職業【賢者】翻弄
賢者が視界から消えた。
溢れ出るエネルギーに思わず目を瞑ってしまったからだ。
目線を下に映す。
「っ!! フラム!!!」
フラムの首に、エスの指がかかっていた。
けたたましい笑い声。カリナは怒りで周りが見えない。
秒数にして一秒。エスの背後へ移動すると、剣を振るのを躊躇わない。
途方もないエネルギー量。魔力を覆った賢者は、力を増して首を締める。
「っ……!! ――!!!」
「【紙一重】」
カリナの刃は、遮られる。
フラムは抗おうと口を開けていた。
「フラム、悪魔を!!!」
最悪の手段だが、この状況を打開する方法はそれしかないだろう。
カリナはがむしゃらに腕を振るが、その全てが無駄になる。
フラムに声が届いていないのか、【思念伝達】を使って【悪魔召喚】の使用を促す。
そしてカリナは気がつく。
(沈黙……状態異常……!)
フラムが声を発そうと足掻いている。
呼吸のできない魚のように喉を震わせているが、それを覆うエスの腕は更に力をました。
彼の逆境が始まり、フラムの戦闘が終わる。
「――!!!」
それはあまりにも残酷で、目を覆いたくなる敗北。
「【模倣:悪魔召喚】」
悪魔が召喚に応じる。
皆が息を潜めた。
「今度はしっかりと働いてくれるかい。【堕天王】?」
魔王の威圧。
膝を付いて恐怖を抱く。そして放たれるのは覇気。その破壊は誰もが呼吸を忘れた。
「アント!!」
カリナがアントを庇うようにダメージを負いに行く。
レッカには【不落要塞】がある。しかし彼には守るすべがない。
「――」
訪れる静寂。
そして、空間を断つ覇気は、カリナの防御すらも打ち砕く。
「っ!!」
命の瀬戸際、脳が震える。
鼓膜が使い物にならなくなり、腕がズタボロに切り裂かれる。
目を開けて生を確認したカリナの目に移るのは、四肢を吹き飛ばされるアント。
「ぁ……」
言葉を失う。
負けてはダメだ。
「まだやれ!! 僕、立て! カリナ、立ち上がれ!!」
自分の頬を思い切り叩く。
血が滾る。
目線を上げた時、レッカの腕を掴んでいる賢者に、脳が認識を拒絶した。
「【模倣:熱冷操作】」
パッ、と花火が咲いた。レッカは消える。
光の粒子がエスを覆った。
「カリナ、諦めよう」
「……」
わざと、舌を噛んだ。犬歯で舌の真ん中をすりつぶす。
痛みはない。しかし、脳に血液が登る。彩度が増す。
「【模倣:重力特異点】」
「……マゼランの」
「スキルを封じたんだ。さぁ、もう一度戦おうか」
エスが瞬時に距離を詰める。
触れると即死、状態異常があるから。
カリナは翼を開いて全力で地面を蹴り上げる。
体が軽くなる。力が抜けて、自分が宙にいると認識した。
「ストーカーめ……!」
「逃げないでよ」
スキルが使えないとなると、剣を振るっても大したダメージを与えられない。
カリナは今できる最大限の抗いを考えた。
「……」
諦めたのではない、それが彼女が導き出した答えだ。
作戦を考えるのが彼女の得意。これが悪手となることは、今までになかった。
カリナはエスからとにかく距離を離す。
「それが君のすることかい?」
エスが距離を詰めて魔法を放つ。
身体がダメージを受けたと信号を発するが、聞こえないふりをする。
構わない、逃げろ。逃げるが勝ちだ。
「捕まえた」
エスの腕が、カリナの手首を握る。
瞬間、襲いかかる重力。疲労と視界の暗転。
だが彼女は諦めていなかった。
その一瞬。
スキル取得が流れる。
「っ!」
マゼランの【重力特異点】は三分に一度効力を失う。
スキルを使い慣れてる少女にはその感覚が掴めており、スキル再使用までのスパンが短かった。
だからこそ、彼にその感覚があるわけない。
カリナの【遊び人】は進化して、一般級のスキルを簡単に取得できた。
それも、一度取得したことのあるスキルは更に容易である。
エスは腕を離して、防御姿勢を取った。
スキルを使用する。
これが彼女の、敗北宣言。
「【自爆】」




