職業【遊び人】無銘舎で間違える
カリナはまた、一人無銘舎で机に伏せていた。
外は夜。蛍光灯が点滅しており、机に突伏する彼女の額が赤くなっている。
「……」
あれから一日、仲間は気にするなと言ってカリナを慰めた。
しかし、フラムとはあれから会えていない。自己研鑽を行っているのだろう。
レッカはトトと一緒に新たなアイテムの開発だと言っていた。
「目指せダリア打倒! 特注のアイテムを作って対策するんだよ!!」
元気よくそう言っていたが、身体が震えているのが分かった。
あれが恐怖なのか武者震いなのか、今の彼女には分かったことではない。
アントとは口が聞けなかった。
嫌われたわけではない。話しかけても笑顔を見せてくれたし、メッセージでのやり取りはできていた。
彼は彼で悩んでいるのだろう。今のカリナに出来ることはなかった。
「どうして……」
カリナはエスの考えがわからなかった。
確かに通じるところは度々ある。だが肝心なところはいつも交わらない。
今回の戦闘も、それが原因で起きたのだ。
もし自分が強ければもっと早く決着が終わっていたのに。
「逆に、僕がもっと弱ければ……」
今こうして悩んでいるのは、自分がエスにたどり着けるなにかがあると信じているからである。
圧倒的に負けたのであれば諦めもついたが、今回はスキルを封じられて負けたのだ。
彼女は負けず嫌いであった。これはフラムの影響で、カリナの本性である。
「前は初心に戻ったよね。今僕にできることは……」
思考をリセットさせる為に考える。
今ある問題三つ。
アンノウンの三人がエス陣営の四人に負けたこと。
ニーナとコロンがスキルを奪われたこと。
そして、エスの思想がこのゲームを塗り替える可能性があること。
「……最初の問題は解決するよね」
カリナは今、怒りに満ちていた。
それは、エスに負けたからではない。仲間が貶されるような倒され方をしたからである。
ダリアとミドに関しては奇襲。ナギとツムギは裏切りである。負けて責められることは絶対にない。
だからこそ、彼女は思考を間違える。
「僕があの四人を倒せば良い」
スキル取得
【尾行】
エスと同じスキルを手に入れた。これで四人の位置が分かる。
ミドはどうやら第十階層のマップの端にいるようだ。
「行かなくちゃ」
カリナは問答無用で立ち上がると、出口の扉を開けた。
「……」
「やぁ! はじめまして、だよね? 僕はモザ――」
カリナは扉を閉めた。
おそらく見間違えだろう。敵対したと噂の最強プレイヤーが、こんなところにいるわけがない。
疲れているのだろう。彼女は深呼吸をする。
「ス―……ハー……」
「なんで閉めるのさ!!」
「も、モザン!!?」
カリナは驚愕した。
そこにいたのは、ふさふさの髪の毛をくるくると弄る、不機嫌なモザンであった。
彼はズカズカと教室の中へと入ってくると、最後尾の席につく。
「エスに言われたんだよ。カリナが変なことを考え出す前に止めてくれってさ。ほんと、人使い荒いよね」
カリナは翠月刀を取り出すと、モザンの穏やかな目を睨みつける。
初対面のくせにどうしてこうも落ち着いているのか分からない。
そう思っての警戒であったが、彼に敵意はないらしく、焦った様子で両手を上げた。
「か、勘違いしないでね? 僕は君と敵対するつもりはないんだよ! 僕は君の味方だ。エスの味方でもあるけどね」
「正義の味方みたいな事言うね」
「それが一番近いかなぁ? それに、君どっか行こうとしてなかった? ちょうどよかった、でしょ!」
「……」
うんともすんとも言えない。
それは、無言の肯定となった。彼は余裕のある笑みを浮かべる。
「僕に話してみなよ。この話はエスにはしない、約束するよ」
椅子にまたがり、背もたれに腕を組んで頭を置いた。
彼が動くたびに衣擦れの音がして心が落ち着く。それに彼の声、どこか安心を感じる。
「今の僕にできることが、分からない」
カリナは自然と吐露していた。
彼女の本音。カリナはエスに負けた。だから強くなければならない。しかし、強くなったところでまた彼に負けるかも知れない。
別のアプローチとしては、カリナが一人でエス陣営のプレイヤーからスキルを奪い返す。しかしそれでは仲間からの信用を失う。それを彼女は気づいていた。
四人で戦いにいっても再度奪われる可能性がある、エスには居場所がバレているからだ。
最後の可能性は、常にエスに場所がバレているため、いつ襲われるか分からない点であった。
「だから自分がなにをすればいいのか分からないし、なにが正解なのかも分からない」
カリナは初対面の人を相手に、余すことなく全てを伝えた。
目を見開いてハッと気づいた時には、全て話していた後であった。あくまでもマゼランと敵対したプレイヤーなのだ。あまりにも警戒心のない自分を卑下してしまう。
しかしそんなカリナの話に、モザンは大きく頷く。
「分かる! エスってすごい利己主義だよねー。悪く言うつもりはないけど、彼は即断即決だから。他人にどれだけの迷惑がかかっているか分かってないんだ」
カリナはモザンの対面の席に座る。
「今の君が悩む理由は、無知。エスについてなにも知らないことだ。僕にならそれが解消できると思うんだけど、どうかな」
二度目の肯定は、声を出して頷いた。
「それじゃあ、少し時間を借りるね」




