職業【遊び人】仲間のもとを尋ねる
「えっと……つまり私の『複製』を習得したいってこと?」
「う、うん……だめかな?」
「まさか!! 仲間のためならなんだってやるよ? 私は心の広い錬金術師だからね!!」
無銘舎の裏庭で二人は、スキル獲得ができないかと試行錯誤していた。
レッカはすぐに承諾してくれた。彼女が『複製』をカリナに使用する。
目の前には自分がいた。
「す、すごい……僕の分身がいる」
ゲームを初めた以来の自分の姿。
髪型は緑の短髪、肌はやはりきれいで、身長も伸びていない。身体的特徴に変化はなかった。
大きく変化したのはその中身。
強化ステータスが尋常なく多い。基本的なステータスはドベだが、今なら鯨の攻撃は余裕で絶えられるだろうし、虫なんて一撃だろう。
自分の姿に見とれていると、レッカが声を掛けてきた。ハッと目が覚める。
「他の複製体に切り替えられる?」
目を閉じて本体としたい分身を強く意識すると、視界が一瞬で変化した。
「なにこの感覚、酔いそう……」
「が、頑張って!!」
複製体は動作を延長してくれるようで、歩いている時に主人格を切り替えると、その分身体は歩いたまま動く。
無表情で歩く自分と並走する。
「僕、見た目は大人しいね」
「そう? サリアに溺愛されてるんでしょ……? 私は大人しいなんて思わないよ」
「そ、そっか……」
「まぁこの目だと結構見えちゃうしね」
レッカは自分の目を指指す。『鑑定』のことを言っているのだろう。
自分も体験したため分かるが、厚いハンバーガーを食べた気分になって息が切れた。
そんなこんなで複製体にも慣れていると、途端にスキル取得音が鳴る。
スキル取得
【分身】
「ゲットできた? ってあれ、複製じゃない」
「自分と同じ複製体を作成できるだって。ただ制約が多い。最大一体までだし、一時間に一回しか使えないや」
「まぁ分身の数は残機数だし、それくらいが限界じゃない?」
「残機数?」
レッカの説明では、カリナは残機が一つ増えた状態になったようだ。
自分を複製するメリットは、場所の移動が瞬時に行える点と、一体がやられても他の複製体が本体として生きる点であった。
「でも分身が何体も作れるとすれば、カリナは分身を置きまくれば無敵でしょ?」
「た、確かに……」
「一時間の時間制限も同じ理由だと思う。倒された瞬間に分身を作れば実質残機無限だしね」
「……でもレッカは時間制限もなければ、三体まで増やせるじゃん」
「カリナは『遠隔召喚』があるからそれが出来るけど、私の場合は場所の制限があるからね。離れ過ぎたら複製体はすぐに消えるよ」
初耳であった。
とにかくゲットできたスキルは『複製』ではなかったが、彼女の狙いとは外れていなかったためこれで満足する。
レッカに感謝を告げ、礼として様々なモンスターのドロップアイテムをあげると、目を見開いて感謝してくれた。
お互いに得をしたところで、『常連』で場所を移動する。
「魔物を自由に扱いたい?」
「うん、召喚出来るモンスターが増えたんだけど、全部を制御するのは難しいからさ」
「よく言うぜ。モンスターってのはいるだけで強いんだよ」
フラムは第六階層でボスを周回していた。
おそらくは新たなスキル獲得やレベル上げの理由があるのだろう。
一度は手こずった相手を難なく倒せるようになっており、カリナは彼女を称える。
「魔物の支配に理屈はないなぁ……何となくこうやって動いてほしいって思うだけだ」
触域葵禍樹
HP 300/300 MP 100/100
ボスの登場演出をかっ飛ばしてフラムはモンスターを召喚する。
召喚に応じたのは、迅来グリフォン。サリアに奇襲された時に狩っていたモンスターである。
「あれ? フラムってそのモンスター扱えたっけ?」
「私も強くなってんだよ。まぁおいおい説明するぜ」
フラムは口角を上げ、牙を覗かせた。
