニーナ目掛けてスピードを増す。
「おいおい……嘘だろ?」
ニーナは魔法を視認した瞬間には、すでに逃げられない距離であった。否、魔力の奔流が自分に向けられており、逃げたとて無駄である。
「【紙一重】」
ニーナの発動したスキルは三平方メートルの半透明のバリアだ。どんな攻撃でも一撃は耐えることが出来る万能スキルである。
しかし魔法とは魔力であり、魔法の強さは魔力の量で決まる。
紙一重で耐えられる魔力量はせいぜい中位までであり、魔法陣により強化された魔法はその限界を余裕で超える。
ニーナはその魔法を直に受けると、体力数値が急激に減っていく。
「相殺しろ!! 魔力には魔力だろう!!」
そう言って他のプレイヤーに応援を求むが、応援の届く距離にいるプレイヤーはすでに灰になっている。
ニーナは抗うことなくその姿を消していくのだった。




