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職業【先導者】新たな敵に心を削ぐ

フラム、コロン、ソロモンの三人は第十階層の町中を歩いていた。

街路は十層という深部であるにも関わらず、多くの人で賑わっていた。

それは、拠点作成による効果である。


「コロンが店を構えるなんて思ってなかったなぁ」

「そうか? トトが『選定者』になって更にアイテムの収集が楽になったんだろ? 俺でも店を開くな」

「いやいや、そうじゃない」


二人は疑問符を浮かべてフラムの方を見た。


「『エレメント』の三人に勘定が出来るタイプはいねぇだろ? だから無理って話だ」

「僕たちのこと、舐めてますね」

「俺はお前の味方だ。なにかあったら切ってやるからな」

「じょ、冗談だって!!」


コロンはフラムとソロモンに対してだけは自然と敬語を使うようになっていた。

仲間内では同い年ということもあり気軽に話している。また、コロンはそこそこの戦闘力を持っているため、他のプレイヤーは普通下手に出てくれる。

しかし彼らは別であった。

コロンは二人の風格に素直な敬意を示していたのだ。


「そういうのは僕の役割です。とはいってもここはゲームの中なので、僕らはアイテムを選択して売るだけですけどね」

「売って得た金はどうすんだよ、山分けか?」

「うーん……僕らはいつも一緒にいますし気にしたことはないです。それに、お金には困ってませんし」

「それ、前にも言っていたな。じゃあなんのためにやんだよ」

「その方が皆の役に立てるでしょう?」


コロンは何故そんなことを聞くのかと、不思議そうな表情で話す。

そんな彼を気に入っていた。フラムはなんとなくコロンの頭を撫でてやる。


「や、やめてください! もう子供じゃないんですから!」

「私からすれば子供みたいなもんだ!」

「俺は弟のように思えてきたな」

「ソロモンまで……そんなことよりも、さっさと行きますよ! この先の大通りを左に……」


コロンが口を閉ざす。フラムが一点を見つめて動かなくなったからだ。

ソロモンが続いて足を止めて、コロンはやっと、屋台の隙間でこちらをじっと見つめる不審なプレイヤーを見つけた。


「あぁいうのは大体奇襲だな。絶対にこっちから攻撃を仕掛けたら駄目だ。武器を握るなよ」

「わ、分かりました……」


距離にして十メートル。

フラムの勘に、動揺が隠せない。

そのプレイヤーは、目を見開いていた。ブラウンのカーディガンに白のワンピース、コロンは彼女を戦闘を行う人とは思えなかった。

整えられた茶色の髪は、緩やかに波打ちながら毛先だけがくるくると遊んでいる。どこか作為的で、触れれば絡め取られそうな質感だった。

それに気づいたのは距離が近づいていたから。すぐ目の前まで迫っているのが分かったから。


「っ……!!」

「私の仲間に手を出すんじゃねぇ」

「あらぁ、ごめんなさい。許可が必要でしたぁ?」


握られた拳は、コロンの眼前。

斧に遮られているのは、フラムが庇ったからである。

茶髪のプレイヤーは指をポキポキと鳴らす。コロンと目があった。

彼女の吸い込まれそうな目。瞳はひし形で、眼球は静止している。


「初めましてぇ。ミドです。コロンさんからスキルをいただこうと思いまして……駄目でしたぁ?」

「コロン、こいつは? 知り合いか?」

「し、知りません……初対面です」

「じゃあ、奇襲だな」

「冷たいですねぇ。まぁいいです。どうしてもくれないと言うのであれば、奇襲でもなんでもいいので、勝手に持っていきますねぇ」


ミドの顔から、表情が消えた。

目線は外れず、彼女の顔はすぐ目の前。

彼は『竜人化』を行いロングソードで防御を行うが、瞬く間に剣が砕けた。


「鉄製、か……舐めてますぅ? ここ、十層なんですが」

「お前の敵は私だ」


横に薙いだ斧は、的確にミドの首筋に対し垂直に振られる。

その攻撃は不発に終わる。彼女が素手で受け止めたからだ。


「っ!」

「ハハハ!! 今のプレイヤーの攻撃はこんなもんなんですかぁ!! クッ、フフ……ハハっ!」


ミドは大口を開けて笑う。

甲高い奇声に、フラムは眉間を寄せる。

背後で大剣を振りかぶったソロモンの方へ顔を向けたミドは、人差し指で挑発する。


「ほーらっ。攻撃は急所にあてるもんですよぉ?」


脳天を指さすミドに対し、見向きもしないソロモンの攻撃。

その威力と角度に違いはなく、頭蓋骨を砕くような悲鳴を上げた。

結果、砕けるのは、大剣である。


「……っ!! なに!!」

「ねぇ? 言ったでしょう? そこは急所じゃないので」


彼女はソロモンの懐に入る。上目遣いをするミドに、彼は動きを忘れる。

彼女の目線に魅了される。

状態異常でもスキルでもない。これはミド自身の魅力である。

攻撃を許す。

途端、ソロモンの影を、見失う。


「ソロモン!!」


体は屋台を砕き、建物を抉る。彼女の打撃は、ソロモンの腹部を穿った。

フラムは怒りから速度を増して、ミドに迎撃する。その攻撃は空振る。

振り返ると、地面に腹ばいになるコロンへ、またがるミド。首を握り、力を込めた。


「全然なってない!! 弱っちいですねぇえ! あぁ可愛い」


怒りに任せて攻撃を行う。ミドに斧が突き刺さる。だが効かない、ダメージがない。

斧は彼女に触れるが、反応はない。そして舞う、光の粒子。


「コ……」

「華奢なくびぃ。狙ってくださいと言われている気がしましたぁ。スキルはぁ、外れか……まぁいいですぅ」


ミドは立ち上がると画面を開いた。

コロンから得たスキルは何気のないものであり、興味を失う。

奇襲を行った罰として、全プレイヤーに名前と容姿が後悔されるが、彼女はそれを恍惚とした笑みで受け入れた。


「嬉しいですねぇ。私という存在が注目されている。それだけで私、心が踊る」


フラムは言葉を失う。

怒りを通り越した冷静。

倒さなければならない敵を目の前に、フラムは怖気づいた。


「あぁ、そうだ。忘れてましたぁ! あなたに伝えなければならないことがぁ、ひとつ」

「……」


掌を合わせて笑顔を浮かべるミド。

生唾の飲み込む。


「リーダーから言われまして、エスの仲間だと言えば分かる、と」

「……てめぇ」

「敵対する気なんてありません。あなた方と敵対するかどうかなど、些細な問題ですので」

「じゃあ、なにが目的だ?」

「最初に言ったじゃないですかぁ、コロンさんのスキルが気になったって」


嘘偽りのない語り。

違和感の正体は、敵対する意思がないこと。戦いと対立を一緒にしていない点であった。

小さく「自己紹介も兼ねてましたよぉ」と話しているが、フラムは聞こえない振りをした。

聞きたくない。声が嫌いになる。他人に対してここまでの嫌悪感を抱いたのは初めてであった。


「私は用事を終わらせましたので、お先に失礼しますねぇ。フラムさんっ」


ミドは振り返る。フラムはその姿を、追うことができなかった。


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