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職業【遊び人】新緑に囲まれ心落ち着く

 アンノウンの四人は第十層にいた。

 ここでは他の階層のようなモンスターの自然湧きが行われない。その本質は拠点である。

 十層にはいくつもの建物が存在する。それらを自分の拠点にすることが出来るのだ。

 四人はその拠点探しのために森を歩いていた。

 アントを戦闘にレッカ、フラム、カリナが後ろについていく。


「アント、大丈夫……?」

「あぁ、安心しろ」

「う、うん……」


 レッカとアントが襲われたことは、既に周知済みである。

 だがレッカはその話題を出すことを恐れていた。

 それは言い合いになりたくない、臆病な彼女なりの配慮なのだ。

 アントは先程から目が鋭いし、腕が震えている。

 殺気が溢れて怖いのだ。


「仕方ないことだ。私たちは強いと言っても、全てランキング通りになるとは限らない。もっと強くなってやるんだ、そんでコテンパンにやり返そうぜ」

「そうだよ二人とも、復讐に燃えるよりのも、怯えるよりも、まず先に対策を考えなくちゃ」

「言ってることが真逆だよ……」

「まぁ、らしいといえばらしいな」


 アントはクスリと笑った。

 カリナとフラムが二人のために声を掛けてくれる、その事実が嬉しいのだ。自然と肩の重荷が降りる。

 レッカもそれを見て、口元が綻んだ。

 小鳥たちもさえずりながら、レッカの周りを飛び回り始める。


「それよりも、カリナが無詠唱魔法を唱えたってほんと!?」

「なっ! そ、それは本当か……!?」


 アントが足を止めて振り向いた。レッカが勢い余ってアントの銃に頭をぶつけた。

 レッカに怒られて彼は渋々前へと進む。


「無詠唱魔法ってなんだ?」

「無言で魔法が飛んでくる、どうだ? 分かるか」

「あー、まぁ、何となく? 要は回避ができない攻撃ってことだろ?」

「それだけじゃねぇ。詠唱ってのはな、今から撃つぞって宣言してるようなもんだ」


 アントは指を鳴らす。


「普通はこの間に潰せる。避けることもできる。だろ?」

「あぁ、私とアントの距離からすれば、一秒もあれば首が取れるな」

「怖いことを言うもんだな……だが無詠唱は違う」


 一拍置いて、低く言う。


「考えた瞬間に、もう撃たれてる」

「ほう……そりゃ強い。私にターンが回ってこねぇのか」

「すごいよね! カリナはそれを撃ったんだよ!」


 三人の会話にフラムは疑問符を浮かべていた。

 カリナに目を合わせると、小声で話し出す。


「強いのは分かるが、なにがすごいのかが、分からねぇ」

「聞こえてんぞ」

「わ、わりぃ……」

「いいか、魔法ってのはそれぞれにMPの容量があってな?」

「や、やめてくれ。難しい話はこりごりだ」

「そうだな……じゃあコップを想像しろ」

「コップ?」


 フラムは頭にガラスのコップを思い浮かべる。

 レッカとカリナもつられて考える。


「その容器に魔力と言う名の水を注ぐ。並々まで注げたら、魔法が発動する」

「ほぅ! それなら簡単だな、私も同じ感じで魔法を使ってるぜ!」

「だがそれだけじゃ駄目だ。魔法ってのは種類によって容器の大きさが変わる」

「火球なら少し。ヘルファイア? ならものすごくだろ!」

「あぁ。下位魔法はおちょこだ。そして上位魔法はお風呂だ」


 アントはあえて極端に話す。


「おちょこの並々は簡単だろうが、お風呂の並々は難しいのは分かるか?」

「お風呂だと揺れるもんな!」

「そうだ。それに風呂にゆっくり水を入れてたら時間がかかるだろ?」


 カリナはソートからの話を思い出していた。

 魔法はイメージと聞いたが、MPとイメージが直結しないと駄目だとも言っていた。

 イメージと計算の両方が正しくないと、魔法は正しく撃てない。それを理解しているからこそ、アントの言葉に頷ける。


「そこまではイメージ出来るな! それで、無詠唱魔法ってのはなんなんだ」

「それを、目を瞑って行うのが無詠唱魔法だ」

「ま、まじか!?」

「詠唱を行えば許容量が増えるし、武器を使えば水は揺れない」

「つまり無詠唱、杖無しの魔法が最強ってこと?」

「あぁ、それこそ神業だ。それができれば他はなにも要らねぇだろうがな」


 アントは笑って話す。

 フラムは自分の仲間がそんな神業の一端に触れたことが嬉しかった。

 カリナと無理やり肩を組む。


「さすが私の相棒だぜ。カリナにできねぇことはない。いつかその神業も、できちまうだろうなぁ!」

「おだてないでよ、本気で目指しちゃうよ……?」

「バカなこと言うな、それは俺の役目だ」

「もう! 急に止まらないでって!」

「お、おう……すまん」


 アントが謝ると、レッカが眩しい笑顔を向ける。

 草木が減って、小鳥のさえずりが聞こえ始める。


「ほら! ついたよ!!」


 暗い森を抜けると、そこには木漏れ日が指す広場があった。

 その中央には小さな学舎。木製の建物が静かにそびえ立っていた。


「今日からここが私たちの拠点」

「なんでここに建物があるって知ってたの?」

「そりゃ拠点が作れるってなったからね! 十層を一通り見て回ったんだよ!」

「さすがは我らが錬金術師様だな。ここでなら充分魔法の練習が出来る」


 自然に囲まれた拠点。

 日当たりもよく、心が落ち着く。

 四人はそんな雰囲気に魅入られいた。


「名前は付けるのか?」

「当然だろ! カリナ、出番だ!!」

「ぼ、ぼく!?」

「名付けといえばカリナだな」

「だろ!? 私の相棒は名付けの才能が皆無だからなぁ!!」


 四人は学舎の中を覗いた。カリナは頭を捻る。

 新緑に包まれる学舎。

 崩れそうな灰色の屋根。スムーズにあかない扉。

 クモの巣の張った部屋。くたびれた雑巾が飾られた鉄製のロッカー。


「『無銘舎(むめいしょう)』なんてどう?」

「ほう、その心は?」

「僕達はこれから成長していく。その過程をここで過ごす。共に成長する拠点として、ここは僕たち『アンノウン』と同じ意味である『無銘』を付けて『無銘舎』。どう?」

「……」


 カリナは教卓で言い放った。

 机の上であぐらを組むフラム。椅子に行儀よく座るレッカ。窓枠で外を眺めているアント。

 三人は彼女の話を聞いて、静かに頷いた。


「やっぱり、なに言ってんのか分かんねぇな!!」

「そうかな? 私は良いと思ったよ! さすがカリナだね! 素敵だよ」

「あぁ、俺も少なくとも気に入ったぜ。今後はこの『無銘舎』に集合だ。いいな?」

「もちろん!」


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