未完成の完成
真っ先に警鐘を鳴らしたのはカリナだった。
続くアンノウンの三人が武器を手にとって、それは始まった。
第六層。
討伐されたボスのドロップアイテムを拾う三人。背後に佇む一つの影。
その気配は【堕天王】ほどではない。それなのに、フラムは異常なほどの殺気を纏った。
「なにしに来やがった」
「エスから許可が出たので。来てあげましたぁ。感謝してください」
手を合わせて恍惚とした微笑みを浮かべる女性。
ブラウンのカーディガンに白のワンピース。
他人の心を掴むひし形の瞳に、毛先の丸まった茶髪。
その声はねっとりと纏わりつくよう。
「ミド……」
「えぇと……フラムさん。今回はスキルを奪いに来たのではありません。戦意を削ぐのが仕事です」
三人は話すのは無駄だと言わんばかりに武器を握った。
戦闘が開始するのは、ここだけではない。
第七層。
ボス部屋に入り四人が目にしたのは、ボスではなかった。
「来たよ」
「……」
静かに目を開けた少女の姿。武器を握る少年の姿。
二人は軍服を着ていた。
近くの灯籠に灯る火が、火力を増した。
「ナギに、ツムギだな」
「準備不足だ」
「奇襲、失敗」
「姑息な手には引っかからん」
カリナからのメッセージに気づいたアントは、すぐにその存在を感知した。
銃を構える。三人も同様に警戒する。
「一人増えてる、目を合わせたら駄目」
「了解」
静かな神殿。始まる戦闘。
その緊張は、アントだけではない。
第八層。
二つの装備を作成したレッカは、シルフとトトの腕にスーパーリングをはめ込み、次のボス襲来を待っていた。
彼女は焦る心臓を押さえつけた。
「お久しぶりぃ! さぁ、やろうかぁ」
「話し合いとか、そういうのはいらないんだね」
「そうだなぁ。武器を降ろしてくれたら、考えるわ」
「そんな簡単な手に引っかかると思ってるんだ」
クォータースタッフを握りしめる。
心を落ち着かせて、いつもの自分になる。
ポジティブに皆を引っ張る自分になるために、皆の目を見た。
「今度は負けないから!!」
「馬鹿みたい。その願掛け、必要?」
ダリアの花が満開に咲く。
笑みを浮かべるのは、彼だけではない。
第十層。
彼は【透明化】を解く。
「速かったね」
「マゼランと敵対する気はなかったんだね」
「敵対する意思は……なさそうだ」
彼の目に映る少女。
鬼はカリナを除いたプレイヤーを後ろへと下がらせた。
スキルを奪われるのを懸念したため。そして、この戦いに参加できないことを悟ったため。
カリナは空を階段を登るように歩く。
「自爆で逃げたプレイヤーが、今回も自信満々に登場かい?」
「戦略的撤退でしょ」
「後少しでスキルを奪えたんだ。残念だったよ」
二人は目を合わせていた。
しかしエスは余裕の笑みを浮かべてスキルを行使しない。
「勝てる勝負だ。マゼランは参加するつもりがないみたいだしね」
「挑むが勝ちだよ」
「君に伝えておくと、俺は勝てる勝負しかしないんだ。準備は万端だし、君のスキルは無駄になる」
「僕のために時間を使ってくれたんだね。嬉しいよ」
カリナは内心焦っていた。
まだ魔法の練習を終えていないのだ。
そんな感情を抑え込むのは、天敵を目の前にしているから。鬼が後ろで見守っているから。
エスと高度を合わせる。
「見下さないでよ」
「悪いね、これで対等かい?」
「うーん……」
カリナはもう一歩空を登る。
「こんなもんかな」
「そうかい、満足なら良かった」
戦闘の開始。
四箇所で、幕が上がる。
脅威が咆哮をあげ、未知が可能性を切り開く。
始まるは、未完成の完成。
四人は武器を握った。




