職業【――】夢を語る
「ただいま戻りました。私です、ミドですぅ」
「また挑発したな」
「仕方ないじゃないですかぁ。私好みの少年がいたんです。あと、強そうな相手がいたのでぇ」
「それ、同感。オレも強い相手には本気で挑みたくなっちゃうな」
「馬鹿みたい。無駄なのに」
ツムギがつぶやくと、ミドが彼女の耳元で話し出す。
「今なんて言いました? 無駄と言いましたか? 私の行動が? あなたは一体なんのためにゲームを行っているのでしょうか。なにが楽しくて生きてるんですか?」
「やめてくれ、俺の妹なんだ。それまでにしてくれ」
「遺憾です。まるで私が面倒くさい女のようじゃないですかぁ」
「面倒くさい」
「んん?」
ミドが目を見開いてツムギを逃さない。しかし彼女は視線を逸らして対抗する。
苛立ちから謎のオーラを発するミドを他所に、ダリアは触手でミドを離した。
「私たちは仲間でしょう? じゃれ合うのは良いけど、度を超えては駄目よ」
「リーダーもなんか言ってくれよ、さっきから黙ってないでさ」
第十階層東、半壊した塔。
コンクリートでできた吹き抜けの建物で、四人はリーダーの言葉を待っていた。
黒髪に灰のメッシュが入っている。
緑のローブを正した彼は、清らかな声を発する。
「いいじゃない。みんな仲良くて」
「でも……」
「ナギは寡黙なチームを目指したいかい? それとも、ガヤガヤしているチームが良いかい?」
「俺は、自分が話すタイプじゃないから」
「それだよ」
エスは崩れた柱に座ると、足を組んだ。
「皆が自分のやりたいことをやる。それが良いと思うんだ」
「リーダーは素敵ね! オレみたいな異形頭を誘う人はひと味違うわ」
「間違いありませんねぇ。次はなにをしましょう。カリナのスキルを奪いに行きますかぁ?」
「俺達はヴィランになるつもりはないんだ。むしろ目指すのは勇者を支える村人Aさ」
「村人Sでしょう?」
「どっちでもいいさ。目指すは弱者救済。スキルを介して俺は皆を幸せにしたい」
その声に四人は癒される。
ミドはエスの隣に座る。目元は狂気的だが、エスはそれを否定することはなかった。
個の尊重。エスは人を貶さない。
「じゃあなにをしましょうかぁ」
「ミドは俺の目標を覚えているかい?」
「最多の幸福。私はあなたが神になると思っています」
「神は目指さないさ、すでにいるからね。でも最多の幸福はあっている。そのために俺はスキルの奪取と譲渡を目指してたからね」
「なら、なにを目指すんだ。話が長い」
ミドは軍服を睨みつける。ダリアがまぁまぁと宥めている。これが彼らの日常であった。
ツムギがミドとは反対の方に座る。
「私はゲームの目標である階層ボスの討伐を、効率よく進めたい」
「愚かです。ゲームは楽しまなければ意味がないでしょう?」
「どっちも言いたいことは分かるさ。でも俺は思う。階層ボスの討伐をするには、楽しまなければならない。楽しむためには、目標を決めなければならないってね」
ミドは幸福に満ちた笑顔を浮かべる。
花が触手でミドとエスの間を遮った。不服そうな顔を向ける。
「俺がしたいのは強さの分配。才能は社会に還元されるべきだと思わないかい?」
「どういうことなのよ」
「最初に目指すは、スキルを皆のものにすることさ。強さに極端な差があれば面白くないだろう?」
「強者は弱くなるべきってこと?」
「それは違う。弱者が強くなる手立てを持つことさ」
ツムギが頭をエスに預ける。
「むずかしい……」
「俺は同感だ。要は最適なプロセスを得て、全プレイヤーが順当に強くなれるんだろう?」
「あぁ。俺は全員が幸せになればいいと思うんだ。だから俺は【遊び人】に目をつけた」
「『遊び人』? なんで」
「これはスキルを生み出すことが出来る。これを使わない手立てはない」
「じゃあ俺達にアントやレッカを襲わせた理由は?」
「襲ったの? 駄目じゃないか。俺は彼らのことを学んでほしかっただけさ」
「それ先に言ってよ。私執拗に煽っちゃったよ」
ツムギはエスの方に頭を何度も当てる。
「お前、言いたくて言ったんだろ」
「お兄ちゃんは性格悪いね」
「聞いてたかい? 俺達は悪党じゃないんだってば」
「んー……」
あははと笑うエスに、ミドは頬を膨らませる。
「私はしっかりと自己紹介しましたのでぇ」
「しっかりと、ねぇ」
「文句があるならおっしゃってください」
「あははっ! 楽しいねぇ。俺が君たちに知ってほしかったのはね? 『アンノウン』がゲームのシステムに触れられる、最初のプレイヤーだと気づいたからなんだよ」
エスは立ち上がる。
窓の外には第十階層の賑やかな景色が映っていた。
たくさんの人が栄えて交流している。
「【遊び人】の可能性。マゼラン、隠してたな?」
四人はエスの後ろに控えると、次の言葉を待った。
それは開幕の音頭である。
始まるのは、弱者救済。エスは優しい笑顔を浮かべていた。




