職業【天文学者】最強格と手打ちを始める
マゼランは魔撃を放った。
無属性の下位魔法のため、無詠唱で簡単に唱えられる魔法だ。
少女はそれを指を立てて発動していた。隣で二人が目を見開いている。
「ま、魔撃って無詠唱で撃てましたっけ?」
「僕の認識では不可能かと……いや、魔法専門職であれば可能かも知れませんが。だからといってそれを杖無しで唱えるのは……」
「さすが【天文学者】だねぇ! 魔法はお手の物かい?」
ブツブツと話す二人の声に反応するのはモザンであった。
幾本にも放つ魔力の線を、触れることによって破壊している。
彼の掌に触れた魔法は魔力を急激に失い、やがて発散する。しかしマゼランは臆することなくスキルを選択する。
「【白煌の直裁】」
マゼランの周囲を周回していた星は、指向性の光線を放つ。
その一撃は下位魔法の比にならない。しかしそれだけでは終わらない。
「【時間摩耗圏】」
少女の持つ星の一つ、【終焉星】はスキルや魔法の連発を可能とさせた。
時間の加速が可能なのだ。白銀の魔力線は数を増やす。
「だからこれ以上はやめようって言ってるだろう? 戦っても意味ないんだ」
「私に負けないとでも?」
「当然さ。君が勝つことはない。負けることもないんだけども」
モザンは背後へ下がりながら魔力を破壊していく。
【白煌星】による必中の攻撃は既に対処済みである。
そんな彼に嫌気が差すのはマゼラン。
「戦え」
「だから嫌だって!!」
マゼランは魔法を絶やさない。『白煌の直裁』を発動しながら走り出す。
金棒を担ぐと、モザンに打撃を与える。
「あっははは!! 流石にスキルを使わずに耐えるのは厳しい!」
無詠唱で杖を使わない魔法を扱いながら、スキルを発動しながら、金棒を扱う。
そんな荒業にさすがのモザンも呼吸を乱す。
焦った様子でワンドを取り出すと、金棒を受け止める。軽くいなしているが、その光景は異様である。
「マゼランの打撃は、大スライムを一撃で葬るほどの攻撃に成長しています。しかし、あれは……」
右手で魔法を破壊し、左手でマゼランの攻撃を受け止めた。
魔力の流れは苛烈を極め、広原一面が白銀に染まる。
しかし彼の周りの空間だけはまるで穴が空いたようだった。
「『深淵大魔冥珠』」
「魔力弾……忙しいねぇ!」
マゼランは一度の詠唱を終えると、闇の上位魔法を左手で連発させた。
もちろん杖はなく、二度目からの魔法に関して言えば、無詠唱であった。
稀に光の上位魔法を混ぜているのが、少女の強さの所以だ。
その攻撃には流石に堪えたのか、彼は一歩下がると、ワンドに魔力を込める。
「これは特別だからね」
「クッ……【予兆星】」
「【――】【――】【――】【――】」
次の瞬間だった。
音が、消えた。遅れて――空間が歪む。
一つ、二つと魔力が重なる。
数えようとした時には、すでに遅い。
雷が走る。その軌道をなぞるように炎が噴き上がり、さらにその奥から圧縮された魔力の塊が空間ごと押し潰す。
魔法が飛んでいるのではない。
空間そのものに魔法が押し出される。
「……っ!」
マゼランの体を、幾重もの魔法がすり抜ける。
裂ける風が金棒を削ぎ、奔流が空間を呑み込み、隆起した大地が足場を砕き、凍てつく氷がその全てを閉じ込める。
逃げ場はない。上下も、前後も、意味を失う。
ただそこに在るだけで、削られていく。
「戦いは終わりかい? 用が済んだのなら、僕は消えるよ」
魔法はまだ、増え続けている。間が存在しない。
ただ、発生し続ける。
「……」
マゼランは宙に浮いたまま、その現象を見つめていた。
奇跡か偶然か、クレートとサリアには攻撃が一つも当たらない。
それは糸を通すようで、故意だとするなら神業である。
「貴様、本当に戦わないつもりか」
「あぁ、本当だとも。このままだと君はずっと戦いを挑むだろう? だから僕は逃げさせてもらうよ」
「だめだ、まだ話すことがある」
モザンは少女をじっと見つめる。
マゼランは逃げられる危険性を案じて、言葉を紡いだ。
「【始原――
モザンの姿が消えた。
「駄目……か」
マゼランは地上へ降りる。
そこでは、二人が体を震わせて、腰を抜かしていた。
「どう感じた」
「お、お強いですね……」
「モザン、やばいです」
「そういうことが聞きたいんじゃないんだ」
マゼランは手を引いて二人を立たせた。
「僕は、悪意がないように感じました」
「私も。彼が本気ならば、既に彼自信が動いてるでしょう。それをしないということは、彼がエスを信じているという理由に他ならないかと」
「そうだろうな。私も同意見だ。だからこそ嫌なんだ……」
金棒をインベントリにしまい、切り株に立てかけられた釣り竿に触れた。
それは、触れた瞬間に粉々に砕ける。
「問題が起きなければいいんだがな」




