職業【遊び人】複製体に投射する
第一階層で先刻の戦闘を共有する。
四人は広野で四方を向く。いつ攻撃が飛んでくるか分からないからだ。
一層には多くのプレイヤーが点在していた。他の目があればエスも躊躇すると思ったが、そんなことはないようだ。
「来たね」
「どこだ……」
「【透明化】を使ってるのだろう。俺とフラムには見えないな」
「カリナの目の前、地面に立ってるよ」
レッカも【鑑定】のスキルがあるため見えていた。
しかし目を覆いたくなるのは、そのステータスの異様さ。
「カリナと……同じだ」
「初期ステータスから変えられないんだ。カリナも一緒だろう?」
「……なんでここが分かったの?」
「【尾行】というスキルを作ってみた。一度でも接触したプレイヤーの位置を特定するんだ。レッカの【追跡】を参考にしたよ」
エスは話しながらこちらへ歩いてくると、魔法を放った。
【魔透明】で姿を消した魔撃が三本。
「少しは躊躇ってよ!」
「私が守る!!」
レッカが複製体を作成すると、クォータースタッフで魔法を迎え撃つ。
彼女の【不落要塞】は、魔撃程度の攻撃を無効化出来る。
カリナはその隙にスタッフを取り出すと、【魔属性変化】で魔力を練る。
「上手く行くかわかんないけど……要は見えるようにすればいいんでしょ」
闇の魔法に【符号反転】の効果を乗せる。
カリナは魔力を込める。百以上の魔力をつぎ込むと、初めて魔法名が頭に浮かんだ。
「『影狼』」
魔力の影が立ち込める。
エスが歓喜した。
「反転魔法……さすがカリナだ」
影がエスに触れると、透明化が解除された。
フラムとアントはその姿を視認する。
(エスと目を合わせないで。目を合わせると、スキルを奪われる)
三人は慣れない感覚に襲われる。
【思念伝達】によって、カリナの思考が流れてきたのだ。
このスキルについては既に説明しており、思考が流れてきても無視するように伝えていた。
「てめぇだけは絶対に倒す」
「……俺は君になにもしていないだろう? そうかっかしないでくれよ」
「ミドみたいなこと言いやがる」
「あいつらからしたら仲間なんだろう。通りで鼻につくわけだ」
アントが遠慮なく引き金を引く。発動した魔法は『深淵大魔冥珠』。
それと同時に、フラムが駆け出した。
「教えてあげるよ。まず、俺に魔法は効かない」
エスが腕を振る。黒色の珠に触れた刹那、魔法は消滅した。
しかしダメージは入っているのがカリナの目に映った。
「痩せ我慢だ」
「いいでしょう、別に」
「うるせぇ口だな」
フラムは殺気に満ちた表情で、エスの頭部に斧を振るう。
戦闘中は常に笑顔を浮かべている彼女が、本気で攻撃をするのは初めてみた。
「次に、俺には物理攻撃も効かない」
フラムの攻撃を受けたエスは、怯むどころか不動だった。
体が固定されているかのように動かない。彼は斧を掴むと、顔から離す。
こちらも少量のダメージは入っていた。しかし本来のフラムの力を考えると、雀の涙である。
「っ!!」
「最後に、俺は常にダメージを回復している。よって受けたダメージは無に等しい」
「……カリナ」
「本当だね。一秒おきに回復している」
鯨ほどではないが、それでも少ない体力を満タンにするほどの回復が常にかかっているようだ。
エスは得意げに笑った。
「【魔力分散】【物理半減】【緩癒】と読んでいる」
「【物理半減】は僕も持っている。二番煎じだね」
「いちいち痛いところをつくなぁ。それ以外にもいろんなのスキルで自衛しているんだ。だから攻撃は基本効かないようになっている」
四人は彼の言葉を無視して攻撃を続けた。
フラムはこれまでの怒りを払拭するべく斧を振る。
「フラム! 魔法が来てる!!」
「クソッ、見えねぇんだよ!」
多少なりとも魔力の流れを感じるのか、急加速して避ける。
しかし魔撃は下位魔法。必要なMPも少なく連撃に向いていた。故に止まらない。
「いてぇ……カリナ、助けてくれ!」
「召喚。金剛スライム! フラムを守って」
『影狼』によって発動された透明の魔法は見えるようにはなるが、新たに生成された魔法は透明のまま。
金剛スライムはフラムの辺りを飛び回ると、魔法をその体で受ける。
「カリナ、俺にもよこしてくれ」
アントの近くにも召喚する。
彼の魔法の攻撃はエスに効果が少ないようで、アントは厳しい顔を浮かべていた。
「アタッカー二人が機能していないな。どう捉える? カリナ」
「まだ二人残ってるんですけど」
「【模倣】」
レッカが背後でスキルを発動した。
エスの表情が歪む。
先に入れ知恵しておいたのだ。彼女はレッカのスキルがこの戦いを制すると考えていた。
彼女の体の周りに文字が浮遊する。文字は彼女の体から離れていく。
「あ、あれ……!?」
「君に扱えるわけないだろう。そのスキルは『固有級』以上の性能なんだぞ」
カリナはエスがスキルを発動する瞬間を覚えていた。
手元で文字を集めていたのを覚えている。おそらくあの形が重要なのだ。
エスが安堵した表情で、レッカのそばまで走り出す。
「【鏡像】!!」
『鏡像』は対象と同じ行動を取るスキルである。
エスと同じ速度で走るので永遠に追いつくことはない。
しかし彼には魔法がある。
「【轟雷大魔雷線】」
雷の上位魔法。
黒雲が生まれて、雷撃が空間を裂く。
エレン以上の魔力操作。杖を使わずに魔法を放つ。魔力量はソートを超える。
彼にできないことはないようだ。
「【複製】」
レッカは自分を増やした。自分が狙われても主人格を変えて攻撃を避けることが出来るのだ。
エスが対象を見据える。
そのうちの一つが後ろを振り返り、立ち止まった。
「狙ってくださいってことかい? 【氷獄大魔凍撃】」
エスの魔法が躊躇なく放たれた。
先を走るレッカが振り向いて目を見開いている。
複製体が消える。しかし、立ち止まった複製体は消えない。
エスの魔法は複製体に直撃する。氷はレッカを覆い尽くし、肌を凍りさせた。
地面が凍結する、空気が氷って、音が途絶えた。
「【硬質化】」
「それはっ……」
複製体は互いの五指を合わせる。
彼女は呟いた。
「【模倣】」
そこにいたのはレッカではない。
【人格投射】を行った、カリナだ。
「君にはつくづく感動するよ!」
「【技能創出】」




