職業【核操者】鑑定結果は不明
「どうして僕を巻き込むんですか……」
「クレートの力が必要なんだ。そこら辺をうろついているのが悪い」
「そうですよ! 『キティー』といえば言わずと知れた影のプレイヤー。そんな人が九階層なんかで呑気に散歩なんて馬鹿です!」
「ば、馬鹿はひどいですよ!!」
サリアの言葉に過剰に反応する。
マゼランは二人の会話にため息をつく。双方から毒づく声にたまらず耳を押さえた。
第九階層は、一から八階層のそれぞれの要素が詰め込まれていた。
空を見上げれば鳥型モンスターが羽ばたいており、地面にはスライムや魔獣族、少し離れたところには海があり、地下には神殿が広がっていた。
そんな中、彼女らは森を抜けた先の広原にいた。
静かな森林、水のせせらぎに心が落ち着く。
最奥へ向かうと、プレイヤーが一人。渋い顔で釣り針についた餌を凝視していた。
「会いたかったぞ、モザン」
「……ん? 久方ぶりのお客人だね。初めまして」
「初めてではない。私を覚えていないのか」
「おぉ! その角はマゼラン! 後ろの二人は初めて……だよね?」
サリアはそのプレイヤーを前に緊張を露わにする。先に話を聞いていたからだ。
その話とは、彼がマゼランやラトラスに続く最強格であると。また、彼には特別な力があると。
クレートはそれ以上に気になる点があった。
(モンスターがこっちを見てる……)
モザンは川のそばにいたが、その付近にはモンスターの足跡がいくつも見られた。
少し離れた位置で様々なモンスターがこちらをじっと見つめている。
まるでモンスターの飼い主のようだ。何気なくモザンに【鑑定】をしてみた。そして、目を見開く。
鑑定結果は、『不明』。クレートには彼の存在がマゼランの話以上のものであることを、この一瞬で理解した。
そしてそんな当人は、ヘラヘラと笑って話し出す。長い髪をまとめて後ろで結ぶ。
「そっちの『弓士』はサリアさんね。隣は、おぉ! 『キティー』のクレートさんだね!! 種族『人工生命体』って、誰かに作ってもらったの?」
二人は警戒する。攻撃の準備を始めるが、モザンはそんな二人を他所に首を傾げていた。
しかしそれをマゼランが制する。
「こいつはモザン。生産職で『目がいい』から隠し事はできないんだ。先に言っておくべきだったな」
「あー、ごめんごめん。癖なんだ、人を疑うのは悪いことだよね」
モザンは釣り竿を切り株の立てかけると、腕をヒラヒラさせた。
彼は高身の青年であった。
飾り気の少ない中華風の軽装。立ち襟の上衣に、風をはらむ白い灯籠ズボン。
クレートは目を凝らしてみる。
「角ですか? 鹿みたいな……」
「これ? 僕の種族は『嵌合獣』なんだよねぇ。んでこれはただの角じゃないよ。なんと木製!」
モザンは頭を振って角を見せつけた。
彼の姿は様々な小動物の特徴を合わせたようだった。
白い長髪は腰まで伸びて、風になびいていた。
顔は人なのに、耳は横に長いし、ふさふさの長い尻尾が生えている。
「それでなんのようだい? 三人なんかで物騒だよ?」
「茶番は良いだろう。エスの話だ」
「そうだと思った。なにが聞きたい。僕はさほどいい情報を持っていないよ」
釣った魚や素材をまとめていた。
近くに置かれていた木の棒のようなワンドを、ズボンと腹の間に挟む。
「なぜエス側についた? 貴様は皆と敵対するつもりか?」
「僕のことかい? それにエスについたってのは心外だな。僕は僕の意思でエスに話に乗ってやってるだけさ」
モザンは立ち上がるとじっとこちらを見つめた。
サリアはメデューサであることを忘れて目を逸らす。
彼の目になにが映っているのか、想像するだけで怖い。
「彼は弱者救済を掲げていた。それも心の底からだ。自分の損得を考えずに行動する彼に、僕は心を惹かれたんだ」
「どういう話をされた」
「少しややこしいんだけどね? 要はスキルを持たないプレイヤーにスキルを与えるんだ。平等にね」
モザンは右上の方を見ながら話し出す。
「プレイヤーの中には、スキルを簡単に作り出すことが出来る人がいるだろう? 例えば――」
「【遊び人】だな」
「そうだね、『カリナ』……だっけ? そういうプレイヤーから、報酬と引き換えにスキルを受け渡す。そうすれば、スキルが手に入りづらいプレイヤーが得するって話さ」
「カリナ本人はどうなんだ」
「報酬と引き換えだって言ったでしょ? まぁそれは要相談さ。もちろん彼女の望むものと引き換えに、だよ。【遊び人】に限らないしね。他にも【選ばれし者】や【天文学者】とか、スキルを創造する職業は多い」
「……」
マゼランは残酷な目をしていた。呆れてものも言えないのだ。
サリアは仲間の意思に同調し、長い髪を避けて、モザンの目を見つめる。指先が震える。
「ま、まってよ。僕は戦わないよ? それに戦う通りもないだろ?」
「私にはある。今すぐにその作戦をやめろ。もう二度とカリナの名を出すな」
「それは利己主義ってもんだよ……僕はなにか気に触ることをしたかい? 謝るからさぁ」
モザンに悪気はない。それは見に見えていた。
だがマゼランの意思は揺らがない。その作戦が結果として、一部のプレイヤーの不幸を招くことを理解しているからだ。
「争いの種になるとは思わないのか」
「僕は性善説のほうが好きなんだ。それに、なにかあれば【勇者】が止めに来るだろう」
「その前に、私が止める」
「【狼狽】」
マゼランが星を纏ったのが合図である。サリアの目が赤く光った。
星が瞬くと、その一つがレーザーを発生させる。
その星の名は【白煌星】、レーザーの正体は、必中の光線である。
「……」
その攻撃を与えて、マゼランはひどく落胆した。
結果は見えていた。だが、なぜこんなことが可能なのか、理解できない。
「クレート」
「核の反応はありません。これは……」
「だから僕は性善説を信じるんだ。こういう荒業は見なかったことにするんだよ」
サリアの『狼狽』は相手のスキルや魔法を無効化させることができた。
つまり、今モザンが無傷でその場に立っているということは、スキルや魔法とは別の力ということになる。
「僕、戦うつもりないからね」
「駄目だ、私は逃さんぞ」
マゼランは金棒を取り出すと、小さく呟いた。
「本気で相手をする」