グリフォンは触手に対して、翼による打撃を与えていく。
「触手が多いよ……任せても良いんだよね?」
「当然だ」
フラムは再度モンスターを召喚する。
そこには五体のゴブリンに、五体の光晶兵。
それぞれが意思をもって打撃を与えていく。
「ほら、カリナも召喚だ!」
「え、えぇ……」
カリナは金剛スライムを五体召喚すると、魔弾を唱える。
「これが僕の出来る最大級だよ」
「モンスターに意識をするんじゃない。自分から攻撃を与えてもらうんだ。自衛だぜ?」
呪腕トロールまで召喚すると、カリナは目を閉じて戦い出す。
『生命感知』で敵の攻撃は分かるのだ、トロールやスライムに攻撃を任せると、途端に攻撃が止んだ。
「えっ!?」
「捉えた!!!」
フラムが既にボスに打撃を与えていた。
触手が消えて、フラムは笑う。
スキル取得
【自立戦闘】
「いいか? モンスターってのはもともとは私たちを攻撃してきてんだ。敵対する対象を変えるだけで、やってることは同じだ」
「魔王を自称するだけはあるね」
獲得したスキルは、召喚したモンスターが勝手に戦ってくれるようになるものだった。
カリナはフラムに礼として、モンスターのスキルをあげようとしたが、断られた。
それよりもフラムは戦闘がしたいらしく、そっとしておくことにした。
第七層へ向かうと、ある一人のプレイヤーの肩をそっと叩く。
その瞬間、魔法が直撃した。
「おぉ、躊躇いないね」
「か、カリナ? すまな……っあれ? こっちは……」
魔法を放った対象はカリナである。しかし目の前にもカリナ。
アントは頭が混乱する。
「ふ、『複製』か……驚かすな。あんたも獲得したんだな」
「そのどっちも本体じゃないって言ったら、驚く?」
「……」
アントの足元にスライムが一匹。それが意思を持って話しかけてきた。
口を開けて動かなくなる。
「あれ、アント?」
人間のほうのカリナが頬をツンツンと突くと、アントはハッとした表情で目を合わせた。
「なにが……起きている」
「モンスターを召喚してる時に『分身』して主人格を変えただけだよ」
生物に自身の主人格を映すことが出来る【人格投射】を獲得していた。
これでモンスターの数だけ残機が一時的に増える。しかしモンスターの体を借りているだけなので、本体の人間が倒されればモンスターもろとも消えるのだ。
スキル取得
【種族変化】
「あ、スキルゲットしたよ。自身の種族を任意に変更できるってさ」
カリナはスライムの体に主人格を映すと、人間になれと思考する。
すると、スライムの体はみるみる内に人間になる。
「じゃーん! 『種族変化』完了。この体のまま魔獣族になったりできるのかな?」
カリナはスキルの詳細を見て初めてこのスキルが『固有級』のスキルであることを認識した。
驚きと同時に、自分の頭の上に小さい耳が生え、鼻から牙が生えているのが分かった。
「なるほど、僕が召喚できるモンスターの種族になれるんだね。これは、飢餓イノシシかな?」
カリナがカリナの顔を見て話している、またしても動かなくなるアント。
「そうだ! アント、MPが貯蔵出来るスキルが欲しくて来たんだけどね! ん? アント?」
声を掛けて気がついたが、アントがニッコリと笑顔を浮かべてカリナを見つめていた。
彼が笑顔を浮かべているだけで違和感があるのに、今の彼の表情は全ての諦めた人の顔であり恐怖を感じた。
「また、今度に、するよ……」
「あぁ。カリナのためなら俺はなんだってするよ」
「あ、アント……キャラが……」
カリナは罪悪感を抱いてアントから離れることにした。
何となくスライムを一匹だけ残していった。『遠距離召喚』により階層が別でも召喚が継続される。
カリナが離れた瞬間にアントが呟いた。
「やっぱり、俺はあいつに敵わないな」
今すぐスライムに主人格を切り替えて抱きしめたくなる。
カリナはその感情を堪えて、スライムを消すのだった。




