職業【遊び人】無詠唱魔法をものにする
カリナのスタッフには土と光の属性が刻まれていた。
そのスタッフを振りかざすカリナは、現在マゼランと対峙していた。
隅の方でソート、メイト、エレンの三人が見守っている構図だ。
しかし、三人の表情は一貫していた。驚き。
マゼランの戦闘センス。魔法への理解。そして、単純な強さ。
どれを取っても欠点がない。言うならば天才。超えることのできない巨大な壁である。
対するカリナの成長度。これもまた天才。
それは努力。継続力。類まれなる思考能力。マゼランという壁に立ち向かう、勇猛果敢な戦士。その勇ましさはまるで勇者。
そんな勇者はたった今、無詠唱魔法に成功する。
「……っ!」
「筋はいい。だがそれだけだ」
「……まだまだよ」
魔弾は無属性魔法の最下位魔法。しかしMPを充分に込めれば、それは殺意の塊となる。
魔撃も無詠唱魔法の最下位魔法。こちらは一直線に伸びるレーザー。その光は、魔力を込めることで、音速を遥かに超える。
カリナはその両方を無詠唱で操る。
彼女の背後で漂うドット柄のスライムが二体。それぞれ魔法を発動する。
そしてスライムの傀儡師は、またしても無詠唱魔法を唱える。
「効いて、ないっ!」
その魔法は光の珠であった。
魔法名【大光魔珠】は、五つの塊となって鬼を襲う。光がその姿を透過するのは、もう何度目になるだろうか。
「まだ対策ができてないのか」
「っ!」
それを外野から見るソートは、声を漏らした。
「あれは騙されて当然です……マゼランは先程から自身の掌から魔法を発動しています。あれが実体でないなら、魔法の出現位置をスタッフ無しでかつ無詠唱で、任意に操っていることになります……」
「つまり、マゼランやべぇってこと!?」
「ヤバいなんてそんなもんじゃないわ。あれは人間にはできない。脳が二つないと無理よ。やっぱりマゼランは悪鬼ね」
エレンとソートが身震いするほどの魔法使い。
そんな『天文学者』が育てた『遊び人』だから、その強さの継承は計り知れない。
カリナはスタッフをしまう。
「刀に持ち替えたか」
「マゼランの得意でしょ。強いんだから、真似しなきゃ」
「それでこそ『遊び人』だ」
掌から放たれる魔法名【大岩魔撃】はやはり無詠唱。
岩の塊。その大きさ大体マゼランの身長と同じである。それを砕くのは少女の金棒。こちらもまた、マゼランと同等の大きさ。
紫黒の棍棒が穿つはカリナ。彼女はその威力とスピードに適応できない。
「いつの間にっ!!」
彼女の体が宙を舞う。刹那。カリナの体がピタリと静止した。
唱えられた無詠唱魔法。【大岩魔壁】が、カリナの体を受け止めたのだ。
壁を蹴り翠月刀を振りかざしたカリナは、その感触に目を見開いた。
「当たった!!」
「……!」
素早く刀を横に薙ぐが、既にマゼランの姿はない。
離れた地点で肩に負った傷を見つめる少女。三人は驚きで声が出ない。
それは彼女も同じ、腕への力を無くして鬼の傷を見つめるカリナは、思わず顔が綻んだ。
「……さすがだな、カリナ。まさかここまでやるとは」
「あ、ありがとう」
途端に掛けられた称賛の言葉に、カリナは思考が追いつかない。
彼女が思い出すのは、ここ数日間の魔導訓練であった。
その苦楽はこの場の全員が味わった。
内容は、ただひたすらに魔法を発動し、その後無詠唱で魔法発動に望むだけであった。
魔法を使えるようになってまだ数日の彼らに、出来ることは少ない。
しかしその内の一人はやり遂げた。鬼に認められた。
心を落ち着かせていると、途端に力が抜けた。
「カリナ!!」
メイトが背後に現れると、倒れるカリナの肩を支えた。
「カリナ、どんどん強くなるね!!」
「自分よりも強いかも知れませんね……正直大規模魔法に自惚れていた自分が情けないです」
「そ、それを言うなら私もよ。なんでただの人間にエルフが負けなきゃいけないのよ」
「カリナの努力を貶すのはやめるんだな。エレンも努力するがいい」
マゼランの言葉に、エレンは唇を噛む。
別に努力を怠っている訳では無い、彼女が別格なのだ。
「雷も氷も使えるんだから、あなたは私の上位互換じゃない。蔑まないで」
「それはない。まだその二種類の魔法であればエレンの方が実力が上だろう」
「……なによ、慰めは要らないわよ」
「これは本音だ。カリナは出来ることが多い。だからこそ、それぞれの実力が浅い。その専門のプレイヤーと戦っては彼女は十二分に戦えないだろう」
鬼の言葉に息を飲み込む三人。
カリナは強いが、それに勝る力を持つと、直に言われて緊張する。
果たしてそれが本当なのか、それは神のみぞ知る世界であった。
カリナは異様な気配を感じて、素早く立ち上がると、武器を握る。
「マゼラン」
「気づいている」
カリナはアンノウンの仲間にメッセージを送る。
どうやら、時は満ちたようだ。
「また、バレた」
Tips:無詠唱魔法の難しさは、譜面をなしに完璧に音楽を奏でる難度です。




