職業【遊び人】夜の美しさを知る
モザンはエスの話をしてくれた。
「つまり彼は最多の幸福を目指しているんだ」
「最多の幸福……」
高い目標だ。叶えられるか分からないが、それが叶えられれば、何よりだろう。
しかし、彼が本気で目指しているというのであれば、どうして目の前の人間と敵対する必要があるのだろうか。
「エスは優しいやつだよ。言ってることも正しいんだけど、その手段が何より大雑把でさ。スキルを集めて、増やして、配るなんて弱者救済をご立派に掲げているけど、結局は努力の欠落につながる。彼自身もそれに気づいてなお目を瞑っているのさ」
「それを知ってるのに、モザンはエスにつくんだね」
「まぁ僕は彼を信じているからね。彼の思想に僕は賛成するさ」
「そんなモザンの言葉を僕は信じて良いのかな? 嘘をつきに来た可能性だって、あるよね」
嫌な笑顔を浮かべるカリナに、彼は対抗して目を合わせる。
「いいや、君は僕と彼を信じるしかないさ。このゲームの職業は、そのひとの生き方や性格によって変わるだろう」
「そうだね。僕は多趣味だったから【遊び人】だったんだろうし、フラムなんて性格がそのまま【先導者】に反映されてるよね」
「だろう? それじゃあエスが【賢者】であることを、君は知っている。それが何よりの証拠じゃないか」
「スキルを作れて、与えられて、奪えて、増やせる……だっけ? 神みたいな能力だね」
「神は別にいるけど……作れるスキルは『希少級』までだし、カリナみたいに装備ができなかったり、レベルを上げても意味がない。彼は彼なりに苦労してあぁなったんだよ」
努力を否定するつもりはない。
しかし、どこか否定的な意見を生んでしまう。これは同族嫌悪なのだろうか。
「一度否定しちゃうと、ずっと否定的な目線で見ちゃうね」
「それが人間の欠点なんだよ。カリナはどうするつもりだい? エスと敵対するというなら、僕は止めないよ」
「多分、そうなるだろうね。僕の仲間に手を出してきたし、監視されてるなんて嫌だからね」
モザンは窓の外に乗り出し、星を眺める。
星の数を数えだした彼の隣に行き、同じく空を仰ぐ。
短い髪が耳をくすぐり、思わず髪を耳にかけた。
「僕は、エスに勝てるかな」
「勝つことを考えてるのかい? まぁそうだね。僕の力の一端を貸してあげてもいいよ」
「モザンの力?」
「カリナは僕とマゼランの戦いは見たかい?」
「うん、嫌というほどね」
マゼランの戦い方には学べることがいくつもある。
だから、少女の戦いは見るようにしていた。だからこそ、モザンの攻撃についてもよく覚えている。
彼の一瞬の硬直の後放たれた、魔力の津波。それは誰もが目を疑うような御業であった。
「この話はまだ仲の良い知人にしか話してないのさ。だから皆には内緒だよ」
モザンはそう言うと、カリナの肩に触れる。
ビクッと身体が震えた。彼女は彼を強く睨む。
「ふ、触れないと、この能力の共有ができないんだよ……勘弁してほしいね」
手首には、木製のバンドが巻かれていた。鑑定結果、不明。
この物体がなんなのか、カリナには分からない。それはつまり、装飾ではないが、武器でもない。なにか特別な効果を持つものであることだけが分かった。
カリナはゾッとする。これからなにが起こるのか、震える肩を優しく叩くのはモザンであった。
「これにはこの世界の情報が入ってるんだ」
「この世界の……?」
途端に、カリナの肌が機敏になり、目が熱くなった。思わず目を閉じる。
空気の流れを感じて、鳥の鳴き声が耳についた。
草木が揺れる音、二人の呼吸音、空気の流れる感触。
慌てて目を開けると、そこには満天の星空。
「……っ」
「これが僕の視界さ、君の【種族変化】を強制的に作用させた。ごめんね」
「え……っ。ほ、ほんとだ」
頭に手を伸ばすと、そこには木製の角が生えていた。モザンとお揃いである。
空は夜だと言うのに、青い。
星は鼓動を打つように一生懸命光っており、空気がそれをかき消すのがよく分かる。
モザンの方を見ると、彼の情報が手に通るように分かった。
モザン
Lv.56
職業:共存者
種族:嵌合獣
HP 100/100
MP 270/270
攻撃力 30
防御力 50
魔法攻撃力 120
魔法防御力 50
素早さ 230
「あれ……スキルがない……?」
「あー、色々あったんだけどね。邪魔だったから、全部エスにあげたのさ」
「えっ! あげちゃってよかったの!? それにスキルがないのにこんな事……」
「僕がこんな事出来るのはスキルじゃないからね。カリナには一片しか見せてないけど、例えば僕は君の視界から情報が得られるし、空を羽ばたく鳥とも繋がっているんだよ」
「……」
マゼランが話していた。スキルに頼らない戦い方。
マゼランはやれることを全てやっているから強かった。
モザンは逆だ。必要最低限にしているからこそ強い。カリナはモザンの指さした鳥を見つめる。
この層にはモンスターがわかない。あれは友好的なNPCであった。しかし、いつにも増して動作が遅い気がするが……
「なんか、違和感」
「お? 気がついた? さすが有名プレイヤー。そこらのプレイヤーとは違うよね」
「ど、どういうこと?」
「今、この世界の時間は遅くなっている」
「……え」
カリナは声を漏らした。




